2話 新人入隊!! 1
基地に戻った後、「他隊員と作戦会議をして来ます」と言ったので俺は無視して寝た。何に対しての作戦会議なのかは分からなかったし分かりたくもなかった。副隊長から作戦会議って言葉が出たら90%はくだらない事についての話し合いだから参加するだけ無駄だと思うのだが……他隊員は律儀に出席するからなぁ。仕事さえちゃんとしてくれるのであれば別にいいがそれをしない奴も現れるのはどうにかしたい。
「今日は休みだしどうしたものか。そういえば新人が入隊日って今日じゃなかったか?」
カレンダーに書いてある予定を確認するがやはり今日が入隊日だな。『新人入隊おめでとう!!』って俺の字で書いてあるし間違いない。学園へ入学することに気を取られすぎたからすっかりと頭から抜けていた。毎年入隊日の次の日に挨拶をすることになっているが……毎年同じでは味気ないな。副隊長が確か新人説明会を行なっている筈だから少しだけお邪魔しに行くか。着替えてから腹ごしらえした方がいいかな。よし食堂に行くか。
軍服に着替えた俺は食堂に足を運んだ。いつもなら食堂ではなく自分の部屋で簡単に作って食べるのだが今日は休みだからサボる。他の隊員達はすでに朝食を摂った後みたいだな。いつもの業務開始より早い時間なのに偉いな。今度、全員に何かご褒美をあげるか。副隊長は……なしでもいいだろう。だってアイツが一番仕事サボるからたまにはお灸をそえるってことでいいか。なんて考えながらカウンター席に腰を掛けるとギョッとされた。
「おはようございます。隊長さん」
「ウィズさん、おはようございます」
「今日はお休みじゃなかったですか? 軍服ですけど」
「新人が入ってくるので少し驚かせてやろうかと」
「・・・仮面無しでですか?」
「はい……何かまずかったですかね」
「いえいえいえただびっくりするだろうなぁと思いまして」
食堂の看板娘のウィズさん。俺と同じ年だがしっかりとしていて……人気がある子だ。大家族らしく両親を助ける為にここで働いてからほんと良くできた人だ。この子を学園に入学されるのってありか? 流石に伯爵家の名前を借りるわけだし付き人がいないのは不自然だと思うのだが……ウィズさんはここでは欠かせない人だからなぁ。隊員達も癒されるって言っていたのを聴いたことがあるからそれを奪うわけにはいかない。他に誰か同じ年で付き人適正がある人はいるかな。と考えていたらウィズさんから「悩み事ですか?」と言ってきてくれた。
「学園に入学する事になりまして付き人をどうしようかと」
「・・・ルイズ様が言っていたことは本当だったんですね」
「ん? 副隊長がもらしてたの?」
「昨日帰って来られた時にここで騒いでいましたので」
ルイズとは副隊長の名前だ。俺が「ルイズ」と呼ぶだけで嬉しそうにするので普段は役職名で呼んでいる。やる気もアップするからここぞって時に呼ぶとすごくなる。そんなことよりもアイツ……騒いでいやがったのか。隊長が学園に入学なんて前代未聞だとは分かっているけども騒ぐほどのものではないだろうがよ。ゼロ隊の基地にいる全員にちゃんと説明しないといけないか。任務ってことを……副隊長に言ったと思うんだが、聞いていなかった説が濃厚だな。
「隊長さんはゼロ隊をやめるのですか?」
「やめませんよ。休みの日とかは必ず帰ってきますし」
「本当ですか?」
「もちろんです。なんならお土産も買ってきますよ」
そう言うとウィズさんは嬉しそうに笑った。お土産が楽しみなのかってのは鈍感なやつの思うことだろうけど、俺は鈍感ではないから素直に嬉しいんだろう。同年代がほとんどいないからなぁここには。ウィズさんと雑談をしていたらサンドイッチが出てきた。特に注文などはしていなかったから念のために「食べても?」と確認した。そしたらウィズさんが「いいですよ」と答えた。いやどうして君が答えるのさ、まぁいただくけど。
うん、うまいな。レタスとキュウリにカラシマヨーズってのを入れているのか。シンプルだけど俺の好きな味だな。黙って食べ進めていたら厨房から出てきた料理長から「隊長……味はどうだい? 聞くまでもないだろうけどさ」とニコニコと言ってきた。この料理長は街で呑んだくれていたところを拾ってきて働いてもらっている。気前のいい貴婦人だ。料理の事となると妥協を許さず厳しい人だがその分しっかりと成長される凄腕の持ち主だ。
「美味い。誰かは分からないが流石だと伝えておいてくれ」
「ウィズ!! 良かったねぇ」
「あ、ありがとうございます」
なるほどウィズさんが作ったのか。確かにこの前、料理を教えてもらっているということを話していたな。それなら全員喜んで食べただろうし、今日のモチベーションは相当ある筈だな。・・・もう食べてしまったな。どうしたものか……「まだ食べるかい?」と料理長から聞かれたが「遠慮しておく」と答えた。本来の目的を果たさなくてはいけないからな。ここで時間を潰し過ぎると俺が居ない時にどんなことをしているのかを確認できないからなぁ。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。本当にそれで行かれるんですね」
「何かおかしなところありましたか?」
「ないんですが……」
「なんだいアンタ仮面を着けずにどこかに行こうとしてるのかい」
そういえば料理長は先ほどの会話内容を知らないんだったな。とりあえず説明したのだが料理長からはため息と「バカなのかい」のいただいた。それ他の軍隊で言ったら即アウトだからね。仮面を着けないで新人達に会いに行くってだけなのに何故そこまで言われなければいけない。別に顔は醜いって訳じゃないだろうしちゃんと軍服も着ているし寝癖もしっかりと直したから問題はない。背は低いし童顔だけどもちゃんと隊長の役割をこなしている筈だよね?
他に変だと言ったらこの髪か。長髪でポニーテールにしているけど変じゃない筈だから髪色しかないか。碧銀という色で緑に近い碧色と銀が混じった色で俺以外ではまず見ることがないだろう。あるとしたら“イシガミ”と呼ばれる陽の国にある石だけだろう。仮面を着けると銀髪になるようになっているので本来はこの色だということを知っているのはゼロ隊の全員と大隊長(奥さんも)や大副隊長、国王夫妻くらいだろう。
「まぁ行ってきます」
「そうかい。あのバカによろしくと伝えておいてくれよ」
「誰か分からないが伝えておこう」
「隊長さんお気をつけて」
「はい。あとこれをどうぞ」
基地内だから特に気をつけることはないけど、心配してくれたしサンドイッチが美味しかったので宝石を付けているネックレスをあげた。すごい代物ではないがお守り程度にはなるように魔力を込めた。誰にあげようと悩んでいたからちょうど良かった。ウィズさんなら変なことには絶対に使わないだろうし……隊員達の士気が下がることは俺としては避けたいからな。おっとそろそろ訓練場に行っている頃か。
俺が使える技術で高速で移動する。二人の目から見たら消えているように見えるだろうがただ高速で移動しているだけなので安心してほしい。高速で移動したおかげか副隊長と新人の一人が険悪な空気を出しているところに出くわした。何がどうなってこうなっているのかは分からないが副隊長は意味がなくあそこまで圧を掛けようとはしないからなぁ。ここは俺が出て行くことにするか。驚かせてやろうだなんて言っている場合じゃないからな。
「今すぐに訂正しないと万死に値しますよ?」
「するわけないだろ。俺様より弱くて醜い隊長は必要ない」
「はぁ仕方ありません。では死になさい」
「はっ! お前がな」
二人の剣がぶつかり合う前に刀と斧で止める。副隊長は俺が来たことに驚き、新人は止められたことに驚いているような空気を出していた。他の新人達はオドオドしていたり耐えきれずに失神している者もいる。他隊員たちは何事もないように仕事をしている。お前らは少しは止めようとしろよ。あのままだったらこの新人は副隊長の大剣で真っ二つになっていたろうし、他の新人達は巻き添えをくらって最悪の場合は死だ。
「・・・何故ここにいるのですか隊長」
「サプライズでもしてみようと思ってな」
「この小さい男女が隊長だと……ふざけるのか?」
「やはり貴方は死ぬべきでしょう」
「待て。俺がゼロ隊の隊長だ」
今すぐにでも殺そうとしてる副隊長とその他を止めてから隊長だと答えるが、新人は俺に向かって剣を振ってくるから斧で叩き折った。確かにこんなのが隊長だと言われても否定したくなる気持ちは分かるが殺そうとしてくるのはダメだな。それは副隊長にも言えることだからここはお灸をそえる必要があるなぁ。俺の殺気に似たものを感じとった副隊長は逃げようとして新人は剣を折られたことによるショックから動けずにいた。
刀と斧は流石に危ないからしまって二人を殴り飛ばす。副隊長は流石と言うべきか分からないが拳で炸裂させた空気が当たる前に大剣で防いだか。一方で新人は壁にめり込んでいるな。軽くしか力を込めていないのに簡単に吹き飛んでいくとは鍛え方が足りてないな。どこをどういう風に考えたら勝てると思っていたのかは後で聞くとして風圧で気絶した新人達を起こさないとな。本当に入隊希望なのかと疑いたくなるな。
「ガハッ、大剣で防いだのにダメージが……」
「拳は直接当ててもないのに大袈裟だな」
「隊長と一緒にしないでください。弱体用のアクセサリーは着けているのですか?」
「全部付けてるよぉ」
「・・・」
副隊長は押し黙った。おそらくは新人が死んでいないかを心配しているんだろうが殺してはいないから安心してほしい。壁にはめり込んでいるけどもね。




