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専属司書 3


「僕はジルベルトだよ? さ、一緒に食べよう」

「えっと、ジルベルト様……?」

「僕もジルベルトって呼んで! 兄様に自慢するから」

「あの……」

「ダメ?」


 うるうると紫色の瞳が潤む。

 紫がかった黒髪に紫色の瞳をしたジルベルト様。

 けれど、伯爵家の庶子でしかも家を追い出された私と、ローランド侯爵家のご子息では天と地ほど身分の差があるのだ。


 もちろん、アルベルトのことだって元々は様付けで呼んでいた。

 学園内では頼まれたから呼び捨てにしていたけれど、卒業を間近にしたとき、様をつけると言った私にアルベルトは呼び捨てするように命令してきたのだ。


『俺のことは一生アルベルトと呼べ。身分差があるというなら、これは命令だ』


 今までの関係が変わるのが寂しかったのだろうか。確かに王立学園の在学中の3年間、私たちは喧嘩ばかりだったけれどいつも一緒にいた。


「こら、あまりシェリア様を困らせてはダメよ」

「あーあ。完璧すぎる兄様の焦る顔が見たかったのにな」

「もう……。すみません、シェリア様。私はジルベルトの双子の姉のミラベルです。どうぞよろしくお願いします」


 可愛らしい礼を見せたミラベル様は、可愛らしいけれど大人びてもいる。

 出会った頃のアルベルトにどこか重なる。

 そう、出会った頃のアルベルトは大人びていて本当に完璧な人に見えた。


 ***


 ――実は、私のアルベルトに対する初対面の印象はあまり良くなかった。


『シェリア・ウェンダー伯爵令嬢、俺とバディを組め』


 ある日突然、アルベルトが私をバディに指定してきたのがことの始まりだ。

 

 王立学園は、バディ制度を採用している。

 バディは成績が近しい者同士が組んで、卒業まで様々なことに取り組む。


 アルベルトと組みたい上流貴族の御令嬢や、魔術師を目指す令息たちにあの日激震が走った。


 確かに私は、入学試験の成績はアルベルトに次いで二番だったし、授業が始まって最初の試験ではアルベルトを抜いて一番だった。

 だからといって、落ち目貴族のウェンダー伯爵家、しかも庶子の私が選ばれるなんて誰にとっても予想外だった。


『まさか、断るなんて言わないだろう? ……よろしくな? シェリア・ウェンダー』

『断るという選択肢がない!?』

『不服か?』


 王立学園では平等が謳われている。

 けれど、それはあくまで建前で、大貴族と落ち目貴族の身分には天と地との差がある。


『もちろん、喜んで!!』


 その日、平穏に目立たず地味に、かつ成績は優秀に過ごして王立魔法院への推薦を手に入れようと決めていた私の学生生活は波瀾万丈になることが決まったのだった。


 ***


 ――あの日からの3年間は、辛いこともあったけれど、家族の中で虐げられてきた私にとって最高に輝いた日々だった。


(そして、隣にはいつもアルベルトがいた)


「お待たせいたしました」

「ありがとうございます。……おいしそう」

「それはようございました。お好きだとうかがっておりましたので」


(確かに大好きだけど……。アルベルトはビブリオさんにそんな話までしたのかしら?)


 運ばれてきたのは、私の大好物のジャック豆のポタージュだった。王立学園の食堂で出てくるジャック豆のポタージュが、とても好きだった。


 家族全員が食べ始めたのを確認して、私も口をつける。控えめに言ってもそのポタージュは『絶品』だった。




 



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