2.時間停止チートで婿取り試合を制し、最愛の彼女を取り戻す
張世平の屋敷に向かうと、すでに人だかりができていた。
庭の中央には簡易の土俵のような円形のスペースが作られ、その周囲には腕自慢の男たちがずらりと並んでいる。
(……なんだよ、この“婿取りトーナメント”みたいな空気は)
張世平が壇上に立ち、腹の底から声を張り上げた。
「よいか! わしの娘を娶りたい者は、ここで勝ち残れ!
最後まで立っていた者を、娘婿として迎え入れる!」
男たちがどっと沸いた。
「おおおおお!!」
「張家の娘は絶世の美女らしいぞ!」
「婿入りすれば一生安泰だ!」
廠は眉をひそめた。
(……絶世の美女? いや、そんな情報、史書に載ってなかっただろ)
だが、張世平の背後に控える私兵たちを見た瞬間、廠の表情が変わる。
(……あいつら、普通の商人の護衛じゃねぇな。鍛え方が違う)
異形を倒すには、どうしても戦力が必要だ。
一人で戦うには限界がある。
張世平の私兵を味方につけられるなら、これ以上の近道はない。
(……参加するしかねぇか)
廠は列の最後尾に並んだ。
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最初の相手は、丸太のような腕をした大男だった。
「若造、すぐ終わらせてやる!」
廠は木刀を構えた。
相手が踏み込んだ瞬間、念じただけで、風が止まり、砂埃が宙で固まる。
(……やっぱり使えるな、時間停止)
廠は相手の木刀を軽くずらし、自分の木刀を相手の腹に添える。
そして、時間を動かす。
「ぐふっ!!」
大男はそのまま崩れ落ちた。
観客がどよめく。
「なんだ今の速さは!?」
「見えなかったぞ!」
廠は淡々と次の相手へ向かう。
(…作者、チートありがとよ)
【だって、お前主人公じゃん】
(だから、出てくんなって)
二回戦、三回戦、四回戦。
廠はほとんど汗もかかずに勝ち上がっていった。
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決勝戦の相手は、街で“最強”と噂される男――凱だった。
背は高く、腕は太く、目つきは鋭い。
周囲の観客が息を呑む。
「凱が出てきたぞ……!」
「若造、ここで終わりだな」
「凱は本物だ。あれに勝てる奴はいねぇよ」
廠は木刀を肩に担ぎ、軽く首を回した。
(……まあ、普通なら勝てねぇだろうな)
凱が一歩踏み出した瞬間、地面がわずかに震えた。
その気迫だけで、周囲の空気が重くなる。
「若造。ここまで勝ち上がったのは褒めてやる。だが――」
凱が木刀を構えた。
「ここで終わりだ!」
観客が息を呑む。
張世平が身を乗り出す。
凱が地を蹴った瞬間――廠は念じた。
世界が止まる。
風が止まり、砂埃が宙で固まる。
凱の突進も、木刀の軌道も、すべてが静止した。
(……悪いな。お前、強いんだろうけど)
廠は凱の背後に回り、木刀を軽く肩に当てた。
(俺、三つの人生分、修羅場くぐってきてんだわ)
時間が動き出す。
「……え?」
凱は気づいたときには、もう負けていた。
膝から崩れ落ち、土を握りしめる。
「な……なんだ……今の……」
観客が爆発した。
「勝ったぞ!!」
「若造が凱を倒した!!」
「見えなかった! 一瞬だったぞ!!」
廠は木刀を下ろし、軽く息を吐いた。
(……作者、チート盛りすぎだろ)
【主人公補正ってやつ】
(だから出てくんなって言ってんだろ!!)
張世平が壇上に立ち、両手を広げた。
「勝者―廠!!」
歓声が響き渡る。
その瞬間、屋敷の奥から静かな足音が聞こえた。
白い衣。
凛とした瞳。
どこか懐かしい気配。
廠の心臓が跳ねた。
(……まさか)
少女がゆっくりと歩み寄り、廠の前で立ち止まる。
そして――微笑んだ。
「……廠」
その声を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなる。
(……織……!)
張世平が満足げに笑った。
「こやつが、わしの娘じゃ」
廠は天を仰いだ。
(…ほんとにすぐ会えた)
織はそっと廠の手を取った。
「また……会えましたね」
廠は、言葉にならないまま頷いた。
夕日が差し込み、二人の影が重なった。




