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読んでいただきありがとうございます、トネリカズアキです。

今回の短編はメインで執筆中の


~魔王軍のお荷物〈最弱クズ魔族は〉巨乳女騎士を体目的で助けたら裏切ったと勘違いされ、難攻不落の魔王城から脱出するために〈魔王様を出し抜くようです〉~


が多くの方に見ていただけているということで書いた、記念作品的な短編でして、気になった方は良ければこちらも読んでいただけるとありがたいです。→ https://ncode.syosetu.com/n2773ig/

『爺ちゃん見て!出来たっ!出来たよ!!』

『おぉ~ヒューズ、よく頑張ったなぁ!お前は賢い子だよ』

『えへへ…爺ちゃん何見てるの?』

『あぁ…こっちにおいで』


 ヒューズは膝の上に登ろうとイスの足置きに足を掛けると、ジュールは手で小さな体を持ち上げ膝の上へ座らせる。


『私は鳥がうらやましい…空を飛んで当たり前だと誰もが疑わないからだ』

『……私もいつか大空へ行くだろう、人類の誰もが到達することのできる未知の領域へ』










 1900年9月20日


 プシュゥウウウ!!

 警報機がけたたましく鳴り、薄暗く湿り気を帯びたこの岩を削り作られた坑道に響き渡る。

 ボロボロの薄汚れたTシャツを来た作業員たちは壁に張り巡らされ、蒸気が漏れ出すパイプを掻い潜りながらその音の方へと駆け足で向かい、僕もいつものように、作業を中断し、問題の起きたそこへ作業員と共に向かう。


「おいっどうなってる!!」

「N十二番バルブだ!急げ!!」

「グぅ…かてぇ」

「おーーいだれか!」

「貸してみろっ!!っつ!かてぇ」

「駄目だ!」


 プシュウウウウ!!

 問題のバルブから蒸気が勢いよく吹き出し、作業員の肌へと熱風を伝える。


「あつっ!!」

「大丈夫か!!クッソこの忙しいときにこのポンコツときたら」

「どいてっ!!」

 

 僕はこの薄暗く湿り気を帯びた坑道で、技師として働いていた。まともな職へはつけず、いつの間にか転落するようにランタンの明かりだけが頼りのこの地下へと気が付いた時には押し込められていた。

 ムキムキの作業員を退かし、ピッケルと首にまかれた汚れたタオルを持ってその問題のバルブへと到着する。

 ガキンッ

 バルブのハンドルにシャベルを噛ませ、足をナットの側面へ付け、全体重を乗せて回す、タオルを他の作業員に渡し逆側から回すように指示すると、一気に力を入れる。


「せーーのっ!」


 キュッキュッ…キュゥウウ

 シュウウウウゥゥ…ゥゥ……

 バルブを何とか締め直し、吹き出た汗をボロボロのタオルでふき取ると、周りには笑顔を取り繕って見せる。


「ありがとなヒューズ助かったよ」

「みんなの役に立ててよかったよ」


 この坑道の配管は、もうずいぶんとガタが来ており、日に何度かこうして不調に見舞われる、こういった対処を淡々とこなしていくと、普段の…考えなくていいあの日の思い出を忘れることが出来た、もしかしたらこの仕事は案外僕に合っているのかもしれない、最近はそう感じつつある。

 

 ジュゥウウウウ!!

 ビィーービィーーー!!

 

 だが、今日はいくら何でも多い気がする。


「今度は6番で漏れてるぞ!!」


 狭く湿った岩だらけの通路を急いで6番バルブへ駆けつける。


「何だこれどうなってる!?」

「見せてっ」


 何だこのバルブ、やけに回りの良い。

 というか、軽い、軽すぎる…まさか…!


「弁棒が折れて弁体が上がってこないだ…これを最後に締めた人は誰!?」

「あっ、お、俺だ」

「力を込めすぎだよ、このゲートバルブはもうだめだ、誰か!メインゲートの32番を締めてっ!交換しなきゃ」

「32番は駄目だ!!今はとめらんねぇ!」

「なら直前でいい!とにかくボンネットを外さなきゃここは使い物にならなくなっちゃうよ!」


 キュウ…キュウ…

 帽子を被った作業員は直前の管を締めて、他にてんやわんやしていた奴らに指示を飛ばす。


「よしっ…締めたぞ!だが長くはもたねぇ!!」

「ヒューズこれ使え」


 頭に包帯をぐるぐる巻きにした作業員は、以前この蒸気を浴びて大きな火傷をおり、その時は痛々しかったが、手作りの火傷直しは効いているようで、包帯の隙間からは治りかけの肌が少し見えていた。

 ここで働くような人間はまともな医者など見てもらえるはずもなく、時々怪我や病気に掛かるのだが、僕の直せる範疇ならこうして力を貸している、正直、僕の治療の腕などたいしたことはないのだが、医者にもまともに行けないような人間からしたらありがたいのだろう、その一件からこの作業員とは休憩時頻繁に話す仲になった。

 工具セットと他の作業員から奪った大量のタオルを貰う。


「ありがとう」


 カキンッガシャン…キュルキュルキュル

 蒸気を止めたはいいが、本体はとても高温になっているので慎重に取り外し、時折額から吹き出る汗をぬぐいながら作業を続ける。


「っつ……あつっ!」

「おい大丈夫か?かわるぞ」

「大丈夫…あともう少し」

「よしっ開けていいよ!」


 正常に作動するバルブを見て安堵すると共に、今日も規律正しく蒸気を運ぶパイプを見て少しの達成感を覚える。


「ぉおおお!」

「よくやった!」

「いや、たいしたもんだよ」

「ははっ、みんなの役に立てたなら良かったよ」

「爺さんとは違い良い子に育ってよかった」

「ほんとほんと」

「俺のやけどだって直してくれたしな!」

「爺ちゃんの話はやめてよ、僕は爺ちゃんとは違うんだ」

「ああ、まったくだ!」

「ハッハッハッハッハ!!!!」


 昼休み

 他の作業員がしけったパンを頬張りながら談笑している中、僕は一人食堂の端で廃材を使いあるものを制作していた。


「よしっスリーカード、俺の勝ちだな」

「チクショォ」

「へへっワリーな、コイツは頂いてくぜぇ」


 作業員はコーヒー豆の入った網目の荒い麻袋と横に置いてある葉巻を自分の方に寄せると、至福の一服と言った感じで卓上のガス式ランタンの硝子部分を開け葉巻に火をつける。


「出来たっ!!」

「ん?おーいヒューズがまた何か作ったみたいだぞー!」

「なんだなんだ」

「今度は何のガラクタだ?」

「ガラクタじゃないよ!これはコーヒーマシンだよ」

「コーヒーマシンだぁ?」

「そうさ!これを使えばレバーを引くだけで何時でも熱々のコーヒーが出てくるんだ」


 そこには複雑に絡み合ったパイプ、荒くむき出しのビーカー、小さなメーターに鉄色の何とも不格好な高さ五十センチほどのマシンがガコガコと音と共に振動しながら休憩室の端っこに置いてある机を占領していた。


「へぇそいつはすごいな…おいっ!」

「ちょっとこれ借りるよ」


 麻袋に入ったコーヒー豆をガバッと手で鷲掴みにするとそれをマシンの上部のラッパ状に開いた金属パーツへ流し込む。


「よっこらせっ!」


 マシンの横に取り付けられている、廃材の少しひしゃげたパイプを使った粗末なレバーを下へと降ろす。


 ガコンガコンガコン…キュゥウウウ!ギャギャギャ…ギィイイイ!!…………プシュゥウウウ…。

 カップを設置してある位置に黒くドロっとした液体が湯気と共に注がれ、それは確かにブラジル産のコーヒー豆の香り高い匂いを放っていた。

 作業員の何人かは喉をゴキュっと鳴らし、感嘆の声を上げる。


「コイツはすげぇ」


 僕はカップの持ち手をちょんちょんと触り、熱くないことを確認するとそれを手に取り、作業員たちに向けて高々と掲げる。


「さぁ!最初に飲みたいのは誰!?」

「おれだ!おれだ!!俺に飲ましてくれ!」


「なんだぁ!?クソ溜めに似合わないこの高級な香りはぁ!!」


 ビーム…僕と同じ13歳。市長であり議員でもある親の一人息子、色白で黒髪をオールバックに固めた、きつい目に高級そうな肩掛けズボンを履き、お付きのを二人連れて掘削作業途中の坑道を肩で風を切るように広がって歩いてく。周りにいる作業員はその行く手をふさがないように湿った石の壁にへばりついて避けている。


「……」


 シーンと静まり返る坑道内は、辺りに張り巡らされたパイプや奥に設置されているエンジン音がやかましく流れ、それが逆により一層静けさを際立たせていた。

 お付きの一人がこちらへ話しかけてくる。


「あっ!何だそれ!?コーヒーじゃねーか?」


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