戦え
「【白閃剣】!」
純白の細剣が空に一本の軌跡を引く。
短文詠唱から繰り出す強力な一撃は、飛竜の鱗を数枚剥いだきり、止まってしまった。
「くっ……!」
対岸に着地するアイオス。
飛竜は羽ばたき、大きく胸を逸らせた。アイオスはそれを見ると、一方に走り出す。その美しい顎が開かれる瞬間、急制動をかけ真後ろに大きく跳躍。一秒後、アイオスの目の前に、極冷温の吐息が爆発する。
「【戦場の騒乱に命が奮う。我が武道向かうところ敵なし】……」
余波を受けた右脛と手の甲に、最低出力で身体強化魔法をかけて霜を払う。ダメージの回復どころか血管を針で刺されるような痛みに、顔が歪む。
しかし低温は繊細な動きを阻害し、いずれ致命的失敗を引き起こす。背に腹は代えられない。
(やはり戦いにならないな)
飛行するモンスターとの戦闘のセオリーは、弓矢や魔法による狙撃。あるいはそれで撃墜してからの地上戦。物理攻撃を仕掛けてくる場合は、交わすと同時に細かく剣を打ち込んでいくこと。
しかしアイオスに相対する青い飛竜は、吐息攻撃と空中に飛び出した人間を打ち落とす突進を主軸に戦っている。
こちらから攻めなければ吐息を交わし切れずにジリ貧、しかし跳べば反撃が待っている。
(空中軌道系の剣技を使ってもいいが、交わされたら七階層まで真っ逆さま……)
剛強な第一級冒険者の体であれば落下死まではしないだろうが、戦闘不能になることは間違いない。その後には戦えない五人の死が待っている。
「逃げるしかないか」
アイオスは隙を見ると、グレスの方へ跳んだ。
「ああ、アイオス!俺も何か……」
「撤退だ、グレス。みんなを下の入り口まで避難させてくれ。俺が時間を稼ぐ」
「でも、アイオス、時間がかかりすぎる!君は大丈夫な……ドわっ!」
氷の吐息が二人を襲った。グレスを抱いて跳んだアイオスは言う。
「問題ない。それに、君におまじないをかけるよ」
「おまじない?」
アイオスはグレスの肩に触れ、呪文を詠唱した。
「【戦場の騒乱に命が奮う。我が武道向かうところ敵なし】────。
【燃え滾る血よ】」
赤い燐光がグレスを包む。
「うがっ……!アイオス、これ……!」
稲妻のように、体中に熱い血液が走る感覚。血管や筋肉が膨張し、息が荒くなる。
「力が出る魔法。ちょっと痛むよ」
「先、に……聞きたかった!」
再来する飛竜。しかしその攻撃を、今度は二手に飛びのいて交わす。
「……!このパワーはッ!」
頭や手足はずきずきと痛むが、動作一つ一つが軽くなり、有り余るほどの力が湧いてくる。
普段のグレスでは考えられないような動きで四人のところまで跳び戻ると、すぐにボンドを担ぎ上げる。アイオスの真似をするように、彼岸と此岸の壁を交互に蹴りつけ、湖畔まで下りた。
(まるで小石のように簡単に運べるぞ……)
グレスの体重の二倍はありそうなボンドの体も、何の苦も無く動かせる。
湖の近くに大きな横穴を見つけたグレスは、とりあえずその急斜面の上でボンドを下ろすと、飛ぶような速度で崖を登り、三人のいる岩陰に急いだ。




