魔の世界から現れる物たち
「はぁ……はぁっ」
「はぁ……はぁ。ふうー」
「二人とも、大丈夫? 第一階層に引き返して、休憩する?」
第二階層は、間違いなく別世界だった。
第一階層と比べて、明確にモンスターの数が多い。
加えてひとつひとつの戦闘が重かった。
第一階層では基本的に魔物への奇襲が成功し、襲撃を受けても立て直すことは容易だった。
しかし第二階層の魔物は警戒心が強く、こちらの気配を察知され、迎え撃たれたり奇襲されることが多くなった。
一つの戦闘が終わるたび、疲労したところを狙ったように次の群れが襲い掛かる。
技術で上回るレダも、飛躍的に重く鋭くなった敵の攻撃に、苦戦しているようだった。
グレスは普段から激突を繰り返しており力で押し負けるほどではなかったが、反対に魔物に攻撃を交わされたり、体重や尻尾を利用した、魔物の強味を生かした攻撃に翻弄されている。
イノンはこれまでと打って変わって、積極的に弓の射撃で戦闘に干渉するようになった。
しかし、むしろ一行にとっては「イノンを使わせられている」と言っていい。
進行と休息のペース、進路確認、所持品管理、疲労していないメンバーが残っていること等、精神的安心感という、イノンが保持していた優位性は徐々に削られ、次の会敵への警戒が不十分になり、さらなる奇襲と劣勢を招く。
第二階層はこれまでと違った。休息をとれるかどうかは魔物の波によって勝手に決定される。
能動的なペース維持は難しかった。
加えて、第三階層へ降りる階段は複数あるため、明確な中央大道がわからない。
おそらくよく利用される道、魔物が少ないルートはあるのだろう。しかしそれがわかるのはダンジョンに潜り慣れた熟練冒険者だけだ。どれだけ小慣れていても下級冒険者の域を出ない三人を、第二階層は手厚く出迎えた。
「はァ……この戦闘が終わったら、この階層から全力で離脱する。イノンが先導。いいな?」
「了解っ」
「了解した」
現れた魔物は猿の形をした三頭の魔物、ストーンエイプ。魔物まで徒党を組むようになっている。
レダは渋い顔をした。確かに実力では負けていないが、多人数戦や連戦対策は不十分だった。
「ラぁ!!っグレス!」
「うおおおおっ!」
素早く走り回る猿たちを、イノンに近づけさせないように牽制しながら斬り込む。
(まずは一匹、殺す。三対二では前衛が足りず、戦線が維持できないからだ。しかし)
「っ……!オラぁ!」
大ぶりの上段斬りを空ぶるグレスを見て、レダは剣を構えなおした。
この素早いストーンエイプに対して有利なのは、同じくスピード型のレダだ。2体同時に相手にするべきは、技術の面でもレダの方だろう。
しかし。
「ヅっ……!」
頭痛がする。微弱な痛みの波が引いては寄せる。体もだるい。病気か、毒にかかったのか。
集中を乱すレダの隙を突いて、ストーンエイプの1体がイノンの方に走り出す。
「イノン!」
今までの魔物とは一線を画す速度で、大きく迂回しながらイノンを狙って走るエイプ。
深く吐き、息を止めて見据えたその影に、矢を放った瞬間。
ばっ。
大きく跳躍したそれが、矢を交わしてイノンに飛び掛かる。
「あっ───い"っ……!!」
「イノン!!」
鋭い牙が腕に噛みつく。血が溢れ、服を染めていく。
陣形が崩壊した。
「イノン!うわっ……このッ!!!」
よそ見したレダにエイプが飛び掛かる。
今になって、その殺意を感じる。鋭い爪、強い腕力、人の何倍もある顎力……。
「イノン!レダ!!」
エイプに深い反撃を与えたグレスが、イノンの方に走る。
「馬鹿野郎!トドメを……」
言うが早いか、赤髪の背中に、手負いの猿がひらりと張り付くと、ガブリと首筋に牙を立てた。
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