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第2話 現地人と遭遇――じゃなくて、原始人と遭遇

 日本だと北海道にまでなら生息してたらしいですよ?


「う~~~~~ん……???」


 目を凝らすようにマンモス(?)を観察する。

 100メートル以上離れた場所からでも細部が分かる謎の超視力によってマンモス――正確にはマンモスの群れをじっくり見る。


 群れは休憩中なのか川の水を飲んでいた。

 野太い声で時折「パオパオ」言っている。

 あ、赤ちゃんマンモスは可愛いなぁ。


 その姿はまさしく歴史の教科書やテレビで見たもの。

 武器を持たない人間が前に出ていい存在ではない。

 普通の人間ならすぐ縮み上がってしまう程の巨体だった。


 ……なぜか私の体は平常運転だけど。

 おかしいな?

 前世で良く吠える怖い犬と遭遇した時に感じた恐怖心みたいのが、全く感じられない。むしろ目の前にいてもどうにでもできるといった、私本人が戸惑うぐらいに謎の自信が溢れてくる。


 相変わらずこの体のスペックが怖すぎる。

 気軽に試すには問題が多い。

 その気になればスーパー〇イヤ人になれるんじゃないの?


「そんなスペック持ちなのに、初遭遇がマンモスって……」


 マンモスって、ぶっちゃけただの絶滅した動物だよ?


 うろ覚えで思い出せるのは、約400万年前から1万年前まで生息していたとか何とか。諸説あるみたいだけど、1万年単位の誤差とか正直考えるだけ無駄だと思っている。規模が大きすぎてフワッとしたことしか感覚で理解できないし。


 確か大雑把な括りで原始人と呼ばれる時代の人たちが石斧などを使って狩猟していたんだっけ。いやすごいなー原始人。あんなのに立ち向かえるなんて……


「マンモスか……」


 強いんだろう。

 前世に存在していた動物と戦わせても大抵は勝ってしまうんだろう。

 いかにもな強敵だ。


 が、しかし、


「普通、異世界って言ったらスライムとかゴブリンでしょ」


 定番中の定番と言ったらその2匹だ。

 それ以外だとしてもファンタジー要素がどこかしらあるはず。この際マイナーでもいい。ちょっとでも異世界感があれば納得できた。


 なのに……マンモス。


「納得できないよぅ~」


 何? 私ったらどんな世界に生まれ変わっちゃったの?


 どうせ異世界に行くなら妖精さんとかいるファンシーな世界がよかった。

 そうでなくても剣と魔法のファンタジーな世界なら納得できた。


 でも、私が来たのはマンマスが当たり前のように闊歩する世界。

 どんな世界観なのか予想できない。

 これでこの世界に住む人が原始人みたいな人だけなら泣くかもしれない。


「大丈夫、まだ大丈夫。ここがド田舎なだけの可能性もある」


 最近のファンタジー世界も似た世界観の作品の中で埋没しないよう、変わった設定も多いと聞いている。この世界の場合、それがマンモスだっただけ。例えそのマンマスから私が持っているような不思議パワーが一切感じ取れず、本当にただのマンモスなのだとしても偶然と言えば偶然なんだ。

 私はそう心に決めた。


「川沿いに歩くのは間違いない訳だし、どこかで異世界要素に巡り会えるはず」


 マンモスの群れを避けるように迂回しながら、当初の予定通り川に沿って歩いて行く。


 そうして歩いて、


 歩いて、


 試しにちょっと浮遊して(――!?)、


 また歩く。


 歩くのが暇すぎて途中とんでもないことをしてしまったが、概ね平和なウォーキングとなっている。……できそうかもと思って念じてみたら、本当に飛べちゃった件は一先ず忘れようそうしよう。


 で、どれくらい歩いたのか周囲の景色も変わってきたな~と感想を抱いてきた頃に――無視できない光景を見ることとなった。



「バオオォオオオオオオオオオンンンッ!!」


「~~~!」


「――! ――!?」



 はぐれ……というべきか、先程見かけた群れのマンモスたちと比べても一際大きな体を持つマンモスが、長い鼻と牙を振り回して暴れ回っていた。

 巨体から放たれるパワーはさすがと言うべきか、それなりに離れた距離にいる私の方まで地響きが聞こえるかのような迫力がある。


 問題なのは戦っている人の方。

 そう、人だ。

 何人かでマンモスを囲って、手に持つ武器で攻撃しようとしている人たち。私に取って初の現地人との遭遇となる方々。


「………………うわー」


 本来なら喜ぶべきなんだろう。

 意志の疎通ができる相手とようやく会えたと涙を流す場面だろう。

 なのに口から出てきたのは現実逃避に失敗したかのような、感情が乗っているようで乗っていない言葉ですらない何かだった。


 マンモスの長い鼻が振るわれ、近くにいた人を吹き飛ばす。

 幸いにも押し出されるような形だったので致命傷とはなっていないんだろうけど、私のすぐ近くまで飛ばされたせいで重傷となっている。骨折も確実にしているだろうし、治療しなければ死んでしまうだろう。


 それでも吹っ飛ばされた人は僅かに意識があるのか、私に気付いて目を見開いた。まるで未知との遭遇を果たした人の顔だ。


「! ~~? ……、~!」


 残念ながら彼が何を言っているのか分からない。


 言語が通じないというよりも、言語が未発達・・・・・・なせいでハイスペックな私でも意思疎通が難しいと言うべきかもしれない。

 驚いていることぐらいしか伝わらなかった。



 動物の皮か植物を最低限の加工だけで整えたらしい服。


 棒に石を括り付けただけの石斧。


 私の知る人種とは少し違う骨格にヒゲもじゃ顔。



 誰もが想像するような姿の原始人がそこにいた。


 私は静かに泣いた。



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