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今度は三国志の真っ只中にいます  作者: 水原伊織


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15/19

15.涿郡帰還――再会の夕餉と、語られた真実

劉備軍と共に街道を進むうち、兵たちの表情にも少しずつ安堵が戻っていく。

冀州の地獄を生き延びたという実感が、ようやく胸に落ちてきたのだ。


劉備が廠の横に馬を寄せる。

「廠殿。涿郡に戻れば、しばし休めましょう。

私の生家もこの地にあります。義勇兵たちも、そこで再編できます。」


廠は頷いた。

「劉備。お前たちが来てくれなければ、俺たちは……本当に終わっていた。

恩は忘れない。」


劉備は柔らかく笑った。


「困った時はお互い様です。

また力を貸し合いましょう。」


やがて街並みが見え、涿郡の門が開く。

戦場とは違う、穏やかな人々の声が聞こえてきた。


----


涿郡の中心で、廠と劉備たちは一度別れることになった。

関羽は静かに礼をし、張飛は豪快に笑いながら廠の肩を叩いた。


「廠! また一緒に暴れようぜ!」

「……ああ。次はもっと強い敵が来るかもしれないがな。」

「望むところよ!」


劉備は深く頭を下げた。

「廠殿。あなたの戦いは、必ずこの乱世を変えます。

また会いましょう。」


廠は頷き、紅陽・紅仁と共に張世平の屋敷へ向かった。


----


屋敷が見えてきた頃、廠は歩みを緩め、二人に向き直った。

「…紅陽、紅仁。言っておくべきことがある。」


紅陽が眉を上げ、紅仁は静かに耳を傾ける。

「かつて、張皇后であった織。俺の愛する織は、張世平の娘として生まれ変わっている」


紅陽は目を見開き、紅仁は驚きに息を呑んだ。

「……殿。それは……本当ですか?」

「ああ。間違いない。あの目も、声も、気配も……全部、織のものだ。」


紅陽はしばらく黙り、そしてぽつりと呟いた。

「…なら、かすみも…」


廠は紅陽を見た。

「…見つかっていないのか?」


紅陽は苦笑し、しかしその目はどこか切なかった。

「…ああ。ずっと探している」


紅仁が優しく頷く。

「兄上と私も記憶が戻ってからは、兄上は殿とかすみ様をずっと探していたんです」


紅陽は照れくさそうに頭をかいた。

「まあ……そんなところだ。」


----


屋敷の門をくぐると、廊下の奥から軽やかな足音が近づいてきた。


「お帰りなさいませ、廠様!」

明るい声とともに姿を現したのは―かすみだった。


紅陽はその場で固まった。


かすみもまた、紅陽を見て目を丸くする。


「…紅陽…?」


次の瞬間、かすみは駆け寄り、紅陽の胸に飛び込んだ。


「紅陽!無事だったんですね…!ずっと…ずっと…」


紅陽は驚いたまま動けなかったが、やがて震える手で、そっとかすみの背に腕を回した。


「…会いたかった。本当に……会いたかったんだ…」


その声は、戦場では決して聞かせないほど弱く、

しかし誰よりも強い想いに満ちていた。


かすみは涙を流しながら、紅陽の胸に顔を埋めた。

「私も…!ずっと…!」


----


廠と紅陽、紅仁がかすみの涙の再会を見守っていると、

廊下の奥から、もうひとつ軽やかな足音が近づいてきた。

その気配に、廠は自然と顔を上げた。


「……織」

「廠……無事でよかった」


織は胸に手を当て、安堵の息を漏らした。

廠は小さく頷き、かすみと紅陽の方へ視線を向ける。


「かすみがいたんだな」

「ええ。たまたま街で、それらしい子を見かけて……声をかけてみたら、やっぱりかすみだったの。迷っているようだったから、放っておけなくて。」


廠は、まだ抱き合ったままの二人を見つめた。


「……かすみも、覚えていたのか?」

織は静かに頷いた。


「ええ。全部よ。

あなたと同じように――あの時代のことも、あの戦いも。」


その声には、確信と、どこか切なさが混じっていた。


----

その日の夕餉は、廠と織、かすみ、紅陽、紅仁の五人で囲むことになった。

戦場の緊張とはまるで別世界のように、張世平の屋敷には温かな灯りと、煮物の香りが満ちていた。


張世平本人は席にいない。

街を救った英雄の父として、あちこちから宴や商談の誘いが舞い込み、

「すべて商いにつながる」と言っては、忙しなく出歩いているらしい。


静かな食卓の中、廠は箸を置き、ふと口を開いた。

「…あの異形の塊だが、ただの巣じゃない。俺には…タイムマシンのように思えてならない。」


紅陽が顔を上げ、紅仁が息を呑む。

織も手を止め、廠の言葉を待つように視線を向けた。


廠は続けた。

「異形が次々と吸い込まれ、最後には塊ごと消えた。あれは“死んだ”んじゃない。

どこかへ……“移動した”んだ。」


食卓の空気がわずかに張りつめる。


「もし本当に時を越える装置だとしたら……

異形はまだ終わっていない。

また別の場所、別の時代に現れる可能性がある。」


織は静かに頷いた。


紅陽はかすみの手を握りながら、低く呟いた。

「……また戦うことになるのか。」


廠は皆の顔を見渡し、ゆっくりと頷いた。

「だが、今は休もう。次に備えるためにもな。」


温かな夕餉の席に、戦場とは違う静かな決意が流れていた。

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