ドラマチック・レスキュー!
「がっ、ぁ……」
剣闘の獅子は初撃でグレスの死を確信し、イノンの方に目をやる。
そして無造作に、衰弱し切った彼女の腹に剣を突き立てた。
……しかし狙いが逸れたのか、剣は地面に突き刺さった。
「グルル…」
イノンの体に再び剣を突き立てる。今度はよく狙って。
が、刺さらない。まるで見えない壁があるかのように、剣が空中で止まってしまう。
「ウガアッ!」
次は確実に体を叩き切る威力の上段斬り。しかし、
バチッ。
剣が火花を散らし、反発した威力が獅子の体を押しのけた。
「ウ…ウガッ!」
獣の顔に驚愕の色が浮かぶ。
彼が再び上段に剣を構えた瞬間。
「【その怒りで敵を貫け】───」
詠唱が響く。
「【ビンテルスブルト】」
魔物の背後で白い靄が爆発し、無数の氷弾が毛皮を貫いた。
間髪入れず、剣が、矢が、魔法が、次々と着弾しては怪物に致命的な傷を与えていく。
「グオオオオアアアッ!」
「生存者はいるか!?」
第七層に四つの影。
第一級冒険者による救援が到着した。
「う、う……。なんだ……」
「君!無事か!」
救援の一人がグレスのもとに駆け寄る。大きな杖を持った、銀色の髪の小柄な男性。
「これを飲んで待っていてくれ。すぐに片付ける」
男は上級回復薬をグレスに渡すと、足早に魔物の方へ駆けた。
3メートルはある巨躯に、臆せず突撃する剣士たち。
余裕をもった回避行動、鋭い斬撃と目まぐるしいまでの完璧な連携攻撃。
レイピアの溜めのない刺突がリズムを崩し、ブロードソードが敵の脚に叩き込まれる。
怒り狂う獅子の拳を跳んで避けたかと思えば、次の剣士が胸に、腹に、左足に、斬撃をお見舞いする。
あまりに鮮やかなチームプレイ。
個々の抜群の技量と信頼関係が作り出す、超一級の継続火力。
「ウグオオオオオオオオオォ……!」
千の冒険者を殺せるはずの怪物は、わずか数十秒のうちに物言わぬ灰がらに変わってしまった。
「す、すごい」
グレスは開いた口がふさがらなかった。レダとの連携など比べるべくもない。
第一級、この都市における対迷宮最大戦力。どれだけの修練を積めばあんな連携を、いやそもそも単身の移動速度や攻撃の切れ、見切りの精度からしてレベルが違い過ぎる。
「立てるか」
ブロードソードの剣士がグレスに手を伸ばす。
薬が効いたのか、脚の震えは引いていた。
「あ、ああ……。助けてくれて、ありがとう。その、心から感謝する」
グレスはぎこちなく頭を下げた。あまりの実力に圧倒され、体の動かし方も忘れていた。
「その、お、俺は死んだのか?これは夢?」
「何言ってんだ、オメエ」
「そう思うのも仕方ないよ。もし本当にアレの斬撃が直撃してたら、生きるも死ぬもなかったんだから」
レイピア使いの男が苦笑する。
「ああ、そういうことか。ジェノーの魔法が間に合ったからな、死んでねえよ、お前。……多分、あっちもな」
ブロードソードの男が示した方で、杖を持った男がイノンに治療を施している。
レイピアの男が、グレスに怪訝そうな顔で近づいてきた。
「……なあ君。僕らどこかで会ったことあったかな」
「どうだろう。……」
「あ!わかった。君、以前上の方で死にかけてた人だろ。恩人を忘れるなんて、薄情者」
「なぜそれを……恩人?いや、その青い髪、まさか!」
「ああ。久しぶりだね。グレス、といったかな」
レイピア使いの男──もとい、アイオスはグレスと再会の握手をした。