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夜会 1


 家族団らんを形にしたような幸せな食卓。

 湯気を立てたスープに彩りの美しい前菜、バランスが考えられた献立。


 ローランド侯爵家は、王国有数の大貴族でありながら、過度な贅沢を良しとしない。


 ミラベル様とジルベルト様は今日も仲の良さを感じさせながら喧嘩しているし、侯爵夫妻はとても仲睦まじい。


 残念ながら、アルベルトだけは忙しくほとんど食卓を囲むことはない。

 王立学園を卒業してから、アルベルトがこの屋敷に帰るのはいつも深夜だと聞いた。


「……」


 食事を終えて、すぐに向かったのは図書室だ。初代筆頭魔術師が書いたという本を抱えて深いグリーンのソファーに座る。


(帰り道、ディールは図書館の整理をアルベルトに頼まれたと言っていた……。これで、目録の作成と図書室の整理が進むわね)


 以前アルベルトが言っていたのは、ディールのことだったらしい。


 まだまだ、床には本が積み上がっているけれど、分類は進んできている。


「整理してみて気が付いたけれどこの図書室、使い魔とその世界に関する書物が多いのよね」


 それは、学生時代に私が専攻していた内容だ。

 ずっと読みたいと思っていた本が、まるでそのことを知っていたかのようにすべて揃っている図書室。


(まるで、私のために用意されたように思えるのは気のせいかしら。ううん、きっと気のせいじゃないわね)

『ふぉんっ!』

「フィー?」


 フィーの鳴き声で我に返る。

 なぜかフィーは、使い魔の本がお気に入りだ。

 本に鼻先を近づけては尻尾をぶんぶん振っている。


「……フィーは、内容を理解しているみたい」

『ふぉん?』


 首をかしげる姿は、まるで大型犬だ。

 使い魔を使役する学生はそれほど多くなかった。

 闇魔法の素養を持っていなければ、使い魔を召喚することはできないし、使い魔に選ばれなければ呼び出すことはできない。


「ねぇ、フィーはなぜ私を選んでくれたの?」

『ふぉん?』

「もう、私には魔力もないのに……。アルベルトの魔力を媒介にしたなら、今の主はアルベルトではないの?」

『ふぉんっ!!』


 少し怒ったようにフィーが鳴く。

 そのまま、鼻先を私の頬に擦り付けてベロベロと舐めてきた。


「ちょっ、くすぐったいわ」


 そのまま、大きな体に押し倒されて頬をベロベロ舐められ続ける。

 そうこうしているうちに、魔力のあるなしでフィーとの関係を測っていたことが馬鹿らしくなってくる。


 太い大きな首に手を回して抱きつく。

 悲しいときはいつもそばにいてくれた。

 愛しい私の使い魔。


「……はあ、全力で仕事を終えてきたら、シェリアが使い魔と浮気している」

「アルベルト、お帰りなさい」

「……ただいま」

「でも、使い魔と人が恋に落ちるなんて聞いたことないわ」

「……過去にはあった。だから離れろ、フィー」


 アルベルトは、私からフィーを引き剥がすと、そっと手を差し伸べて私を起こした。

 真っ白なハンカチを取り出して、ベトベトになってしまった私の頬を拭う。


「……」

「何かあったの?」

「……いや、そういえばその本、読みすすめたか?」

「うん、でも難解で……。魔法陣の癖が強くて読み取るのがページを追うごとに難しくなっていくというか。文章もあえてぼかされて書いてあるみたいだし……」

「初代筆頭魔術師は、君と同じタイプみたいだな」

「どういうこと」

「感性に忠実に書く魔法陣は、子どもがかいたみたいに酷く歪んでいるくせに効率的で他者は読み取るのに苦戦する」


 微妙に失礼な物言いに、アルベルトが言葉を濁していたことに私は気付くことができなかった。


「ところで、夜会の招待状が届いている」

「夜会?」


 そして、差し出された封筒。

 中には夜会の招待状が入っていた。

 差出人の名前は、レイラ様の兄であり王立魔術院の特級魔術師でもある、カルロ・デルフィーノ公爵令息だった。


「デルフィーノ公爵家の夜会?」

「ああ……」


 中の手紙にはアルベルトと私を夜会に招待したいとの旨が記されていた。


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