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012

 飛行機の後ろに設置された白い布で覆われた、控室から手袋を直しながら出てくるサイモンは、歓声と拍手を受けると杖を持っていない手を上げてその歓声に応える。


『サイモン氏は以前から空を飛ぶことを夢見ており、今回なんと、ご自分でこの飛行機に乗り込み、空へと旅立つ様子をこの観客、並びに子供たちへ見せ、その素晴らしさを知らしめようという意気込みだということで…では、時間も時間ですので早速、世紀の瞬間を皆様に見ていただきましょう、テイクオフですッ!!』


 サイモンに並びジュールも後ろの控室の中から出てくると、機体の操縦かんに触り主翼が捩じれ動くことを確認すると、前輪の留め金を外し、サイモンを飛行機の羽の上の操縦席へと寝そべらせるように乗せると、機体の中心、やや下方についているエンジンへとクランクハンドルを差し込み、思いっきりグルグルと回す。


『あらっ、あの白衣の…ジュールじゃなくて?』

『んー?あっ!ホントだっ!おい、どうなってるんだ!!サイモンさんの出資を受けてたのって、あのお騒がせ者のジュール爺さんだったのかよ!!』

『なに!?これはジュール爺さんがが作ったのか!?』

『なんだよっ!インチキじゃないかこんなの!!飛ぶ分けねーよっ!!』


 ワーワー!

 一気に会場はヤジの飛び交い大騒ぎとなり、司会者は観客から投げられるゴミを搔い繰りながらマイクを手にする。


『み、皆さん!落ち着いてください!!ちょっ…いたっ…この飛行機は我らがサイモンさんが出資したプロジェクトであって、彼はジュールを信頼しておりますっ!なればこそ、こんなにも危険なフライトに自ら名乗り出て…やめっ止めてください!物を投げないで!!』

『お静かにィイイイイ!!』


 サイモンは飛行機の操縦席に寝そべりながら、マイクも使わずに会場全体に響き渡るほどの声で観客を黙らせる。


『確かに、このジュールという男を信頼できない人もいるだろう!だが、私は確信している!この男はこの男こそが!人類史に残る偉業を成し遂げる最初の一人になるということをッ!!』

『………。』

『…それを今から証明して見せよう』


 ブルゥウウウウウウウウウウン!!!!!!!


『…!!』


 エンジンが掛かり、飛行機は轟音と共に空気を揺らし、振動する。

 ジュールは急いでサイモンとは逆側の主翼へと寝そべるように乗り込むと、スタッフたちは主翼を傷つけないように丈夫な部分を手で押すと、丘の上から力いっぱい押し、その草原を滑らせる。

 二人を乗せた機体は丘の上から滑り落ちると徐々にスピードを上げていき、先端についているプロペラは風に乗り、凄まじいスピードで回転する。

 いつの間にか観客たちはその、滑り落ちスピードを上げるそれに視線を奪われ、丘の下で今か今かとその世紀の瞬間を見逃すまいと刮目して見ていた。


 ブウウウウン…。


『おかしい、計器ではもう飛んでいるはず…』

『だったらもっと、スピードあげろ!』


 ブウウウ…ボンッ…ブウウウウウン!ブウウウウウウウウウン!!


『サイモン!風圧に耐えられない、これ以上は駄目だ!!』

『かまうな!』


 ブウウウウウウウウウン、バギッ!!!!ビタンッ!カランッガン、ボンッ!バタン!!!!


 それは一瞬の出来事だった、丘の下から見ていた多くの観客たちは、その機体の破片に押しつぶされ、あるいは怪我をし、搭乗者二名のほか二十人の死傷者を出し、その丘に集まっていたほぼすべての観客は怪我をし、痛みを訴える惨劇となった。ただ、一人の観客席にいた男はその事件で心を病み、後にこう語った。


 目が合った。

 わたしは事故が起きたあの時、怖くなりその場にうずくまりました、そして周りの人が逃げ惑うなか空を見上げたんです。そうしたら、飛んでいました、サイモン氏が、顔は背中まで回り、体はありえない方向に曲がっていました。

 その時、皮肉にも夢をかなえながら死んでいったんです、えぇ、だってとても…いい笑顔でしたから。


『おーい!だれかっ!!助けてくれ!医者を…医者を呼んでくれ!!』


 キャァアアアアア!!!!


『父さん!父さん!!』

『サイモン氏が!サイモン氏が!!』

『こっちに来てくれ!子供が、うちの子供が息をしていないんだ!!』


 この事故が大きく取り上げられたのは、サイモン氏の死亡の他に同じく都市で議員をやられているトーマス氏の息子が亡なったことも一つの要因と言えるだろう。

 新聞はこれを一面に取り上げ、凶器のマッドサイエンティスト、ロック・ジュール氏によるサイモン市長殺害事件と報じ、民衆の心には大きな悲しみが流れ、この衝撃的な出来事を忘れないようにと市役所の前にはサイモン氏の銅像が建設され、その周りには今もな花束が添えられていた。







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