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闇魔法の研究 1

本日3回目の更新です


 王都中に噂が駆け巡る。

 曰く、アルベルト・ローランドは筆頭魔術師フールと契約を結びその力を借りて愛するシェリア嬢の魔力を取り戻した


「いやいや……。借りてないし、そんな恋愛物語みたいな展開じゃないわよ」


 曰く、筆頭魔術師フールとアルベルト・ローランドは恋敵だったが、愛するシェリア嬢のために力を合わせて彼女の魔力を取り戻した


「――フール様だけは嫌」


 曰く、実はシェリア嬢が魔力を失ったのは、その実力を隠すためのまやかしであった


「本当になくて、本当に不便だったわよ!! しかも、今はもっと不便になったわよ!!」


 それらの噂は、あまり周囲との関係性を持たずに生きてきた社交界に縁遠い私の耳にはなかなか入ってこなかった。

 だから、情報通のミラベル様が教えてくれるまで知らずにいたのだ。


 しかも、闇魔法を手に入れて髪と瞳の色を取り戻したものの、闇の魔力は他の魔力を打ち消し、打ち消されてしまうため、魔石を使って魔法が使えなくなり、普段通りの生活をアルベルトの手助けなしに行うことすら難しくなってしまったのだ。


(こんな噂、一生知らずにいたかった。しかも、魔力を取り戻したせいで今までよりも不便になるなんてことある!?)


「それで、それで、筆頭魔術師フール様と兄様のどちらを選ぶの!?」


 ミラベル様が噂話をする度、好奇心に瞳を輝かせて私に質問を投げかけていたジルベルト様がさらに質問を重ねてきた。

 その声で我に返る。もちろん、選ぶ以前にフール様のことは恋愛相手として眼中にない。


「あの人嫌い」

「ふーん。つまらないの」

「こら! ジルベルト!」


 ミラベル様に怒られているのに、ジルベルト様はあいかわらず楽しそうだ。

 あいかわらず双子の二人は仲が良い。


(それに、フール様には長年執拗に愛し続け、追いかけ続けた人がいるしね……)


 もうすぐ、私たちの噂は筆頭魔術師フール様があるご令嬢に一目惚れして熱烈に求婚したという噂で塗り替えられるに違いない。

 間違いなく、そのときは近づいている。このあと、レイラ様とお茶会をする予定だ。


 ――そこで真相は明らかになることだろう。

 

 ***


「お招きいただきありがとう」

「ええ、お話しできて嬉しいです」


 お茶会の席に現れたレイラ様は、あいかわらず完璧に装いを整えていたけれどその目元には隠しきれない疲労が浮かんでいた。


 今、デルフィーノ公爵は急にレイラ様に求婚状を送りつけてきた筆頭魔術師、フール様の本心を探るべく疑心暗鬼らしい。


 レイラ様もただで受け入れるつもりはなく『では、今日中に深海の大王貝の真珠をもってきて』などなど無理難題を出しているが、フール様はそれらすべてを簡単に解決しているらしい。


「深海の大王貝の真珠については『あ、それ持ってるな……。海辺の街を魔獣から救ったときに無理矢理押しつけられたけど、君に捧げるための出会いだったか……』のひと言だったわ!!」

「わぁ……」


 もし持っていなければ、海の水を干上がらせてでも手に入れてきた気がする。

 だからフール様にあまり無理難題を言わない方が良いのではないか、そんな気持ちでいっぱいだ。


「それで、受け入れるんですか?」

「……知らない男に嫁ぐよりは良いかもね。ただし、名ばかりの契約結婚なら」

「……」


 少しだけフール様に同情してしまった。

 けれど、彼ならいつかレイラ様自身の心も手中に収めるのだろう。これは予感ではなく、きっと確定された未来だ。


「――それに時間があまりないから、私も腹を据えないとね」

「……それは」


 それだけ言うと、レイラ様は席を立った。

 そして、にっこりと微笑んで今の会話はこれで終わりだと態度で示す。


「相談に乗ってくれてありがとう。それから、お詫びするわ。我が家があなたを巻き込んだ非道を」

「……」


 さすがに私も気がついていた。あの事件の犯人に……。

 筆頭魔術師を代々輩出しているのは、ローランド侯爵家だけではない。

 一代前の筆頭魔術師はローランド侯爵家出身、その前はデルフィーノ公爵家だ。

 どの家にも属さず、平民から成り上がり長い年月その地位にいるフール様が特別なのだ。


「父がアルベルトを亡き者にしようとして、あなたを傷つけてしまったという事実に気がついたとき、次の筆頭魔術師が決まると同時に我が家は滅びると確信したわ」

「……ま、まさか」

「アルベルト・ローランドは筆頭魔術師になった途端、その権力と能力と残忍性全てを露わにしてあなたを傷つけたデルフィーノ公爵家を破滅に導いたでしょう。私も巻き込まれて良くて辺境へ追放、悪くて頭と胴が別れるわね」

「いくらアルベルトでも、レイラ様をそんな目に……」

「いいえ、あなたをいじめた彼の二の舞になるのは間違いないわ」

「あれは偶然」

「言い切れる?」

「うぅ……」


 因果関係がないと言い切れるだろうか。学生時代に私を泣かせた同級生は、次の日から学園に来なくなった。話に聞く限り、親が急に領地に帰ることになったため、領地の学園へ転校したらしいけれど……。


(いやいや、でもまさか、当時私たちはただのバディでそこには友情しか……)


「あなた絡みでは彼を敵に回したくなかったわ……」

「……レイラ様」


 そのとき、お茶会をしていた応接間の扉が叩かれた。


「そろそろ時間だ、シェリア」

「ええ……。そうね」

「では、お暇するわ。王都で噂の恋人たちの逢瀬を邪魔したくないから」

「……ちが! 今から私たちは研究を!」

「あなたたちってあいかわらず色気がないわね……。まあ良いわ。恋人の形はそれぞれ自由だから。では失礼します。ああ、アルベルト。あなたたちの恋路は応援してあげるから、私のことは見逃してね?」


 アルベルトに視線を向けたレイラ様がにっこり微笑んだ。

 アルベルトが眉間にしわ寄せ、ほんの少し考える素振りを見せてから口を開く。


「考慮する」

「ちょ! アルベルトまで!?」

「約束よ?」


 レイラ様は大きな緑色の魔石を取り出した。

 強い風が吹き、応接間がボロボロになってしまうと慌てたけれど、家具も置物もコトリとも動かずに魔法が発動してレイラ様は消えた。


 ――筆頭魔術師の執務室がボロボロになったのは、彼女の怒りによるものだったのかもしれない。


「ほら、さっさと闇魔法について検証するぞ」

「ええ……。そうね!」


 差し出された大きな手を取る。その手は温かくて力強い。

 王立学園以来、アルベルトと一緒に研究するのは本当に久しぶりだ。

 心浮き立ちながら、その手にひかれて私は席を立ち、歩き出したのだった。

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