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「何者かになろうと努力いたしましたが、結果としては、何者にもなれませんでした。
よくある話ですね。努力すらしなかった方々にとっては、格好の嘲笑の的でしょう。ですが、そうした方々に比べれば、少なくとも私は、少しだけ真剣だったと思います。
これは、そういう”少しだけ”真剣だった人間が綴る、極めて滑稽で、他人事のように哀れな回顧録です。
勝者にとっては戯れ話、敗者にとっては耳の痛い寓話。お好きなようにお読みください。誰にでも読まれることを前提に書いておりますから。」
そんな書き出しの手紙が届いたのは、ある秋の日だった。
この忙しいときに、なんてくだらない手紙なんだと少しイライラしながらも、手に取ったそれは、想像以上に面白い内容だった。
わたしは少しの間考え、もう一度ゆっくり手紙を読み直した。そして、少し前に空いてしまっていたコラム欄にこの手紙を掲載しようと決めた。