神秘的な瀑布
「すっげえ……真っ白だ」
それは幅二十メートルにも及ぶ大瀑布だった。七階層からずいぶん上の、第五階層近い高度まで登ってきた。
自然洞窟の奥に広がっていた湖畔から、崖を登ること一階層分、水源となる滝は分厚い透明の氷に覆われ。
そのさらに先には、この純白の大瀑布。天上は空のように淡く青色にかがやき、それを反射して氷の滝も青く染まっていた。
「綺麗……」
モナベノが呟く。
小さな声が氷に吸い込まれて消えた。
「いつまでも見ていたいくらいだよ」
アイオスも口元をほころばせた。
「……アイオス、ここは?」
「グレス!もう大丈夫?君が気になっていた洞窟だよ、ここは」
アイオスは担いでいたグレスを下ろし、ここまでの道のりについて伝えた。
「そうか……あの先に、こんな場所があったのか」
しかし天井は矢を射ても届かないほど高く、そしてどれだけ追っても端にたどり着かないほど広い。
滝は分厚い氷に覆われ、流れは視認できない。
水の音もせせらぎのように、小さく遠くに聞こえている。
「ここはダンジョンの中と言っていいのだろうか」
モナベノが問う。ボンドは腕を組んで唸った。
「どうなんだ……?魔物も遺物も見当たらないし、やっぱ自然洞窟なのかなあ」
「アイオス、石が光っているのは、そういう鉱物なのか?ダンジョンのそれとは違うのか?」
談笑が続く中、しかしジェノーが、深刻な様子で言った。
「ねえ、みんな」
「どうした。声が震えているぞ」
「みんなは何ともない?そ、それとも僕の体調がおかしいのかな」
「なんだ、ジェノー。腹でも痛いか」
ジェノーは頭と鼻を抑えながら、ゆっくりと顔を上げる。
「頭が痛いんだ。鼻血が止まらない。それと、腕が、潰れるように痛いッ!なにかに握りつぶされてるみたいだッ!!うがッ!!!」
「「!!」」
ぼたぼたと鼻血を垂らすジェノー。抑えている指の隙間からどくどくと溢れる赤い血が、紫色のローブを濡らしていく。
「"呪い"の症状だ!」
「そんな……八層でも何ともなかったのに……」
「い、いでで……俺も、頭がっ……ぐぎぎ、割れる……!痛ぇっ!」
「ボンド! そんな。階層を降りていないのに呪いが発現するなんて───。」
続けざまに、ばたりとモナベノが倒れる。眼のあたりには血の涙が浮かび、そして、不可視の巨人が握りつぶしたかのように、右脛骨がべきりと折れた。
「アイオス!!」
グレスが叫んだ。
さっきまで呆然としていた彼の姿はなく、はっきりした意識で警告を叫ぶ。
「何か来るぞ!!」
見通せないほど高い天井から、青い星が落下してくる。見る見るうちに大きくなるそれは、突如としてその翼を広げ、鳴いた。
「クァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
この神秘的な場に相応しい、美しい水色の飛竜。
甲高い怪物の絶叫が、ビリビリと空気をつんざいた。




