第4話 暇なんですよ、超暇です。どれくらい暇かって、海や氷に写った自分の顔に話しかけるぐらいには(以下省略)
今更ですけどTwitterを始めたので報告を。
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「小説家になろう」や「ハーメルン」への投稿報告はここからつぶやくようにしますので、良かったら見てください。
「ねー、最近の映画ヤバくない?」
「ヤバイよね。CGの技術力が上がったっていうか……」
「ほら何だっけ? あの、有名な魔法使いの映画」
「え~っと……本当に何だっけ? メガネの男の子が主役だったけど」
「ちょっとー、超有名な映画のタイトル忘れるとかなくない私?」
「そっちだって思いっきり忘れてるじゃん私」
「……ただでさえ前世あやふやなのに、覚えてられるわけないでしょ」
「……だよねー。情報媒体もメモする物も無いから、どんどん記憶から抜け落ちる抜け落ちる。こんな体なのに何で記憶力は並みなのか?」
「たぶん、そのくせ人類が言語使うようになったら、それが今まで聞いたこともないやつだとしてもすぐ喋れるんだろうね。ネイティブで」
「私ら転生させた存在、絶対適当に作ったでしょ」
「案外、私生活がダメダメなエリートが初めて作った玩具みたいな扱いなのかもよ? 材料一流で制作者三流みたいな」
「あはは、あり得そう~」
「………………」
――ビュオオオオオウ!
「……笑えないわー」
冷たい空気が吹き込み、それが余計に寂しさを演出している。
さすが1万年以上前の南極。寒さが尋常じゃない。氷だって端から端まである。人だったら防寒具着込んだってキツいだろう。そんな中で“寒い”ことは自覚しているのに、普通に適応して暮らしている私よ。我ながら体の頑丈さに引く。
そんな体の頑丈さに比べて、心の中途半端さが目立つ今日この頃。
「とうとう自分で自分に話しかけるようになっちゃったなー。転生前の日本だったら精神科で見てもらうのかもなー」
さっきまで友達と喋っている風を装っていたけど……何てことはない。ピカピカに磨いた氷の塊に写った自分に話しかけてただけだ。
すぐ側で原産地私の宝石を燃料代わりに焚き火をしているせいで、こう、絵面から余計に寂しさが滲み出ている。
それもこれも、暇すぎるのが悪い。
「正確には分からないけど、あれから1000年ぐらいは経っているよね」
目安もあるからそれぐらいは経っているはず。
あの日、突然原始時代に訳分からん体と能力をもった状態で降臨(?)した私。最近じゃ自分が転生者にカテゴリーされていいのかと悩んでいる。だって最初に自分が転生者だと思った理由である現代日本での記憶もどんどん忘れていくんだもん。
本格的に自分が何者なのか分からないんだもん。
結局、1000年経った今でも神様的な存在からの接触はない。
私はアイデンティティが交通渋滞を起こしている状態で生きていくしかなくなった。冗談ではなく誰でもいいから交通整理してほしい。
「最初の数年は良かったんだ。ポジティブに考えられたんだ」
現地人――もとい原始人から逃げたあと、偶然辿り着いたのがここ南極。
ちょうどいいからと頭を冷やし、目安と戯れ、せっかくだからこの転移っぽい力で世界中を回りながら自分をしろうと決意した。
前の私が生きていた時代ではすでに絶滅した動物や、進化する前の祖先とされる動物を見るのは中々に良かった。
景色だって大自然を綺麗だと思う心は残っていたので、文字通り端から端まで見て回った。1万年以上過去だから、私の知る限りの有名所へ向かいメディアで見たものとの比較をするという楽しみ方もあった。
世界1周をしている間に自分を知ることだって忘れない。
様々な場所、条件下で体に眠る不思議パワーを試して何ができて何ができないのかを思いつく限り検証した。
……結果、全部できてしまったんだけど。
ゲームだったらチートを超えたバグ扱いだよ。持て余すよ。使いどころなんて今でも分からないものの方が多いよ。ゲームバランス崩壊だよ。
そんな目を背けたくなることとも向き合って約10年、ついに私は本当の意味で世界中を回り終えた。
終えてしまったのだ。
「本っ当! この時代何もすることない!!」
八つ当たりに全長8メートル程の氷の壁へ不思議パワーを乗せた拳を叩き込めば、放射状の亀裂が広がり壁が粉々に砕け散った。
ビックリ仰天の威力だけど、こんなの序の口だったりする。
もはやこの程度で驚く時期はとうに過ぎていた。
「そもそもさぁ!! 原始人しかいないのが原因なんだよ!」
前世の観光地がどれだけ素晴らしいのかが良く分かった。
そこに根付く文化と人々に触れ合うのも一種の楽しみ方だったんだ。
では、1万年以上前の原始人の文化とは何でしょうか?
狩り! 動物や魚を捕まえて食べるぞ!
採取! 服にできそうな植物や食べられそうな木の実を取るよ!
生活! 基本的に洞窟の中で暮らしているぜ!
以上!!
「世界中の原始人がこれじゃ、文化の違いすらまともにない……!」
考えたら当然だけど、この時代の人類は進化している最中。ほとんどの場合日々の暮らしで精一杯。
その地域に根付いた文化を作る余裕なんてない。
というか、根を張っているかも怪しい時期だ。
これ西暦にならないと文化の違いもクソもなくない?
エジプト文明ぐらい違うならともかく。
仮に現在がちょうど1万年前だとしても、単純計算で8000年は掛かってしまう。普通の精神だったら発狂するわ。
今の精神構造は明らかに違うのが救いだけど。
「もう1つの救いは、意識して寝ると軽く数年は過ぎていることか」
目安を作っていたから気付けたけど、どうも私は「次起きた時、数年ぐらい経ってないかなー?」と考えてから眠りにつくと、本当に数年~十数年は眠り続けるらしい。
本来は睡眠の必要はないみたいだし、それどころか食事も必要としないけど、しようと思えばできる体だった。
とはいえ、睡眠は1度するとしばらく全く眠れる気がしないので起きて何かする必要がある。だから暇で暇でしょうがないんだけど。
「いや、感謝してるよ目安くん」
「クエ?」
「キミらがいなかったら暇さに拍車が掛かっていただろうからね」
「クエ~♪」
感謝の意を込めていつの間にか群れごと近づいてきた目安くんこと、ペンギンの48代目ペンペンくんの頭を撫でる。
(知ってて良かったペンギンの寿命)
南極を拠点の1つにするに当たって交流を持つことになったのが、とあるペンギンの群れとそのリーダーである。
最初は警戒されたけど地道な努力が実を結んで仲良くなれたのだ。私は友好の印に「ペンペン」という安直な名前をプレゼントした。
それからしばらくして、あることを思いつく。
1万年以上前の南極で生きるペンギンだから細部は異なるけど、ペンギンであることは間違いない。なら寿命も野生のペンギンの平均20年~30年であるはず。
そして私には、検証の結果ファンタジーでいうところの魔石のような存在である涙が宝石化した物質を持っている。
この1000年で何度も泣いたことで溜まった物質が!
その中の2、3個を理屈を無視して粘土みたくコネコネ合体させ、1つにしたらそこに紐(植物を不思議パワーで加工)を通して初代ペンペンくんへプレゼントしたのである。
最低限知能が高くなるよう、時期が来たらリーダーの証として次に繋げるよう、その時まで宝石と共に生きられるよう願いを込めて。
その時はちゃんと効果があるのか不安だったけど……こうして48代目まで無事継承されていった。
おかげで継承されるまでのおおよそのスパンを計算すれば、あの日から大体何年経ったのか分かるようになった。
願いが叶った影響か代々のペンペンくんは頭がよく、私を見るとすぐ近寄って自己紹介してくる。傍目からは「ガークアー」鳴いてるだけだけど、テレパシーなのか「お会いできて光栄です! 自分、48代目ペンペンと申します!」みたいに聞こえる。
必要だったとはいえ、これ南極に探検家が来る時代になってもペンペンくんの名が宝石と共に受け継がれてたらどうしよ?
いや、その時点で私もいるだろうし、人類に何らかの形で関わるのは決定だから私の方が話題を掻っ攫うかもしれないか。
とはいえ、今から数千年後を考えても意味ない。
その時のことはその時考えようそうしよう。
最初の10年程は壮大な景色見て「おーすごーい!」で終わってしまう話なのでめっちゃ端折ります。原始人の暮らしも特別見所はないので、見ててもあまりおもしろくないと仲良くなった動物と戯れています。(現実逃避)
次回は閑話でドキュメンタリーの続きから。