せんせい語録EX 「失敗ってのは!」
完結済みの<先生語録>、マコと五呂久の、その後…のふんわりした一場面、です。超短編。
12:50 職員室。
職員室に、TVはある。談話室にある。
休憩場所でもあるが、フツーにTVを観ていいワケ無く。
災害情報、事件、情報を取り入れ、確認するために在る。勤務時間だし。
…とは言え。もうちょい緩い理由でも、起動するらしい。
例えばそのー。
卒業生がTVに出るとかね。
13:30 以下、伝聞。
夏休み中であることが功を奏し。
モニター前には、某卒業生を観ようと、知っている先生が集まっていた。
美術教師、鷹栖光悦などはカップ麺を食べながらだとか。
「お、これだな!<人気店凸!わたすみ!>」
「ですねえ…。」
皆の視線を浴びている若い教師、厚真五呂久。私のカレシ。
「わたすみ~!今日は、いつもの隅倉さんがコロナでお休み!わたし、渡会の相棒は、美大に通う、現役女子大生の澄川さん!元気な子です!」
「すすす澄川真琴です…頑張ります!食べるの大好きです!食欲だけは自信があります!」
おお~マコちん、綺麗になったなぁ~!(そうでしょ?)
羨ましいなゴロク先生!(そうでしょ?)
食い物好きは相変わらずか!(ほっとけや)
ここは、何かコメントを求められている…。ゴロクは、そう察したらしい。
「…マコにも衣装!」
そして壮大にスベったという。
「今日は、屋台が立ち並ぶ緑園屋台村の超新星、おやき専門店ふまり!です!」
綺麗なオネーさん、渡会ひまサンの目が私に振られる!
「は!ここここちらの店、地元エベツ産の小麦と十勝あずきの最強コンボ、においからして美味しそうですネー!」
そう。オレ…私、澄川真琴は、地元HKTVのバイトに応募した…。なーんと受かった。
AD補助とかやって、美大総合学科スキルをちょっとは役立てるハズだった…。
そこでディレクターの目に留まったのだ…。今日一日だけの代役だけど…。
引き受けたのは、ごろくんが。前に食レポ似合うとか…食べる姿が可愛いとか言ったから。(言って無い)
「でーは、さっそく、突撃しましょう!」
「ハイ!」だだだだだだ!
「あ、本当に走って行きましたね、若いですね!待って…ちょ…!」
その頃職員室。
「…これ、放送事故の香りがするな」
「相変らずだ…この落ち着きのなさが…」
「…ところでゴロク先生、結婚とかはどうなんだい?」
光悦先生のぶっこんだ発言は、再びゴロクに注目を集めたという。
「…では、早速いただきましょう。澄川さん、せーの」
「「いただきまーす!」」
渡会サンはあんを、私はクリームがあたった。
渡会さん「ほわ!あんこたっぷりなのに、軽くて、甘すぎず!あと何でしょう!生地も普通うより甘いような!」
店主「そうなんです。ウチの生地にはちょっとしょっぱく練り込んでましてね!」
渡会さん「きゃあ、逆でした。それでむしろ、甘く感じられたんですね!?澄川さん、どうですか?」
「はむはむ。はむ、はむ…美味しいです。ヤバいです。3つはいけます。後で買ってきます。」
渡会サン「おやきの店、ふまり!ふんわり、まるくから来た名前だそうです!定休日は毎週水曜、午後5時までとの事です。皆さんも、味わってくださいね!」
ようやく終わる!ふう、何とか頑張ったな!
「ハイ、終わりでーす。」
オレは、安堵感漂う満面の笑顔で店長と渡会サン、スタッフを向いて礼をした。
「ふ~終わったぁ~ん♪キンチョーしたっす~!」
そして、店長に、追加のおやきを3つ。注文した。
自分でも、緊張から解放されイイ笑顔だっただろう。振り帰った。おやきくわえてた。
気付いちゃった。カメラがオレを追っているのに!
じゃぁ、さっきの「終わります」は何だったの!?
周りを見たオレは悟った。隣のたこ焼き屋が暖簾を降ろすのを。完売だと!?
渡会サンがヤバいって顔してる。
血の気が引くと言うのを、2年ぶりに味わうオレ。カメラ回ってるー!!
「すすす、澄川さん!次回は!?」
「じ、次回はら、ラーメン屋台、天次郎!です!」
そうだ…そのシメの言葉、まだ言ってねえ…。
カメラはスタジオに戻った…らしい。
その時。職員室の面々は、みな、ゴロクの肩を叩いて去って行ったという。
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21:30
黒くて四角いゴロク号。車中。
オレは助手席で屍になっていた。
ゴロクと夕飯食べたんだけど、何食べたっけオレ。
エゴサする気にはなれん。友達のも恥ずかしくて見れん。
「なぐさめろー…ごろくん」
「何度も言っているが。」
「えーなんか言ったっけ。」
「はあ。いいか!普段と違って映像残ってるが!」
「ゲフッ」
「いいか!失敗ってのはなぁ!」
キタ…らしい。
「消えない!」
「げふっ!」
オレはごろくんの頬をつまんだ。
「いでででで…消えないから!上書きするんだ!」
「イイ感じのこと言っても、もうチャンスないじゃん!」
「別な立場でもイイだろう。本来のAD目指すもいいし、お前なら何でもできるだろ。どうしてもウワサが気になるなら、名前を変える手だってあるけどな…。」
「何、そこまで犯罪者級なのオレ!?」
「はあ。もう、今日は帰る。はぁーあ。夜また愚痴るからスマホ見てねー。ごろくん~。」
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<ってわけで、死んだ。私死んだ。社会的に死んだ。>
<いやー、笑ったわー。録画しといてよかったわ~!一生これで笑えるわ~!>
ユキジも鬼だった。
<ごろくんも酷いんだよ!別なとこで取り返せって。AD補佐戻るでも、名前変える方法もあるけどとか!>
<…ん?んんん?…マコ、何て返したの?>
<ふざけんなーって、私はそんな犯罪者級かーって…何?>
<…怖ろしい子!てか、アホ!アホ!まさにアホ!>
<どうせアホだよう…地方番組のお昼バラエティーだけど笑いものだよう…>
<違う!もっと大事な所のアホだ!アホ!>
<えー!なんだよ!?言え!>
ふーってため息つかれた。
<夫婦別姓は別としてさあー。名前変えるかいって、軽くプロポーズじゃん?>
<は!?>
<ゴロク先生も可哀そうだねえ…気付いて貰えなくて。まぁタイミングがドヘタか…。>
<な!?う、うそぉ!?>
うそだぁぁぁぁーーー!
…その後、ドキドキしながら電話したら、はぐらかされた。(完)
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7日後、13:30
「今日は、わたすみすみ!!わたし、渡会ひま!隅倉じゅね!澄川まこと!の3人で突撃します!」
クビにならんかた…人気出たらしい…知らんけど。