魔法と迷宮の関係性
第五階層深部。順調に道を進んできたグレスたちは、腹ごしらえに小休止をとっていた。
「いいだろ、それ。食は人間の活力だ。多少高くてもいいものを食う方が良い」
「確かにうまい。アイオスは賢いな」
皮のチューブから絞り出されたのは、甘酸っぱい果実のジャム。地上と同じような食事を用意することは迷宮では難しいが、モソモソしていて微妙な味の携帯食料も、少しの工夫で小さなご馳走だ。
「故郷にもあったんだ、それ。思い出の味というやつさ」
「故郷か……なあ、アイオス」
「なんだい?」
「アイオスは、どうして冒険者になったんだ?」
「どうして。どうして、なぁ」
アイオスは口に含んだものを飲み込んでから言った。
「まあ、お金のためだよ。一か八かで遺産を掘り当てたら、億万長者になれるらしいからさ」
「そうか。俺も、そんな感じだ」
グレスは携帯食料を口に放り込んだ。
「あとは……そうだな。縁があって、というか。父親が探検家で、来たことがあるらしいんだ。紹介された」
「へえ。じゃあ、アイオスの強さは父親譲りかもしれないな」
「どうだろうね。父は冒険者ではなかったから、身体能力に長けていたというわけではないとおもうけど。まあ、この呪い耐性には一因あるのかもしれないね」
「そうか」
「グレスは魔法が何か、知ってるか」
「何か?よくわからない」
アイオスは立ち上がって腕を広げた。
「この迷宮はね、地上とは異なる物理法則があるんだ。
なぜかは分からないけど、呪いが関係すると言われている。
呪いは目に見えないのに、頭痛や幻覚だけじゃなく体組織の物理的破壊まで現象させる……。
その超常的な呪いの雰囲気中で、それに適応した人間だけが、
この世の理を覆す強い力を使うことができる。それが【魔法】なんだよ」
「へえ。確かに、魔法はすごい。呪いがないと使えないのか?」
「そうだよ。だから地上の世界に魔法はない。魔法を使える人間が珍しいのは、そもそも迷宮に入ったことのある人間が少ないからだ。俺たちも、迷宮の外では一般人だよ」
二人で水筒を回して飲む。
ここから一層登れば有志の冒険者がつくった迷宮内街道があり、金のことを考えなければ楽に補給ができる。その先は、いかに強力なモンスターが上がっていようと、アイオスの敵ではないだろう。
早く五層を抜けておきたい、と意識を失った四人を見ながらアイオスは思った。
「そうだったのか」
「ああ。魔法の強さも迷宮の深度に影響される。呪いが薄い上層より、濃い下層の方が威力が高い魔法になる。身体能力もそうだ。深くに行くたび、体は地上のそれより異様なまでに頑丈に、俊敏になっていく」
「じゃあアイオス、俺も深くに行ったから、強くなっているのか」
グレスが身を乗り出した。
その輝く目に苦笑しながら答える。
「多少はね。でもその度合いは、下層での滞在時間、モンスターとの戦闘回数、基礎的な運動レベルに依存する。いくら深度を下げても、急に初級冒険者が強くなるわけじゃないよ」
「そ、そうか……」
がくりとうなだれるグレス。
再び苦笑しながら、「まず下層でまともに立っていられる初級冒険者なんかいないけど」と頭の裏で付け足した。
「それにしても、心配だな」
「……ああ。みんな、いつになったら目を覚ますんだ」
四人は体をゆすっても、声の一つも上がらない。
「特に、この子は第二層で頭痛があったんだろう?ちょっと不安だね」
二人は頭が変形し、角が生え、鱗がついたイノンの頬を見る。
治療魔法により血は止まっているが、内臓や骨は言い表せないほどめちゃくちゃになっているだろう。
例のない第七階層にまで至ってしまった呪い。もはやどの程度まで復帰できるのかも想像がつかなかった。




