どうすれば助かる?
「ッでぇ……!」
十メートルは落下しただろうか。イノンとグレスは二層の床へ無様に叩きつけられた。
不意打ちの落とし穴、受け身などとれるわけがない。地面に衝突した右半身など、もう何か所骨折しているかわからない。ピクリとも動かないイノンも似たり寄ったりだろう。
鎖骨、背骨、右大腿、手首……数えきれない部位がきしみ、激痛を叫ぶ。内臓も破裂しているかもしれない。グレスは必死に耐えながら、小鞄を漁って上級回復薬をとり出す。
薬の準備は十分してあったはずが、この体勢を立て直すには雀の涙だった。
持っている分をすべて傷にかけ、低級回復薬を少しずつ口に流し込みながら、イノンの方へ体を引きずった。
「息はある。傷は……手足の骨折がひどい」
すこし服をめくって腹や背中を確認したが、打撲痕や内出血は見られない。手足からうまく着地したように見られた。
「イノンの上級回復薬は三本……」
グレスは寝転がったまま思案した。
生還するために必要なのは脚だ。腕にかけるなら一本を両腕に、いや、イノンがもし目を覚まさなければ手負いの体が二つ、生還どころかまともに移動できる可能性さえ低い。ここは自分が多く使って……いや、目を覚ましたら当然糾弾されることになる。イノンは悪いことを言わないかもしれないが、彼女が痛みに苦しむのに俺は耐えられる気がしない。
「だめだ。俺にはどうすればいいかわからない。応急処置のやり方はいくらか教わったが、これほどの重傷……しかも俺の体にも余裕がない。それに、これからどこに移動すればいいのかも、ここが二層のどこなのかもわからない。どうすればいい……俺は」
グレスは足りない頭を回して考えた。考えたが、最適解は分からなかった。
代わりに目を閉じて、自分がこれからする行いで命が失われないように立ち回る覚悟を決めた。
グレスは自分の負傷がひどい部位に上級回復薬を1本、分けてかけた。次に、自分の小鞄に入るだけ各種回復薬を詰め、多くの戦術的物資を鞄ごと捨て、イノンの体を背負った。
脱力した人間の体はこうも、異様なまでに重いのか。
グレスはその重さを、気落ちするのではなくむしろ力強く踏み出すために感じた。
「生きて帰る。生きて帰るんだ」
足取りはゆっくり。しかし着実に進む。
ひっそりとした岩の大部屋を、グレスは一歩一歩、渡っていった。