青い竜
バキリ、と深部針の針が折れて弾ける。
「アイオス!おい!」
「っ!」
グレスが肩に触れたことで、一瞬の思考停止が溶ける。
今まで数知れず強敵を相見えてきたアイオスをして、その凄まじい威圧感に自我を吹き飛ばされた。
周りではボンド、モナベノ、ジェノー、イノンが気を失って倒れている。
これまで階層を降りることでしか"呪い"の症状が発現・悪化する症例がなかったことも、アイオスの処理能力を低下させていた。
「グレス!みんなを頼む!」
「っ!ああ!」
レイピアを抜刀、アイオスは一足跳びに飛竜へ切りかかった。
(まずい。飛竜相手に、ジェノーの魔法もモナベノの矢もない。おまけに対岸が遠くて攻撃回数も稼げない……!)
飛竜は大きく羽ばたいて剣閃を交わすと、高度を上げ、滑らかな宙返りからアイオスに急襲を仕掛けた。
「うぐあッ!」
「アイオス!!」
受け身も回避もできない空中、必中の突進。
アイオスは対岸に叩きつけられた。
「クソっ!」
グレスは剣を掴むが、すぐに手を放し、ジェノーの体に手をまわした。
(自分の役割を全うするんだ、俺!)
グレスの役割は、行動できない四人を戦闘範囲外に退避させること。
アイオスが心置きなく戦えるよう、安全を確保することだ。
脱力した身体が、グレスに重くのしかかる。だがグレスは、二層進攻、あるいは再進攻の準備として修練を積んできた。仲間に怪我を負わせた失敗を、自分の非力で繰り返すわけにはいかない。
湖畔に降りるのは高低差から不可能と考え、少し離れたところにある岩陰に、四人を隠すことにした。そこはさらに断層のように深いくぼみがあり、戦火を避けるにはお誂え向きの場所だった。
行き来すること四度、特にボンドの体は重かったが、グレスは任された仕事を終えた。
(助けに行って……いいのだろうか)
みんなを頼む、とアイオスは言った。ならば、四人を護衛することまで任であろうか。
(アイオスは、俺の身も案じているのかもしれない)
グレスは、アイオスたちの戦闘を間近で見た。第一級冒険者と初級冒険者の、比べる間でもない力量差。
そんなアイオスが押されている。
ひどい足場で第七階層級モンスターと、単独で戦うことの意味を、グレスは知らないながらも推し量った。
「俺に、できることは……」
竜と剣士が再び空中で激突した。




