溺愛 2
図書室に入る。羞恥心に耐えられないからそろそろ降ろしてほしいと抗議しようとした直後、そっと降ろされる。
アルベルトは図書室の変化に気が付いたらしい。そう、私だって与えられた幸せを享受していただけではないのだ。
「……この本棚。魔術の系統順に並んでいるのか」
「そうよ。この本棚は見本よ」
残念なことに図書室は整然としているとは言いがたい。すべての本がいったん降ろされて、床に積み上げられている。
これから分類して、目録を記載し、本棚に戻すのだ。
「こんな感じでどうかと思って……」
「なるほど」
アルベルトは、1冊の本を本棚から取り出した。
そしてパラパラとめくり、しばらく何か思案しているようだった。
「……ところで、この本は全属性について記されているが」
「そうなのよ。その部分で悩んでいるんだけど……」
「そうだな。いったん、火魔法に分類して目録で検索できるようにするか……」
「そうねぇ」
ただ、それはあまりに手が掛かりすぎる。他にすることがないから時間はたくさんあるにしても、それまで本をこのままにしておくわけにはいかないし、かといって魔術書の劣化を考えれば私以外の人が触れるのは望ましくないだろう。
「目録と分類に関しては、助っ人のあてがある」
「えっ? でも……」
分類した物を書くだけとはいえ、専門知識がなければ難しいだろう。そもそも題名自体が古代語や他の国の言語で書かれているものが多く読むのも難しい。
「彼らが君に会わせろと、うるさくてな……」
「えっ、彼らって?」
「会ってからのお楽しみだ。それにしても、使用目的別とか難易度順に分類するという案は考えなかったのか」
「もちろんそれも考えたわ。でも……」
アルベルトの口角が楽しげに引き上げられた。
彼のこの表情、それは私たちの討論の時間の幕が開けた合図でもある。
結局のところ、私たちは朝まで本の分類法について激アツな討論をして過ごした。
そして一睡もしないまま仕事へ出掛けていくアルベルトと、やはり目の下にクマを作って彼を見送る私に、周囲の人たちが盛大な勘違いをしたことは言うまでもない。
――アルベルトを見送ったあと、ジルベルト様が近づいてきて私に微笑みかけた。
「昨夜はどうだった?」
「えっ? ……そうね、激アツな夜だったわ」
「おっ、兄様意外にも」
「こらっ! ジルベルト!! なんてデリカシーのない!!」
慌てた様子のミラベル様が、ジルベルト様の手首を掴んで連れ去る。
引っ張られながらサムズアップしてきたジルベルト様に曖昧な笑顔を返し手を振る。
誤解されていることに気が付かないのは、私とアルベルトの二人だけだ。つまり、この勘違いが解消されるには少々の時間経過が必要なのだった。
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