秘密の横穴
七層を走る五つの影。四人の第一級冒険者と、初級冒険者のグレスだ。
グレスはジェノーから身体補助の魔法を受け、体感したことのない速度で移動していた。
「グレス!疲れたら言ってくれ」
「……ああ!」
すでに全力疾走であって、大腿も脛も焼け付くほど酷使していることを言うべきか。グレスは逡巡した。
この迷宮は完全に整備された人工建造物ではない。そのため設計が不完全な地下深くへ進行するごとに、自然の洞窟につながるようになっていく。
第七階層の面積は第六階層に比べて一割ほど狭くなっていると考えられているが、階層を縦に繋げる崖や大穴による、階層間を行き来する複雑な地形、また洞窟との連結、未到達領域の存在もあって、その探索の難易度は加速度的に高まっていく。
未知の原因の調査のためには、平坦な道はもう走破してしまわなければ時間が足りない。
グレスは前の二人に離されまいと必死に足を動かした。
「アイオス、どこを目指す」
先頭を走る斥候のモナベノが隣に問う。
「そうだね……八階層中部から七階層に上がってくるまでは異変がなかったことから、なにか異常事態があるなら、七階層だろう」
「中央大道を回るか?」
「いや、どうだろうね……七階層の中央大道は道が狭いし連絡できる主要なルートも少ない。それに、今回の件にはなにか超自然的なものを感じるんだ。理外の何かが動き出したような、そんな気がする」
「理外の、何か……」
七層は静まり返り、五人の足音だけが音高く響いていた。
冷たく、ひっそりとしていて、魔物の喧騒の面影すらない。
ドン。
「おぼあっ……ぷ!」
衝突音と潰れた声に、先行する二人は振り向いて足を止める。
「どうしたっ」
「いたた。……こいつが急に止まって」
ジェノーが指さす先には、上級冒険者に弾き飛ばされて伏せているグレスがいた。
「グレス。大丈夫か」
「ほら立て。見て回る場所は無数にあるんだぞ?それとも休憩にするか」
「……」
「グレスー」
「おい……グレス?」
グレスを助け起こすが、一点を見つめたまま呆然としている。
「グレス、どうした」
「……ああ、ボンド。いや、少し気になっただけだ」
「なんだって?」
「ああ。なんか『気になる』って」
「……ふうん?」
グレスの視線の先には、横穴があった。三メートルほど壁を登ったところに、自然洞窟につながる横穴がある。
「あれは自然洞窟だ。床の高さが明らかに違うだろ?……ほら、あっちの壁にも、同じ高さに横穴がある。洞窟を横からぶち抜いてつくられたのよ、この道は」
「さ、行こう」
アイオスがグレスの肩を叩いて歩きだす。
一行はそれに応じて踵を返すが、グレスは一瞥もくれずに横穴を見ている。
「……。」
アイオスはそれをまじまじと見つめ、他の三人に言った。
「行ってみようか」
「……あの横穴に?」
「マジで言ってんのか?ありゃ絶対"迷宮"の外だぜ」
本来、完全なマッピングがされていない階層で、高度が明確に変わる場所に移動するのはご法度。加えて自然洞窟の横穴など、魔物も遺物も出現しない無駄足必死の外れ道だ。
「外れたらその時だ。パット行ってすぐ帰ってくればいい」
「それはそうだが……未踏破領域だぞ」
「迷宮の外なんだろ?気負うなよ」
「や、アイオス、言葉尻を捕まえても危険なものは危険ではないか」
「失礼。よっ」
アイオスはグレスを抱えると、一足跳びに二メートル跳躍して壁から少し出っ張った岩に着地、再度跳躍して横穴に入った。
「ほらみんなも」
三人は渋々、同じように二段跳びで横穴に入る。
ゆっくりと奥に進むグレスを追って、四人は歩き始めた。




