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今度は三国志の真っ只中にいます  作者: 水原伊織


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25/29

25.洛陽崩壊、涿郡興る──そして長安は戦の都となる

ようやく虎牢関を抜き、洛陽へ到達した連合軍は、その光景に言葉を失った。


洛陽の街は、すでに“人の都”ではなかった。

遷都に遅れた民が喰われ、街路には無数の死体が積み上がり、異形の群れが蠢く。

そして異形たちは、都の中央にそびえる巨大な“塊”へと列を作り、まるで吸い込まれるように消えていく。


その“塊”は脈動し、まるで洛陽そのものが呻いているかのようだった。


袁紹は蒼白になり、馬上で震えた。

「……これが……洛陽なのか……?」


曹操は拳を固く握りしめ、唇を噛んだまま、ただ前を見据えていた。

「……遅かったか。」


連合軍の兵たちは、槍を握る手すら震え、誰一人として前に進めなかった。

あれほどの軍勢をもってしても、この地獄絵図の前では、手も足も出ない。


ただ、異形が都を喰い尽くす音だけが、静まり返った洛陽に響いていた。


----


涿郡は、もはやかつての静かな郡城ではなかった。

虎牢関の戦いから数ヶ月。


異形の脅威が各地で増す中、人々は“安全な土地”を求めて北へ北へと移動し、

最後に辿り着くのが――神軍の本拠地、涿郡だった。


異形を討つ軍がいる。

その軍の長は、廠という男だ。

その噂は、乱世を彷徨う民の希望となり、涿郡は瞬く間に人で溢れた。


街は膨れ上がり、周辺の村々は次々と涿郡の傘下に入った。

今では涿郡周辺一帯は、実質的に張世平―いや、廠の支配下にあった。


だが、この世界の廠は政治にまで手がまだ回らない。

商人である張世平も、政治は不得手だ。


結果として、涿郡の政治はすべて織が取り仕切ることになった。

織は街の拡張を慎重に進め、無秩序な人口流入を抑えつつ、水路、倉庫、兵舎、工房、農地を整備していった。

涿郡は、乱世の中で秩序が保たれた土地となった。



神軍は、今や一万の兵力を持つまでに成長していた。

だが、その内訳は他の軍とはまったく違う。


一万のうち、八千以上は、開墾・建設・治安維持に従事する兵であり、異形に荒らされた土地を耕し、

新たな住民の家を建て、街道を整備し、街の治安を守る。

彼らは戦う兵ではなく、支える兵だった。


一千は歩兵であり、異形との戦闘に備えた精鋭で、彼らの役目は主に紅陽の騎馬隊の補助である。


そして、中核となるのが、紅陽率いる五百騎の騎馬隊で、神軍の象徴だった。

異形を討つためだけに鍛えられた、最強の五百。

彼らは廠の命令ひとつでどこへでも駆け、異形の群れを切り裂く“神の牙”だった。

この五百騎こそ、虎牢関で呂布と肩を並べて竜を討った精鋭である。


織は、涿郡の急激な発展を前にしても、決して浮かれなかった。

「街は広がれば広がるほど、守りづらくなる。

異形は人の集まる場所を狙う。だから、無秩序な拡張は絶対に避ける。」


織はそう言い、街の区画整理、人口管理、食糧備蓄、さらには周辺村落との連携まで、

すべてを計画的に進めていた。


廠は政治を織に任せ、

自らは異形の動向を読み、紅陽と紅仁を鍛え、

神軍の“牙”を研ぎ続けていた。

涿郡は、廠の武と、織の知と、民の力で支えられた、もう一つの国となりつつあった。


----


長安の城壁は、涼州の荒野で鍛えられた兵たちによって固められていた。

虎牢関から撤退した董卓軍は、すでに次の戦いに向けて動き始めていた。


董卓は軍議の席で地図を広げ、静かに言った。

「異形は、必ず来る。」


その声には、洛陽を捨てた男の迷いはなかった。

むしろ、異形との戦いに備えるためにこそ、長安を選んだのだ。


董卓は涼州で何度も異形と戦ってきた。

その経験から、彼は異形の“法則”を見抜いていた。


異形は無限に湧き、その場の人間を喰らい尽くすまで止まらない。

だが、その群れを一定数減らすと巨大な個体が現れる。

その巨大個体を倒せば、その場の異形は消える。


董卓はその法則を軍に叩き込んだ。

「群れは兵で削る。大きな個体が出たら、奉先、お前が倒す。」


呂布は戟を肩に担ぎ、短く頷いた。

「任せろ。」

董卓軍は、異形との戦い方を知る“数少ない軍”だった。


世間では、董卓は“帝を操る暴君”と噂されていた。

だが実際は、献帝に頼まれて動いていた。

十常侍の誅滅も、遷都も、すべては“異形から帝と民を守るため”だった。


もちろん、董卓はただの善人ではない。

使えるものは何でも使う。


権力も、帝も、呂布も、涼州兵も。


だが、その根底には、涼州で見た地獄があった。

「異形は、国を滅ぼす。人の争いなど、異形の前では塵にすぎん。」

董卓はそう言い切った。


長安の空は曇り、風は冷たかった。

だが、董卓軍の士気は高かった。

そして董卓は、その最前線に立つ覚悟を決めていた。

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