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今度は三国志の真っ只中にいます  作者: 水原伊織


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10/19

10.時を越え、仲間は再び集う――神軍、誕生の夜

廠が掲げた“神”の旗は、最初は笑いの種だった。

だが、冀州へ向かう街道を進むにつれ、その旗の下に集まる人々の表情は、笑いから畏敬へと変わっていった。


廠は旗を掲げ、堂々と街道を歩いた。

その姿は、どこか常人離れした静けさと迫力をまとっていた。

道行く者たちは最初こそ嘲った。


「神の旗だとよ!」


「若造が天下を平定するってか!」


「ははっ、夢見てやがる!」


だが、廠は一切気にしない。

むしろ、笑われることすら当然だと受け止めていた。

(……笑っていられるのも今のうちだ)

その余裕が、逆に人々の胸に引っかかった。


----


街道沿いの村を抜けたところで、黄巾を巻いた賊徒の一団が現れた。


「おい、そこの旗持ち! その旗、置いてけ!」


廠は旗を地面に突き立て、静かに歩み出た。

次の瞬間、賊徒たちの視界から廠の姿が消えた。


「……え?」


気づいたときには、廠の木刀が一人の胸を貫くように叩き込み、

別の一人は宙を舞い、三人目は武器ごと腕をへし折られていた。

廠の動きは、もはや“人間のそれ”ではなかった。

荒くれ者たちが呆然と呟く。


「……なんだ、あの速さ……」

「黄巾賊が……一瞬で……」


廠は倒れた賊徒を見下ろし、静かに言った。


「俺は、天下を平定するんだ。黄巾賊ごときに負けるわけがないだろう」


その言葉に、周囲の者たちの背筋が震えた。


----


廠の強さは、噂よりも速く広まった。


黄巾賊を一瞬で殲滅した、神の旗を掲げて歩く若き将。

最初は数人だった仲間が、十人、百人と増えていく。


廠は彼らに言った。

「こんなところでくすぶってる暇があるなら、俺と来い。天下を平定するぞ」


その言葉は、荒くれ者たちの胸に火をつけた。


「兄貴についていく!」


「俺もだ! こんな時代、強ぇ奴に賭けるしかねぇ!」


「神の旗の下で戦うんだ!」

廠は笑わなかった。

ただ、前を向いて歩き続けた。


----


冀州に入る頃には、廠の背後には、千を超える兵が列を成していた。

そのほとんどが、

- 荒くれ者

- 元黄巾賊

- 村を守りたい農民

- 廠の強さに惚れ込んだ若者

- 行く当てのない浪人

寄せ集めだが、廠の“圧倒的な力”が彼らを一つにまとめていた。


そして、涿郡からは張世平の使者が到着した。


「廠殿! 旦那様より、馬百頭、食糧三十日分、武具一式をお届けに参りました!」

廠は礼を述べたが、同時に苦笑した。

「ありがたいが……指揮できる者がいない。騎馬隊はまだ作れないな」


----


冀州の野営地に、廠の軍が焚き火を囲んで休んでいた夜。

遠くから、地を震わせるような蹄の音が響いた。


最初は黄巾賊の奇襲かと思われた。


だが、近づくにつれ、その騎馬隊の動きはあまりに整っていた。


そして――先頭に立つ赤い影を見た瞬間、廠は思わず立ち上がった。


「……紅陽?」


馬を止めたその人物は、兜を脱ぎ、夜風に髪を揺らした。


「劉禅陛下…いえ、廠殿…久しぶりです」


その声は、かつての時代と変わらない。

だが、瞳の奥には、長い戦いと喪失を知る者の深さが宿っていた。


廠は歩み寄り、紅陽の肩を掴んだ。

「お前…覚えているのか?」


紅陽は静かに頷いた。

「はい。全てを」


紅仁が馬から降り、深く頭を下げた。

「廠殿……再びお会いできて、光栄です」


かつての仲間が、再び自分の前に立っていた。


----


焚き火の前で、紅陽は静かに語り始めた。

「織様が亡くなった後……私は漢の後継者として、曹叡や関優、張凱たちと共に異形と戦いました。

だが……皆、老いていた。長く平和だった漢は、異形の襲来に耐えられなかった」


廠は息を呑む。

「……滅んだのか」


紅陽は目を閉じた。

「漢は滅びました。最後まで戦ったが……私も、そこで死んだはずでした」


焚き火がぱちりと弾け、沈黙が落ちた。

「だが、死の間際に声が。“異形を倒せ”と。気づけば、この時代に戻っていたのです」


紅陽は廠を見つめる。

「廠殿。貴方も呼ばれたのでは?」


廠は頷く。

「ああ、異形を倒せってな」


廠も、核を倒した後の詳細を紅陽に語っていた。

同じタイムリープをしたもの同士。

もはや疑うことも無かった。


----


紅陽は言った。

「この時代に戻ってからは、すぐに騎馬隊を率いて、黄巾賊を討伐し始めました。

その途中で……神の旗を掲げた男の噂を聞いたのです」


廠は肩をすくめた。

「寄せ集めだけどな」


紅陽は真剣な表情に戻る。

「廠殿。また供に戦いたい。騎馬隊は任せてください」


廠は迷わず答えた。

「頼む。紅陽、お前にしかできない」


紅仁が一歩前に出る。

「では私は、歩兵をお預かりします。廠殿の軍を、必ず形にしてみせます」


廠は二人を見渡し、静かに言った。

「……ありがとう。また一緒に戦えるなんて、思ってなかった」

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