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007

 真っ昼間、人の往来が激しい道は僕のいつもの帰り道だった。

 夜にはみられない人だかり、景色、活気のある新聞屋は、声を張り上げながら人々に新聞を配り歩いていた。

 いつもは見れないそのすがすがしい往来を僕は大きな鉄くずをいくつも引きずり、自分の体に縛り付けたロープを何度も直しながら歩いていく、人々は怪訝な顔で睨みつけ、スタスタと速足でそれを避け後ろに過ぎ去っていく。


「ちょっと、あれヒューズじゃないかい?おーーい!ヒューズぅ!昨日はどこ行ってたのさぁ!」


 ……。

 帰ったら、さっそくエンジンの制作に取り掛からなくちゃ、原油は確か使っていないのがあったはず…まだ使えるかな、生成して確かめるしかないか…。

 僕はその呼びかけに全く気が付いておらず、鉄くずを引きずりながらメモ帳にこれから必要になるであろう材料のメモを書き記していた。


「どうしちゃったのかしら?こんな時間に帰るなんて…?」


 家に着くと玄関へは向かわず隣の農機具をしまうような大きな小屋へと入っていく、木造の薄い板を切り張りしたような簡素でボロい物だったが大きさはそこそこで、そこには今までの数多くの発明品や、机、大量の工具に棚、その上にはボタンを押すだけで録音した曲を流せる改造レコードプレイヤーが鎮座していた、そのプレイヤーで音楽を流すと鼻歌交じりに先程集めて来た鉄くずを机の後ろへと置き、机の上に置いてある自作の設計図を手に取ると手頃のボードを足元の散らかった発明品の山から取り、そこへ貼り付け椅子へと立てかける。


「よしっ!」


 作業を開始する、金属を曲げ削り、形を変え、幾度となく設計図を睨みつけながら、ふと立ち止まり、目につけたゴーグルや牛の革で作られた厚手の皮手袋を投げ捨て、横にある机で再び計算を始める。終わると元の設計図の上からそれを画鋲で貼り付け、再び作業に戻る。


 ネジを床に落とし、拾おうとしたとき足元が暗くネジは愚か、周りを見渡すと何処に何があるのか見えなくなっていた…日が暮れ一日の作業を終え隣にある家へと戻り寝ようとするが、寝れる気配がないと分かると飛び起き、今度は部屋中をウロウロと歩き回り足に紙や本がぶつかってもお構いなくぶつぶつと何かをつぶやくと、部屋中に所狭しと並んでいる本を十数冊取り出すと、慎重に製図台へと持っていき、ものすごい勢いで読み始める。

 二日…三日………一か月と、仕事にもいかずそんな生活を続けていたが。


「どうしよう…」


 とうとう手持ちの金を全て使い果たし、明日のパンも買えない状態となってしまった。

 

 いや、それよりも材料だよね…。


 木、木材、材木、金属、パイプ、鉄板、ネジ、角材、釘…そんな単語が繰り返し僕の頭を埋め尽くしていった。







「へぇ…そいつはいいや」

「そうさっ!この町一番のサンドウィッチだよ!一つ買っていくかい!?」

「あぁ、もらうよ!」

「毎度ありィ!!……ん?なんだいこりゃ」


 町へと繰り出し、橋の入口に露店を開いていた売り子へ話しかける。

 若く元気なお兄さんといった印象の売り子は、僕の前に手を出し金を催促するが、手に乗せたのはインクリボンほどの鉄の塊だった。


「坊ちゃん、金を払ってもらわねーとコイツは売れねーなぁ」

「…それはお金よりも、もっといいもんだよ?まぁ、あえてお金に換算するならこのサンドウィッチ百個は下らないね」

「はぁ…悪いけどよぉウチは換金屋じゃないんだ、金を持ってきてくれ、そうすりゃ売るよ」


 売り子は持たされたそれを返すように腕を伸ばすが、受け取らず、その鉄の塊の上面についているスイッチを押しこむ。

 すると上部が少しだけ浮き上がり、間に空気の通り道のような物が出来上がる。


「……なぁ、何なんだこれ?何にもならねーぞ………ん?」


 最初は何にもならなかったが、段々じんわりと熱を帯びて温かくなる。


「おぉ…おお!コイツはスゲー火もオイルも使わねーで、どうなってんだぁ?」

「Fe+3/4O2+3/2H2O → Fe(OH)3+96kalmol、って感じかな」

「あ?何じゃそりゃ訳が分かんねーよ」

「うん、そうだろうね」

「なんだ、企業秘密ってことか!ハッハッハ!」

「どう?すごいでしょ?ボタンを押すだけでいつでも何処でも温かくなるマシンだよ?今から寒くなるからねぇ、露店売りの兄さんにはちょうどいいんじゃない?」

「たしかにコイツはありがてぇ………あー!俺の負けだ!もってけ!!」

「ハハッ!じゃあ遠慮なく」


 店の出ていたサンドウィッチをポッケや帽子に、果てにはズボンの中にまでしまい始める。


「おいおい、少しは遠慮ってもんをだなぁ…」

「それ百個の価値があるって言ったでしょ?こんなもんでいいかな…じゃあまたねっ」

「ふぅーまぁいいか…へへっそれにしてもいいもん貰っちゃたな、ん…?何だこれ閉まんねーぞ?あれ?」


 僕はパンパンに膨れ上がった洋服を何とか押さえつけながら、帰路につく。

 それにしても、ただの鉄粉と水と土と炭の酸化反応でこんなに食料をゲットできるなんてね、化学様様だ…!…次は木材か…家の床材と倉庫の要らない壁はもう使っちゃったしな…


 もちろん買う金など無かった僕は考えながら道を歩くと自分の家の近く、町はずれの住宅街の庭に大きな木が何本も生えているのを発見する。


「これだ!」




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