10.時を越え、仲間は再び集う――神軍、誕生の夜
廠が掲げた“神”の旗は、最初は笑いの種だった。
だが、冀州へ向かう街道を進むにつれ、その旗の下に集まる人々の表情は、笑いから畏敬へと変わっていった。
廠は旗を掲げ、堂々と街道を歩いた。
その姿は、どこか常人離れした静けさと迫力をまとっていた。
道行く者たちは最初こそ嘲った。
「神の旗だとよ!」
「若造が天下を平定するってか!」
「ははっ、夢見てやがる!」
だが、廠は一切気にしない。
むしろ、笑われることすら当然だと受け止めていた。
(……笑っていられるのも今のうちだ)
その余裕が、逆に人々の胸に引っかかった。
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街道沿いの村を抜けたところで、黄巾を巻いた賊徒の一団が現れた。
「おい、そこの旗持ち! その旗、置いてけ!」
廠は旗を地面に突き立て、静かに歩み出た。
次の瞬間、賊徒たちの視界から廠の姿が消えた。
「……え?」
気づいたときには、廠の木刀が一人の胸を貫くように叩き込み、
別の一人は宙を舞い、三人目は武器ごと腕をへし折られていた。
廠の動きは、もはや“人間のそれ”ではなかった。
荒くれ者たちが呆然と呟く。
「……なんだ、あの速さ……」
「黄巾賊が……一瞬で……」
廠は倒れた賊徒を見下ろし、静かに言った。
「俺は、天下を平定するんだ。黄巾賊ごときに負けるわけがないだろう」
その言葉に、周囲の者たちの背筋が震えた。
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廠の強さは、噂よりも速く広まった。
黄巾賊を一瞬で殲滅した、神の旗を掲げて歩く若き将。
最初は数人だった仲間が、十人、百人と増えていく。
廠は彼らに言った。
「こんなところでくすぶってる暇があるなら、俺と来い。天下を平定するぞ」
その言葉は、荒くれ者たちの胸に火をつけた。
「兄貴についていく!」
「俺もだ! こんな時代、強ぇ奴に賭けるしかねぇ!」
「神の旗の下で戦うんだ!」
廠は笑わなかった。
ただ、前を向いて歩き続けた。
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冀州に入る頃には、廠の背後には、千を超える兵が列を成していた。
そのほとんどが、
- 荒くれ者
- 元黄巾賊
- 村を守りたい農民
- 廠の強さに惚れ込んだ若者
- 行く当てのない浪人
寄せ集めだが、廠の“圧倒的な力”が彼らを一つにまとめていた。
そして、涿郡からは張世平の使者が到着した。
「廠殿! 旦那様より、馬百頭、食糧三十日分、武具一式をお届けに参りました!」
廠は礼を述べたが、同時に苦笑した。
「ありがたいが……指揮できる者がいない。騎馬隊はまだ作れないな」
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冀州の野営地に、廠の軍が焚き火を囲んで休んでいた夜。
遠くから、地を震わせるような蹄の音が響いた。
最初は黄巾賊の奇襲かと思われた。
だが、近づくにつれ、その騎馬隊の動きはあまりに整っていた。
そして――先頭に立つ赤い影を見た瞬間、廠は思わず立ち上がった。
「……紅陽?」
馬を止めたその人物は、兜を脱ぎ、夜風に髪を揺らした。
「劉禅陛下…いえ、廠殿…久しぶりです」
その声は、かつての時代と変わらない。
だが、瞳の奥には、長い戦いと喪失を知る者の深さが宿っていた。
廠は歩み寄り、紅陽の肩を掴んだ。
「お前…覚えているのか?」
紅陽は静かに頷いた。
「はい。全てを」
紅仁が馬から降り、深く頭を下げた。
「廠殿……再びお会いできて、光栄です」
かつての仲間が、再び自分の前に立っていた。
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焚き火の前で、紅陽は静かに語り始めた。
「織様が亡くなった後……私は漢の後継者として、曹叡や関優、張凱たちと共に異形と戦いました。
だが……皆、老いていた。長く平和だった漢は、異形の襲来に耐えられなかった」
廠は息を呑む。
「……滅んだのか」
紅陽は目を閉じた。
「漢は滅びました。最後まで戦ったが……私も、そこで死んだはずでした」
焚き火がぱちりと弾け、沈黙が落ちた。
「だが、死の間際に声が。“異形を倒せ”と。気づけば、この時代に戻っていたのです」
紅陽は廠を見つめる。
「廠殿。貴方も呼ばれたのでは?」
廠は頷く。
「ああ、異形を倒せってな」
廠も、核を倒した後の詳細を紅陽に語っていた。
同じタイムリープをしたもの同士。
もはや疑うことも無かった。
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紅陽は言った。
「この時代に戻ってからは、すぐに騎馬隊を率いて、黄巾賊を討伐し始めました。
その途中で……神の旗を掲げた男の噂を聞いたのです」
廠は肩をすくめた。
「寄せ集めだけどな」
紅陽は真剣な表情に戻る。
「廠殿。また供に戦いたい。騎馬隊は任せてください」
廠は迷わず答えた。
「頼む。紅陽、お前にしかできない」
紅仁が一歩前に出る。
「では私は、歩兵をお預かりします。廠殿の軍を、必ず形にしてみせます」
廠は二人を見渡し、静かに言った。
「……ありがとう。また一緒に戦えるなんて、思ってなかった」




