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今度は三国志の真っ只中にいます  作者: 水原伊織


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21.江東の虎、汜水関を裂く――そして影で蠢く異形

汜水関に向けて、諸侯の軍勢が続々と集まりつつあった。

袁紹の旗が最も高く掲げられ、その下には曹操、孫堅、劉備らの軍が並ぶ。

董卓を討つため、後漢の名を掲げた連合軍が、いま歴史の表舞台に姿を現そうとしていた。


だが、涿郡の神軍本陣は、喧噪とは無縁の静けさに包まれていた。

張世平の離れに設けられた作戦室では、間者たちが持ち帰った情報が次々と置かれていく。


「汜水関には李傕・郭汜の軍勢が布陣。董卓は長安への遷都を急いでいるようです」

「連合軍は袁紹殿を盟主に、まもなく進軍を開始するとのこと」


紅陽は腕を組み、険しい表情で地図を見つめた。

紅仁は槍を膝に立て、静かに廠の言葉を待っている。


廠は窓の外に目を向けた。

夕暮れの空は重く、どこか不吉な色を帯びていた。


「…汜水関で大きな戦になる。間違いなく、異形が現れる」


紅陽が息を呑む。

「やはり…あの規模の戦なら、冀州の時と同じく」


「いや、もっと酷いだろう」

廠は静かに言った。

「董卓軍も連合軍も、互いに憎しみを抱えている。人の怨念が渦巻けば、異形は必ず増える。

だが――俺たちはどちらにも加担しない。神軍は“人を救うために人を殺す軍”じゃない」


紅仁が槍を握り直し、深く頷いた。

「では、我らは……異形の出現地点を先回りして討つ、ということですね」


「ああ。戦場の裏側で動く。

連合軍が勝とうが、董卓が逃げようが、俺たちの役目は変わらない」


廠は地図の一点を指で叩いた。

汜水関の北側、山間にある細い谷――軍勢が通らぬ獣道。


「ここだ。異形はおそらく、この谷に溢れる。

戦場に向かう兵の恐怖が集まる場所だ。

俺たちはそこで迎え撃つ」


紅陽は目を見開き、すぐに笑みを浮かべた。


「……なるほど。誰も気づかぬ場所で、神軍だけが戦うわけですね」

「そういうことだ」


廠は立ち上がり、外套を羽織った。


「行くぞ。汜水関の戦いが始まる前に、俺たちの戦場を片付ける」


紅仁と紅陽が同時に立ち上がる。

その背筋には迷いがなく、ただ廠の言葉を信じる強さだけがあった。

こうして、反董卓連合が歴史に名を刻むその裏で、誰にも知られぬもう一つの戦いが、静かに幕を開けようとしていた。


----


汜水関の山々は、朝霧に包まれていた。

連合軍の陣営では、兵たちが槍を握りしめ、遠くに見える董卓軍の旗を睨みつけている。


その前列に、赤い甲冑をまとった一軍が静かに並んでいた。


孫堅――江東の虎と呼ばれる男の軍勢である。

「李傕・郭汜の守りは堅い。だが、突破できぬ壁ではない」


孫堅は馬上で短く言い放つと、剣を掲げた。

その声は、兵たちの胸を震わせるほどの力を帯びていた。


「――進め!」

鬨の声が山を揺らし、孫堅軍が一気に駆け出した。


汜水関の上から、李傕が怒号を上げる。

「来たぞ!孫堅の奴め、正面から突っ込んでくるとは!」


郭汜が弓兵に命じる。

「射て!射てぇい!」


無数の矢が空を覆い、孫堅軍の頭上に降り注ぐ。


だが、孫堅は怯まなかった。

「盾を上げろ!そのまま前へ!」


重盾兵が矢を受け止め、歩兵がその影に続く。

孫堅軍は、まるで一つの巨大な獣のように前進を続けた。


----


やがて距離が詰まると、孫堅は馬を跳ねさせ、真っ先に敵陣へ飛び込んだ。


「董卓の犬ども、覚悟せよ!」


剣が閃き、李傕軍の兵が次々と倒れる。


その勢いに郭汜が青ざめた。

「な、なんだこの突進力は……!」


孫堅軍は左右からも攻め上がり、李傕・郭汜の陣形はみるみる崩れていく。


李傕が叫ぶ。

「退け!退けぇい! 孫堅には勝てん!」


郭汜もまた、混乱の中で馬を返した。

汜水関の守りは、ついに破られた。


孫堅は剣を掲げ、勝鬨を上げる。

「汜水関、突破!」


連合軍の陣営から歓声が上がり、袁紹の幕舎にもその報せが届いた。


----


汜水関の戦いが始まる前、連合軍の陣営では諸侯たちが互いを牽制し合っていた。


袁紹は盟主としての威厳を保つことに腐心し、

袁術は兵糧を盾に発言力を高めようとし、

公孫瓚は劉備を通じて中央での立場を固めようとし、

曹操は檄文の効果を見極めながら、次の一手を探っていた。


誰もが“董卓討伐”を掲げながら、同時に“自分の利益”を計算していた。


ただ一人――孫堅を除いて。

孫堅は董卓の暴虐を聞いた瞬間から、

「許せぬ」

という感情だけで動いていた。


その怒りは、兵たちの胸をも燃やし、

汜水関の堅固な守りを正面から打ち破る原動力となった。


----


汜水関が破られた報せは、連合軍の陣営に衝撃を与えた。


「孫堅が……突破しただと?」

「正面から? あの守りを?」

「やはり江東の虎か……」


諸侯たちがざわめく中、孫堅はすでに次の行動を決めていた。

「董卓を討つ。そのために汜水関を破ったのだ。

ならば、次は虎牢関だ。」


彼の目には、名声も、地位も、駆け引きも映っていない。

ただ董卓を討つという一点だけが、彼の進む道を照らしていた。


孫堅軍は休む間もなく進軍を開始する。

兵たちは疲れていたが、その背中には迷いがなかった。

「我らは殿に続くのみだ!」

江東の軍勢は、まるで炎のように虎牢関へ向かって駆けていく。

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