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1章07 大魔王、JKの助手になる



 日曜日の朝。

 私はいつものように、目覚まし時計で5時に起きた。外はとっくに明るい。


 急いで着替え洗面を済まし、ご飯を支度。毛布をかぶってソファで寝てるのは、昨日、回収した居候。パジャマは、私のお下がりを着せた。男のくせに、サイズがちょうどって。私のガタイが大きいようで、なんか釈然としない。


 あいてる部屋があるけど、いれるつもりはない。あそこは父の趣味部屋。まだそこに居るようがきがするんだ。


 ソイルジーオ身体をゆすった。


「朝だよソイル君。さっさと起きて」


 昨夜はたいへんだった。電灯の明るさに驚き、水道から出る水をみては驚き、トイレが綺麗だと驚き、下水に流れるとおしえて驚き、トイレットペーパーに驚き、お風呂に驚く。

 電気とか水道の仕組みはなんてよくわからないのに、納得するまで質問してくるんだから困ったヤツだ。


 ご飯は助かった。シチューを母親がつくりおいてくれ、夜と朝分のオカズをつくらなくてよかった。


「半日しか寝てないから眠い」


 私、こいつが寝た後も書類整理の仕事をしてて、3時間も寝てない。そんだけ寝ればぜいたくだ。


「起きてご飯を食べなさい」

「うーん。あと3……」

「あと3分も寝るって?」

「3周、世界が陽を3まわるだけ寝かせろ」

「世界が陽を3周て3年!? キミはお味噌か」


 口は動かすが、目はぴったり閉じて起きる気がない。強制執行だ。


「おきろっ」


 かぶってる毛布を引きはがした。すると、パジャマは上半身だけで、下は膝上までずりさかってる。パンツは履いてない。話しに聞いたことのある朝の起立。ぴーんと立つ力強い男子があった。


「我は股間が蒸れるの嫌いなのだ」

「い、い、いゃあっ!」


 昨日みたあれは、評論家つくみと一緒の芸術鑑賞。いまは生で、しかも私ひとり。状況がまったく違うし心の準備ができてない。

 刺激が強すぎて、無意識で足をあがった。股間にかかとを落とした。


 ぐりしゃ。


「うぎゃあああああああああああ!」






 ソイルジーオは、家においとけいので連れてきた。何かしでかされたら困るし、母さんと鉢合わせされたらもっと困る。


「無理させるつもりはないけど、手伝ってもらうよ」


 せっかく連れてきたからには、他の男子と同じく、働いてもらうことにする。

 猫の手よりはマシなはずだ。


「我を奴隷のようにこきつかうか雪水。高くつくと覚悟しておけ」


 あまり期待はしてないのは、これまでの男子と同じ。ボーリングに限ったことじゃないけど、仕事はやってやるって根性がないとできないのだ。なにかモチベーションがあるといんだけど。私は与えられなかった。


「カレーパン。コンビニで騒ぎ。火焔の大災害。一泊2食恩義。なんかいうことは?」

「股間がイタイが」

「ばんそーこでも貼って」


 キミ、異常な速度で回復するよね。ばんそーこももったない。


「ぐぬ……力を取り戻した暁には」

「それは楽しみ。戻ったらもっと手伝ってもらおう」

「性根が腐っとると言われたことないか」

「ない。愛の告白は3桁をこえるけど」

「容姿でだますのか魔性の女め」

「ついてこれない男が悪いの」


 つまらないことは忘れるにかぎる。

 なので火焔の道路災害のその後もしらない。テレビもネットもニュースはずっとなにもみてないんだ。どう報道されたんだろーねー。家に警察はきてない。いまはまだ。


「さあね」


 私は、ヘルメットをかぶった。泥水の水位を測って野帳に記入すると、軍手とゴム手をはめ、ソイルジーオも同じ姿にする。マシンのブルーシートをはぐった。さて仕事だ。


 キーをひねる。セルスタート。フライホイルが回転。水冷式ディーゼルがかん高い単気筒の音が鳴る。Vベルトで接続されたボーリングマシン稼働。油圧機構と機械機構が動き出す。


 打撃回数(N値)が50に達すればだけど。あと貫入試験一回で、この孔は終わる。


 ロッドは、昨日、3mを2本を立ち上げたままで帰ってる。泥水を排出する小さな横孔カップリング付きの30cmロッドもつけたままだ。3mを2本繋げば、目標の深度まで下がる。


 だから、径が細い標準貫入試験器レイモンドサンプラーを降ろせば一発終了なんだけど。孔壁がダレて崩れてる可能性が高いんだ。余分な土は除去しないと、貫入試験に影響を及ぼしてしまう。


「チューブはφ66でウィングメタル。ソイル君、スピンドル回すからロッドに繋いで」

「66? ウィング? 何言ってるかわからぬ。呪文か」

「1mチューブの中で一番細いヤツ。2本あるけど、ほら、メタルが膨らんでるほう」

「そもそも、いちめーとるとか、ちゅーぶが分からんのだが。これでいいのか」


 メタルクラウンは、チューブ先端にネジで着いてる消耗パーツ。土を直に掘るのでチューブより厚くて頑丈だ。ウィング(羽根)というのは、メタルに金属の板を溶接してひとまわり膨らませたメタルのこと。土との摩擦を減らし、水回りを良好にする。


「波うつカタチのこれな。半円状の鉄を貼り付けたとは小癪な。底がふさがっておるが」

「それ弁つきなの。つけて」


 採取する土が少量だったり摩擦や粘性が弱いと、途中で落下することがある。そういうときは蓋付き。蝶番で開閉するのだ。それでも落ちることがあるのだから、土は手ごわい。


「我の世にもネジはあったがこれほど精密に加工できるとは2000年の歩みは侮れぬ」


 ソイルジーオはネジに感嘆しながら、スピンドルのロッドにチューブを繋げた。落とさなかったなエライ。


 私はトング(”コの字”に鉄棒をつけた道具)をロッドに掛ける。チャックの油圧を解放してロッドをフリーにし、トングを持つ力を緩める。ロッドは自重で滑って、ボーリング孔を降下していった。

 2本を下げたところで油圧チャックを閉じてロッドを締めt私は、3本目の3mロッドをよいしょと、スピンドルの上にもちあげ繋いだ。チャックを緩め3m分を下降させて、また締める。


「繋げながら、孔の底まで下げるのだな。おもしろい。我にもロッドを繋がせろ」

「重いよ持てるの。倒したら怪我するよ」

「バカにするな。女子の雪水にできることは我にできる。これだな」

「やりたいならいいけど」


 3mロッドは、重さが10キログラムもある。真っ直ぐ倒さず立てて、頭の高さまで持ち上げるには、力だけではないコツがいる。初心者は倒すことが多い。国崎は、連れてきた男子にやらせてない。


 けどソイルジーオは、櫓に立てかけておいた4本目のロッドをなんなく持ち上げた。身長が低いから高さはキツキツだけど、バランスよく危なげなく持ち上げて、ロッドのネジを回して繋いだ。


「びっくり。見た目とちがって力持ちだね」

「当然だ。これで借りは返したな」

「なにいってるの。カレーパン一口にもならないよ。魔王はそんな計算もできないの」

「む、むろん冗談じゃ、は は は」

「だよね」


 これは。思ったより使えそうかも。


 孔底には案の定、余剰な土が積もってた。ロッドの立ち上がりから計算すると54cmだ。まぁ砂礫は崩れやすい。しかたない。これですんでラッキーなほうだ。

 12mまで攫ってコアチューブを引き揚げた。4本の3mロッドは外さずに繋いだ状態だ。4本というのは、ぎりで安全? 立ち上げる限界だ。鋼管であっても地上から12mもあると、風で揺れる。


 地上にあげたチューブのヘッド(上蓋部)をレンチで開け、ひっくりかえし、厚ゴムにたたきつけて中の土を出す。これは全部いらない土なので、コア箱にはいれない。平スコップで掬って残土の山へ放りなげる。


「捨てるのか。時間をかけて回収したものを」

「崩れたスライムだからね。いらないんだよ」

「す、すらいむ?」

カッティングス(削り屑)が本来の言い方だけどそう呼んでる。魔王の配下にいるでしょスライムは」

「そのような力の抜けた名の魔物はおらん。使役は3匹の使い魔だ」

「たった3匹? キミの大陸って小島」

「世界最大の大陸だぞ。バカにするな」

「はいはい。さてと」


 レイモンドサンプラー(標準貫入試験器)を繋いで降ろすと孔底に着いた。スライムは除去できたようだ。ここからだ今日の本番。


「仕事の鬼だな。大魔法が復活したのだぞ。我がいうのもなんだが、人は魔王を恐れるかひれ伏すものだ。少なくとも、地面から出てきた存在はいぶかしいもでのはないか。それをきさまは」

「気にはかけてるけど、仕事を予定内に終わらせるほうが私には重要なの。話はおわってからたっぷり聞いてあげるから。ほら櫓のうえに昇って。ドライブハンマーを上げるから、ここに通して」


 魔王が実在した。それがどうしたってもんだ。平均的な現代日本人はファンタジーの免疫をうけて成長していくんだ。その抗体はとても強くて、魔王くらいすぐ受け入れてしまう。


「2000年の意識革新は恐ろしい。昇ればいいのだな」


 私はスイベルロッキングフック(ワイヤ寄り戻し対応フック)を、モンケン(質量63.5kg±0.5kgのドライブハンマー)にをかけて、ウィンチで吊りあげる。櫓の上で待ち構えてるソイルジーオは「重っ」と、受け取りながら、ノッキングブロックに載せる。


「そこに芯矢棒をいれて繋いで」

「しんやぼう、これか」

「そうそう。それもネジになってるから。モンケンを落下させるから緩んだら締めてね」

「落下ぁ? のぉッ!!」


 モンケンは、キャッチャーとドライブハンマーセットになってる。キャッチャーは、芯矢棒の76cmにあるリリースカップリングで触ると、ドライブハンマーを放す構造だ。

 およそ76cmの自由落下衝撃で、サンプラーを30cm打ち込む回数がN値。あらゆるといっても大げさでないくらい基礎設計を決める指針だけど、衝撃音はかなりうるさい。


「いきなり落とすとは危ないではないか。手を挟みでもしたらどうする」


 骨ごとくだけるだろうね。手術でも修復不可能なくらいに。各社の担当者がわらわらやってきて、100もの安全書類にサインさせられる。仕事をまわしてくれなくなるオマケつきだ。

 そんなマヌケ事故は聞いたこともないけど。ノッキングブロックをもってて手を潰した人は見た。親指と人差し指の水かき?が千切れて血まみれだった。


「ビビったの? 2000年も生き埋めになってたのに」

「生き埋めではなく封印だ。きさまというやつは大魔王史上、空前絶後に、魔王使いが荒い女じゃ」

「光栄だね」


 貫入サンプラーは50cmある。前打ち15cm、本打ち30cm、後打ち5cm。合計50cmのコアを採取するけど、地盤が締まってたり固かったりする場合は、前打ちを減らしたり省略できる。15cmの打撃回数が50を超えることもあるのと、無理に入れると抜けなくなることがあるからだ。


 5cmを叩くのに20回も要したので、本打ちに入る。


「よかった。この様子なら楽勝で50に達しそう」


 12mで終われると安堵しながら、モンケンを吊り上げて落下させた。カキーン。金属のいい音を響かせて、ドライブハンマーが当たった。当たって、ノッキングブロックが30以上も沈んだ。


「え……」

「地盤は固いのではなかったか」



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