図書室と魔法 3
羞恥の時間が終わり、もう一度アルベルトに手を引かれて図書室へ戻る。
「ちっ、まだいたか」
「……」
漆黒の瞳は光を失っている。
ブツブツとずっと何かつぶやいている姿は正直言って怖い。
「おい、フール」
声をかけたのに気が付いてないのかやはりその瞳は本棚を見つめたままだ。
「会える、この魔法が完成すれば、君に」
「……え?」
不意にはっきり聞こえた言葉に、ドクリと心臓が音を立てた。
「はぁ。しかたないか」
パチンッとアルベルトの指先で小さなスパークが起きる。
そのままアルベルトは指先でフール様の頬をつついた。
――バチンッ!!
「ぐわっ!?」
「……おい、不法侵入者」
「……アルベルト」
目を見開いて頬を押さえているフール様。
よほど痛かったのだろう。何度も頬を撫でている。
「そろそろ帰ってもらえるか? それから、シェリアを巻き込んだら……」
「そんな怖い顔しなくても。新しい魔法が見つけられそうになったら、興奮するのはしかたないだろう? それが、長い長い間探求し続けていたものならなおさら」
「……」
「君だって、彼女を失えば同じ行動をするはずだ。だって、彼女がなくした使い魔を取り戻すためだけでもあれほど……」
「黙れ」
「ああ、彼女のいる前で言うのは無粋か」
「……」
アルベルトがニッコリと笑った。
本気で怒っているときの笑顔で。
上に向けた手のひらからバチバチと弾けるスパークは、先ほどの比ではない。
「……帰るよ。今日閃いたことは、明日伝える。君も知っておいた方が安心だろう?」
「……聞きたい」
「ん? シェリア嬢?」
「聞きたいです! 新しい魔法の話!!」
「…………くっ。はははははは!!」
急にフール様がお腹を抱えて笑い始めた。
困惑してアルベルトに視線を向けると、先ほどまでの雷魔法を消して肩を落としていた。
「なあ。この魔法で彼女の魔力を取り戻せるとしたらどうする?」
「……っ」
不意にアルベルトの耳に唇を寄せたフール様。
何かをささやかれたアルベルトが酷く驚いたように金色の瞳を見開いた。
そっと離れていくフール様。
アルベルトは血が出そうなほど強く拳を握った。
そして次の瞬間、獰猛な笑みを浮かべた。
「僕は君の願いを知っている。その顔が答えだね」
「……明日、早朝に行く。考えをまとめておけ」
「怖いなあ、その顔。シェリア嬢が怖がるよ……?」
眉を寄せたアルベルトが、勢いよくこちらを向いたけれど、私が怒られたわけでもないし怖くはない。微笑んで首をかしげると、なぜかアルベルトが泣きそうな表情を一瞬だけ浮かべた。
「……シェリアは、魔法をもう一度使いたい?」
「え? そうね、使えるなら使いたいけど……」
今は魔法がなくてもそれなりに幸せで、満足している。それは全部アルベルトのおかげだと……。
その言葉を伝えなかったことに後悔するのはもう少し先のことなのだった。
「そう。とりあえず、今日は疲れたから寝るか」
「そ、そうね」
「今夜は一緒に寝ようか」
「はい!?」
なぜか抱き上げられて、私はアルベルトの部屋へと連れて行かれた。
そしてぬいぐるみみたいに抱きしめられて、眠れぬ一夜を過ごしたのだった。
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