第3話 言葉は通じないけど何か崇められたのは理解できた(ただし、理解できただけである)
そりゃ泣くよ。
誰だって泣くさ。
目の前にいるのは見間違えることなんてないと断言できるぐらい、原始人らしい原始人だったんだもん。
もうこの時点でちょっと察している。
あれ? ここ異世界じゃなくね? と。
1万年以上前の時代にタイムスリップしてない? と。
この時代でこの体の使いどころが謎過ぎるよ神様……と。
「神様、私は前世でそんな罰当たりなことをしましたか……?」
どんな罰ゲームだというのか。
何のためにここに存在するのか本気で分からなくなってきた。
あ、余計に涙が……
「……! ~~!!」
あー、はいはい。そりゃ驚くよね。
この時代の人からすれば異物も良いところだものね。
現に私の流した涙が見たことない宝石になって地面に落ちている。わー、すっごい綺麗な宝石だなー(現実逃避)。
「バォオオオオオオオン!!」
「――!?」
と、死んだ魚の目になっていたら事態が動いていた。
石斧を持っていた原始人の方がマンモスの牙に肩を貫かれている。
痛そう。すごい血が出てる。
この人たちが弱いというより、あのマンモスが強すぎるって感じだ。
そうでなければ、普通狩ろうとすら思わないだろうし。
「~~~!!」
私の側で驚いていた人が悲鳴のような声を上げていた。
あらぬ方向に曲がった腕を、牙で貫かれた人に伸ばしている。
この感情は……悲壮?
親友とかそんな関係だったのかな?
私のこと無視して、足も骨が折れているのに無理して向かおうとしている。
「さすがに……見過ごせないよね」
原始人とはいえそこで繰り広げられている人間ドラマを見れば、萎えた心も多少は動くというもの。というか、無視できるほど冷めてない。
「仕方ない。行くか」
体の中にある不思議パワーを意識して、ほぼ感覚オンリーで行使。
私の足は地面から離れて浮き始め、自動車並みの速度で暴れん坊マンモスの元へと飛翔する。そこまで離れていないこともありすぐ到着。
目の前にいるマンモスも、戦意を喪失した原始人たちも驚いている。
ついでに私も内心驚いている。
空気抵抗一切感じ無かったんだけど、どういう原理で飛んだの?
「……やっぱり大きい。何? キミ、ボスキャラ?」
ほんの数メートルしか離れていないマンモスの巨体を見上げる。
もう明らかにデカい。人類が挑むには早すぎたとしか思えない。
なのに、一切の恐怖心が体から湧き上がらない。
今だって小動物を前にしているような心持ちだった、
だから自分のやることは。
「……メッ!」
悪いことをした子にするように、叱ることだ。
もちろん不思議パワーを自分の発した言葉に乗せることも忘れない。
これで大人しくなってくれればいいなーと、例え効かずそのまま死ぬことになっても原始時代とおさらばできるしどうでもいいやーと、そんな軽い気持ちでやったのに……
「パァオオオ~~~~~ン!!?」
脱兎のごとく逃げ出した。
天敵に見つかってなり振り構わず逃げ出す動物のようだ。
途中転けそうになったのに「んなもん知るか!」と全力で走っている。今逃げられれば明日から歩けなくなってもいいと言わんばかりに。
逃げたマンモスから伝わってくる感情は驚愕・恐怖・絶望の3種。
もうこれ以上無いほどに恐がられていた。
「……確かに不思議パワーを声に乗せたよ? あわよくば立ち去ってくれないかなとか願ってたよ? でも、あそこまで恐がらなくてもいいじゃない」
すごい悲しい気分になる。
「ちっ、仕方ねーなー」って雰囲気で退散してくれることを望んでいたのに、実際は「いやぁあああっ! 化け物~!!」と言っているようににしか見えない走りを見せたマンモスくん。強く生きてくださいと慰めるしかない。
「問題は……まだ残っているんだよね」
先程からすごい視線を感じる。
後ろに振り向けば、信じられないものを見てしまった!と、顔に書いてある原始人たちがいた。
まだ祖先であるサル(猿人だっけ?)の面影が残るモジャ顔でも分かるものだなー。目が点になって、顎が外れそうになってる表情の時点で丸わかりか。あんなのマンガでしか見たことないもん。
「――っと、そんなこと考えてる場合じゃなかった」
急いでとある原始人――マンモスの牙で肩を貫かれた人の元へ駆け寄る。
「うっ、酷い……」
グロ耐性のある体だからか吐き気こそ込み上げてこなかったけど、見た瞬間「今すぐどうにかしないと助からない」と思える傷だった。
牙で貫かれた肩には大穴が開いており、骨なんて粉々だ。出血もヤバイ。
前世の時代だって緊急搬送されても助かる見込みは限りなく低いだろう。
でも、ここにはスーパースペックの謎存在がいる。そう、私だ。
願えば大概のことをやってのける不思議なパワーがあるんだから、魔法みたいな治療だってできるはず! ……というか、できるな。簡単にできるみたい。本能(?)で理解しちゃった。
「治れ!」
半死半生状態のその人に手を翳せば、手から出るのは暖かな光。
光は肩の傷に吸い込まれるよう降り注ぎ――次の瞬間には治ってしまった。
……え? ちょ、早っ!?
瞬きする間に傷が塞がったんだけど!
治ったこと喜ぶ余韻とか吹き飛んだよ! まるで紙芝居のように次のページをめくったら一気に場面が変化したページになった感じだ。
「!? ……? ……~!!」
うんうん、そりゃ驚くよね。
さっきまで顔色が青を通り越して白になり始めていたのに、もう血色の良い顔色に戻ったんだもんね。直された本人が1番意味不明だよね。
もうこうなったらヤケクソだ。
最初に会ったマンモスの鼻で吹き飛ばされた人の元へ向かい、同じ治療をする。
光が降り注ぎました! 骨折全部治りました! 以上!
情緒もなければ余韻もない。せめて治る過程を見たかった。
ここまで来ると、逆に今の私って何ができないんだろうね?
「! ――! ――!」
「――、~~~?」
「~~!!」
本日何度目か分からない現実逃避をしていたところ、何かうるさいなと思えば傷を治した2人とその仲間らしき数人の原始人たちがひれ伏していた。
何事!?
全員から向けられるのは感謝の感情だった。それもめっさ重い。
神様みたいに崇拝されているようでいたたまれない。
やめて!
私、この体になってから怪しいけど精神は一般人なの!
そんな眼差しで見ないで!
どうにかこの場を去ろうと体の不思議パワーに意識を向け、ちょうど良さそうのものがあったので深く考えずに使う。
「それじゃあ、またどこかで!」
お辞儀をして、不思議パワー発動。
私の視界は一瞬で切り替わり――
「……ここ、イズ、どこ?」
氷で覆われた世界に立っていた。
え? 南極か北極?
次回、作者が1番やりたかった閑話。