プロローグ 現実的に考えたらパニックかフリーズかの2択で、冷静に考えられる時点で異常だよね
最初に言うこととして唐突すぎるけど、どうやら私は森の中にいるらしい。
「いや説明ぇ……」
誰か、誰か説明をしてほしい……!
ここはどこで、私は誰なの!?
「まずは現状把握よね」
転生。もしくは憑依。
最初に思い浮んだのはそれだった。
なぜなら、うっすらとだけど日本で暮らした記憶があるから。
さらに言うと、明らかに以前と容姿が違う。
学校に通いながら友達と寄り道した――と、かな~~~り昔を思い出すような感じで記憶の片隅に残っている。
そこから先、社会人になったのか結婚したのかは不明。
霧が掛かったかのように思い出すことができない。
しかし、自分が黒髪黒目の日本人だったのは間違いない。
詳細は思い出せないけど、ごく普通の女子だったはず!
だからこの体は日本人じゃない。間違っても青色に所々緑色が混じったサラッサラな長髪を持った人を日本人とは言わない。ついでにシミ1つ無い絹のような肌なども心当たりはない。
いや、これ本当に肌も髪もサラサラなんだけど?
絶対顔も美女・美少女のそれでしょ。
記憶にある私らしき人物とかすりもしないわ……
そう、私が何者であるかを証明するための記憶が役に立たないのだ。
正直意図的なものを感じずにいられないよ。
「どうでもいいことは無駄に覚えている」
大雑把な地理とか、最近(?)のニュースとか、読んでいたマンガの内容だとか、今この状況では何も解決に導いてくれない知識ばかりだ。
サバイバル術を活かそうにもテレビで見たうろ覚え知識しかない。
「神様に会った記憶も無く、現れる気配すらなし」
転生&憑依モノはそこまで詳しくないけど、大抵の場合はお爺ちゃん神様だったり女神様だったりが現れて自分の身に何が起こったのか最低限説明しいてくれると聞いていたんだけど……
「体感で数十分経っても何もないとなれば、説明無しのパターンかな」
とんだ大ハズレである。
以前の私が何をしたと言うの……?
で、肝心のここはどこか。
実を言うと当たりを付けている。
森には違いないんだけど、もっと広い意味でどこなのかを予想していた。
「異世界かー」
どうして森の中で一歩も動いていないのにそんなことが分かるか。
目を逸らして忘れたい事実に気付いてしまったからである。
「私の体、たくさんファンタジーなことができるっぽいんですけど!」
――右足を出したら次は左足を出すことで歩けます。
そんな当たり前の感覚で自分にできそうなことを脳が理解している。
意識すれば無尽蔵の魔力らしきものが内側を渦巻いていることが分かった。
ちょっと持て余してしまいそうな量だった。普通にドン引きだ。
「私に何をさせたいんです神様?」
こんな状態で放置したあんちくしょうな神に向かって語りかけたけど、聞こえてきたのは鳥と鳴き声だけだった。