閑話 ドキュメンタリー『例の少女に迫る』
今回、ラスコーの壁画風挿絵があります。苦手な人は設定変更を。
時は20XX年。
いくつもの家庭にあるテレビから映像が流れる。
落ち着いた雰囲気のスタジオで男女の司会が挨拶をしだした。
「皆さん、こんばんは。本日も当番組をよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
それはありふれた番組。
芸能人を招く訳でもなく、世界で実際に起こっている出来事や歴史上の偉人の人生をマジメに放送するもの。
特別有名な番組ではないが、この日の放送だけは通常よりも視聴者が多かった。それ程までに注目される内容だったのだ。
「さて、今回は皆様も人生で1度は必ず耳にする『青髪の女』または『例の少女』と呼ばれる不思議な女性について詳しく説明させていただきます」
「この番組でいつか取り上げるのではと……と思っていましたがついに、ですね。いやー私も楽しみです」
「〇〇さんは『例の少女』のことをどれ程ご存じで?」
「初めて知ったのは小学生の頃でしたね。気になって調べたら予想外に目撃されていましたし、このような存在がいるのかと子供ながらにとても驚いた記憶があります。今の時代の人なら1度どころか何度も耳にするんじゃないですか?」
「そうですね。『例の少女』について1900年代までは一般人に情報が広まるための基礎――国の政治的判断であったり、ほとんどの人が持っているであろうパソコンやスマホなどの情報媒体が普及しなかったために知らない人も大勢いましたが、終戦後の高度経済成長期から自由な情報交換によって広がりを見せ、海外との平和的な交流、日本・世界の歴史への興味、情報媒体による情報の交換などによって世界中の人々が『例の少女』を知ることとなりました」
「それまでは一種の都市伝説的な扱いで、直接見た人・接触した人以外は信じない人の方が多かったとも聞きます。頭の硬い大人などは集団幻覚だと決めつけていたと、資料から判明しております」
「分からなくはないのですよ。私などもう良い年ですが、子供の頃から『例の少女』の話は伝え聞いていましたから、漠然とそんな存在もいるのだと不思議がりながらも肯定はしていましたし。そうでない大人が突然人とは思えない不思議な少女を見かけた・出会ったと言っても信じてもらえないでしょう」
「仕方ないですけど、歴史上の多くの偉人たちが出会っているのに周りに信じてくれる人が少ないというのは、何らかの形で救われた側からすればやるせない気持ちになってしまいますよ」
「ですが、信じられずにいたのは過去の話。今では正式に教科書に載せるべきとの意見が出るほど。もう彼女は幻覚や都市伝説の類いではない。今、私たちの生きているこの星で唯一のファンタジーな存在です」
「今日はそんな『例の少女』を知らない方々のために、一体彼女は何なのか、どういった存在なのか、現在までに判明していることを放送します」
画面が変わり1人の青い髪をした少女のCG画像が映し出される。
暗い画面の中、僅かに光る少女は神秘的に見えた。
「『例の少女』。そもそも彼女が何者なのか、まだハッキリした答えはありません」
ナレーションの言葉と共に様々な歴史に名を残す偉人・建造物・事件記事の写真がCGの周りを飛び交う。
「分かっているのは、この青い髪をした少女が何千年も前からその姿を変えることなく、世界中で痕跡を残していることです。信じられない話ですが、最低でも西暦が始まる前から少女の姿で歴史上のあらゆる場所に出没しています」
再び画面は変わり、どこかの博物館の中が映し出される。
登場したのは日本が誇る考古学の権威だ。
「『例の少女』がいつから存在するのか? ハッキリ言えることは少ないですが、最低でも〇〇万年以上前からいるのは確実でしょう。こちらを見てください。日本に数カ所しかない石器時代の壁画です」
考古学者が出したボードにはとある壁画の写真があった。
それは当時のことを知れる歴史的価値が高い壁画であったが、その中に1つ奇妙なものが混じっている
「発見された当時は非常に話題になったものです。描かれた絵から大まかにどんな生活をしていたのかが読み取れるのですが、この絵だけは異端でした」
抽象的な画風で書かれた人らしきものや、当時狩られていたマンモスやナウマンゾウと思われる動物とも違う、女性と思わしき絵があった。
「当時の人類はまだまだ進化の途中です。周りと同じく簡単なシルエットのような絵が限界でした。しかしながらこの絵には簡単ながらも服や髪といった描く必要のないものまで描かれています。つまり、それほど必死に絵の女性を描きたかったのでしょう。実際、僅かな跡から何度も書き直していることが調査の結果判明したのです」
――間違いなく、これを描いた人たちにとって重要人物だった。それこそ、もしかすれば恩人だったのかも知れない。
そう考古学者は予想を口にする。
「絵から読み解ける情報を元に推測しましたが、非常に凶暴なマンモスによって危機に陥っていたところを助けられたのではないでしょうか?」
さらに別のボードを見せた。
「こちらは近くにあった別の絵なのですが、通常よりも一際大きく描かれたマンモスと、その側で横に倒れ込んだ人たちの絵があります。これはこのマンモスによって何人も犠牲者が出たことを表わしています。――ほらこのマンモス、絵の女性の近くに描かれているのと大きさが一緒です」
そう言って、最初のボードと並べる。
「それを踏まえて読み解くと、絵の女性は何らかの方法でこのマンモスを退け、当時の人たちから感謝されたと考えました。段々と見えてきませんか。女性から逃げるマンモス、その女性に感謝する人たち、私たちにはそうとしか思えません。この壁画から私たち考古学者は絵の女性こそ『例の少女』だと確信しました」
――石器時代に服らしい服を着ている人なんて他にいませんから、と言って笑いだした。
さらに、絵の女性が『例の少女』だと考える別の根拠もあるという。
またしても場所は変わり、都内にある研究施設へと入っていく。
いくつもの扉を通り、カメラマンたちのボディチェックを済ませ、ようやく目的のモノを見ることが叶った。
「こちらは先程説明した壁画の絵、その真下にあった箱です。石器時代の人たちが必死に頭を働かせてこの形にしたのでしょう」
それは長い年月の中でボロボロであったが、かろうじて箱と呼べるものだった。石をくりぬいて縄で蓋を固定していたと見られる。
「この中に納められていたのですよ。『青の涙』が! 天文学的な価値がある不思議な力が宿った世界で最も高価とされる宝石が!」
ここでナレーションの説明が入る。
「『青の涙』とは直径1センチ程の小さな宝石で、透明度がある海のような、あるいは空のような美しい青色が特徴の宝石です。光に当てて見ると海の色と空の色が混じり合い揺らめくことでも有名です。同じ名前の海面が光輝く現象もその美しさから人気があります」
CGの少女の目から涙が零れ、それが宝石になる。
「この『青の涙』、実は『例の少女』が流した涙が宝石化したものであるということが近年発見された資料から明らかとなりました。あり得ないような話ですが、事実この宝石にはまるで魔法のような不思議な効果があります」
「信じられますか? 『青の涙』はこの小ささでありながら、途轍もないエネルギーを宿しているのです。それも持続的に放出可能なエネルギーを! 底を見せることなく! これを利用した原子力発電所の代わりとなる施設が作られたことで核廃棄物問題や事故による汚染の危険性が取り除かれたことは大きいです」
研究所の責任者が実物の『青の涙』を見せて解説をする。
可能であれば世界中の原子力発電所を取り壊して『青の涙』を使用した発電施設に総入れ替えしたいぐらいだと。
「ですが、現実は厳しいです。『青の涙』の数が少なすぎるのですから。日本は壁画の下に置いてあった箱から最大発見数の『青の涙』を手に入れましたが、独占は争いの元になると国連の方々が取り決めた条約で『青の涙』を使用した発電所は1国に対して1つと定められてしまいました」
当時の総理が世間からのバッシングを受けたことは記憶に新しいと言う。
「もちろん所持権まで奪われたわけではありません。研究用の『青の涙』以外は――まぁ、ぼったくりとも言われかねない価格で『青の涙』を持たず、しかし発電所の建設と管理が可能な国々へ売りましたしね。おかげで日本が抱えていた負責を多く無くすことができたのは良いことなのでしょう」
『青の涙』は今後も発見できるのか、という質問に対して。
「ゼロとは申しませんが難しいかと。中には隠し持っている国が――いや個人だっているはずです。今の時代に調べられていない場所の方が少ないことを考えると、精々片手で数えられるぐらいがいいところじゃないですか? 欲を上げたら切りがありませんが、今後のエネルギー問題を解決するためにはもっともっと欲しいと思いますよ」
――『青の涙』が『例の少女』由来のものなら、その『例の少女』が現れた際に頼むこともできるのではないか? 今まで世界を見守ってきたんだ。世界のためにも涙をたくさん流してもらおうじゃないか!
そんな発言をしたことで、過激な団体に襲われ辞職にまで追い込まれた海外の議員がいましたが、やり方は置いておくとして『例の少女』と交渉などは可能であるのか、という質問をしたところ衝撃の事実が明らかになる。
「あー、あの問題ある発言ばかりしていた……日本は少ないが、海外には『例の少女』を神と同一視している団体が多いですからね。下手をすれば宗教問題にまで発展しますから気を付けた方がいいですよ? ――と、交渉の話でしたか。『例の少女』は何者にも、どこにも縛られずに世界を転々としていますから、交渉したい人の前に現れる確率は非常に低いです。しかし、実は奇跡的に巡り会えた事例があります。その人は最大限に『例の少女』を敬いながら交渉を行ったそうですが……」
研究者は苦笑いする。
「とんでもなく嫌な顔をされたそうです。何万年も存在し続ける神に例えられるような超常的な存在ではなく、普通の女の子みたいに顔を引きつらせていたと。それからすぐ『例の少女』はその場から消え去り、一生に一度あるかないかの交渉は失敗に終わりました。後に交渉した人物はこう語っています。“ある日、久々に娘をお風呂へ入れようとした時の生理的な嫌悪感を宿した顔と同じ顔だったよ”ってね」
ここで番組スタッフがふと疑問に思ったことを口にする。
「皆さんは『例の少女』や『青髪の女』などの通称で呼んでおりますが、彼女には名前があるのでしょうか?」
「もちろんありますよ。彼女本人が名乗っていたという記録はいくつも見つかっていますから。主に『例の少女』という通称をよく使用するのは、敬意や畏怖の感情から名を呼ぶことが躊躇われたからだと考えられています」
偶然、とある言葉と同じ名前だったのも理由だという。
「そう、彼女の名は――」
大体はこのように「主人公が過去で色々する」→「その時代でor現代でビックリするようなことが起こってた!」という流れになります。
主人公の名前が出るのはもうちょい先。
この話は一旦ここで終わります。
次回は気が向いた時に。
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今後の予定は活動報告にて。