002
「ホントだっ!やいっ!技師風情がコーヒーなんぞ飲んでんじゃねーよっ!」
「そりゃねーよ、俺たちだってなぁ珪肺と火傷と戦いながら必死に働いてんだ!コーヒーくらい飲むさ!なぁ!」
「そうだそうだ!」
ビームは発言したムキムキの作業員の顔を掴むと心底イライラした様子で足元に唾をプッ吐き出し、自分の顔の前まで作業員の顔を降ろしていく。
「グッ…ム……す˝、す˝みまぜん、ビーの坊ちゃん」
「一つ、休憩時間はすでに終わっている、二つ、お前らに意見する権利はない、三つ俺を愛称で呼ぶな!」
掴んでいた手を乱暴に離すと、全員ににらみを利かせる。
「お前らみたいな底辺をウチで雇って貰ってるだけありがたいと思え!良いか!お前らはウチの会社のため死ぬまで働け!病気になれば休めると思うなよ?心臓が動いてるうちは契約範囲内だ!分かったら作業に戻れ!!」
僕はこの作業員たちが好きだった、なし崩し的にここで一緒に働いているだけの仲だが、とても気のいい人たちで、何度か食料を分けてもらったこともある、自分たちがギリギリの生活をしているにも関わらず。
「ビ、ビーム!言いすぎなんじゃないか!?この人たちは早朝から深夜まで頑張って働いてるよ!」
「……なら、何故いま、時間を超えてだらけていた」
「そ、それは…」
「はぁ…またお前のせいか、ヒューズ、お前はいつもトラブルを起こす、やはり血には抗えないか?」
「ヒュ~」
「爺ちゃんと一緒にするなッ!僕はっ!」
近づいてきた取り巻き二人に体を押さえつけられ、腕を振り払おうと動かすが、二人係で押さえつけられ体はその場から動かせる状態ではなかった、もし動けていても、僕には抵抗なんてすることは許されないが…。
「なっ!止めろ!僕が何をしたっていうんだ!!」
「ヒヒッ、分かってんだろ?お前の爺さんがいけないんだぞ?恨み言は爺さんに言え」
取り巻きが嫌な声でそんなことを言う。
ビームはこちらへ顔をグイっと近づけ、僕に怖い顔で問いかける。
「なぁお前なんでウチで働いてるんだ?」
「クッ…この町で君の家の息がかかってない…ところなんてないじゃないか!」
「その通り、だからこの町で生きていきたいんだったらこの俺に立てつかないことだ」
「ヒッヒッヒッ」
「これか?また下らないものを作ったようだな」
そういうと手に持っていたコーヒー入りのカップを奪い取られる。
「ほぉ?コーヒーを出すマシンか」
ビームは僕の目の前でカップをクルクルと二回ほど回すと一気に中身を煽る。
……ウ˝ッ……ブフゥウウウウ!!!!
「だ、大丈夫ですかぁああ!ビームさーん!!」
と、それを勢いよく吐き出した。
それを見ていた周りの作業員たちは笑いを噛み殺し、中には小さくガッツポーズするものもいた、正直僕も少しガッツポーズした、押さえつけられながら…。
「ゲホッ…な、何だこれ…ゴホッ……オイルだオイルとサビた鉄の味だ」
「ビームさん、お召し物が」
「うわっ、うわぁああああああ!!と、特注の服が!!このッ!ヒューズ、てめぇええ!!!!」
「あ…!やっ、やめっ!!ぐっ!」
あいつは僕を殴ると、地面に伏したところを何度も何度も蹴りつけてきた。
背中に押し付けられた足は、僕の体を軋ませ鳴らす。
「テメェは!テメェの所の爺さん同様っ!クソの役にも立たないガラクタばかり作りやがって!おまけにっ!オラァ…!調子のいい妄言ばかりっ!!他人を巻き込んで先導して、最後には裏切る!爺さんそっくりの役立たずだな!テメェはぁ˝あ˝!!」
「ちょっ!ケガ、怪我しちまうっ!」
その様子を見かねた作業員達のおっちゃん達は間に入って止めてくれる。
「はぁはぁ…はぁぁ…」
ビームは荒々しい息を整えると、床で丸まっている僕を見て服装と髪を整える。
その様子を見た取り巻き二人はビームの服についたコーヒーをぬぐおうと自身のハンカチを取り出し近づくが、手で払いのけられ元の位置へと戻る。
「チッ、このキ〇ガイの孫が…行くぞ!」
「はいっ!」
「プッ!」
またそれだ…もううんざりする。
ビームたちはその場を後にし、取り巻きの一人は僕に向かって噛んでいたガムを吹きかけ、それが丸まった体にパシッと当たると、笑いながらビームたちに小走りで向かっていく。
遠くで重い鉄の扉が閉まる音がし、作業員たちは心配そうに丸まった僕を見る。
みるな…。僕をみるな…。
「……グズッ」
ピチョンピチョンと天井から湿った熱気が集まってできた水滴が目の前にぽたぽたと垂れ、小さい水たまりを作っていた。そこにかろうじて映った自分の左側の顔が青あざと腫れで痛ましく、それは次に落ちて来た水滴で歪んで見えなくなった。
(……………爺ちゃんなんて大嫌いだ)