闇魔法の研究 4
久しぶりに魔石なしで魔道具を使う生活は、とても文明的で快適だった。
「今までどうやって生きていたのか忘れそう」
いつだってお湯をいっぱいにしてお風呂に入れるし、髪の毛も乾かせるし、ベッドも暖かくてダメになりそうだ。
「そういえば、フール様から再三王立魔法院に来るように連絡が来ていたのだったわ……」
カサカサと手紙を開けると、そこには王立魔法院にも闇魔法に対応した魔道具を用意していると書かれていた。
(至れり尽くせりよね……)
約束は約束だ。
たとえ、フール様のしたことが許されざることだとしても。
「行くのか」
「ぴゃっ!?」
いつの間に後ろに立っていたのだろう。
アルベルトの声に驚いて飛び上がってしまう。
「アルベルトは、行かないでほしいって言う?」
「言わない」
「……」
プイッと視線を逸らしてしまったアルベルト。
彼がこんな態度をとるのは、何か言いたいことがあるときだ。
「正直に言った方が良いわよ?」
「……っ、君は天才だ。だから、君が望む道を塞ぐ権利なんて俺にはない」
「家族なら意見は言っても良いのでは?」
「家族?」
「そうよ、結婚したら家族になるんだから」
「結婚」
アルベルトの顔がみるみる赤くなった。
(何だろう、この可愛い生き物は)
普通はアルベルトが私に思うべきことな気がするけれど、可愛い物はかわいいのだからしかたがない。
そのままジッと見つめていると、アルベルトが口を開いた。
「行かないでほしい」
「なぜ?」
「あの場所は危ないし、君は間違いなく巻き込まれる」
「巻き込まれる……。何に?」
確かに魔臓を失っての1週間は実験対象のようだった。そのことを危惧しているのだろうか。
「君と俺は、次期筆頭魔術師候補として争うことになるだろう」
「ならないわ!?」
たまに発想が飛躍してしまうアルベルト。それは論理派の彼が物事を先読みしすぎるからなのか。
どこをどうすれば、私が次期筆頭魔術師候補になれるというのだ。
「……そう、その言葉忘れないで」
「アルベルト……」
しかし、真剣な表情で告げられる予言に近いアルベルトの言葉は、なぜか的中してきたこと王立学園の経験から私は理解している。
(そう、アルベルトは次の生徒会長が誰かも、副会長が誰かも、学級委員、はたまた各委員会役員まで全てを言い当ててきた)
もちろん、学生の生徒会活動や委員会活動と、王国全土どころか大陸全土に影響を与え、筆頭ともなれば国王すら執務室に呼びつけることができる王立魔法院と比べることは、できないだろう。
(な、なぜ、あり得ないのに背中が寒くなるの!?)
それは、闇魔法の恩恵を求める上位貴族たち、そして大陸全土の有力者たちの思惑によるものなのだが……。
権力や情報網からはほど遠い私はまだ知らない。
「とりあえず、誰かに邪魔されないように、すぐ結婚しよう?」
「急展開すぎるわ!?」
とりあえず、わかっているのはこんな場面でついでのようにプロポーズしてくるアルベルトが、やはり女心を欠片も理解しておらず残念であるということだけだった。
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