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発酵転生 豆が腐ると書いて豆腐と読む件

作者: jima

「それでつまり、お前が転生したと」

「どう言ったらいいのかわからないが、そうなんだ」


 俺は居酒屋の一角で友人の神室(かむろ)に訴える。

「俺がまさにいるこの世界は元の俺の世界ではないんだ」


 神室がお通しのキンピラゴボウをつまみながら、フンフンと頷く。

「本当にそれは大変だったなあ。気の毒にもほどがある。で、あの来週のコンパの件だが…」

「神室、流さないでくれ。本当に俺はこの世界の住人ではないんだ」


 『まだ続けるのか』という気持ちを隠そうともせず、神室はため息をつく。

「あのさ、澤村(さわむら)、逆に俺がお前にその話をある日居酒屋で切り出されたら、お前は親身になれるかい?」


 確かに信じられるわけはない。いつものおふざけか、流行のライトノベルの読み過ぎで頭がゆだったかのどちらかだと考えるに違いない。


「あのな澤村、お前は俺の親友だしお前の様々な相談に乗ることはまったくやぶさかでない。だがこういう調子でふざけ続けると、結局お前が本当に困ったときに力になれないと思わないか」


 神室の言うことが普段と違ってあまりにもまともなので、俺は言葉に詰まる。

「じゃあ神室、これは俺の創作かなんかだと思って聞いてくれていい。その上でお前の考えを聞かせてくれ」


 神室がハアアと深いため息をついてから俺をじっと見た。

「わかった。酒のうえのオモシロ話として聞いてやる。面白くなかったらここはお前のおごりだ」

「面白くなんかないんだ。本人にとってはやはり転生というのは悲劇なんだな」


「あのさ澤村、お前はこの世界に転生してきたって、さっきから言ってるんだよな」

「そうだ。ようやく理解してくれてうれしいよ」

「礼にはおよばん。ではお前は転生する前はどういう世界の何だったんだ。魔法の国の勇者か。戦国の大名か。それとも未来少年か」

「そのどれでもない。俺は現代の日本に住む大学生澤村太郎で、週に2回駅前のブックストアでバイトをしていた」


 神室が呆れた顔で俺を見た。

「おい。それじゃあこの世界と変わらないじゃないか。お前のおごり決定だな」

「待て、神室。そうなんだ。ほぼ同じなんだ、この世界は」

「ほぼ同じ?」

「この気持ち悪い感触、わかるかな?わからないだろうな」

「もちろんわからない。何を言ってるのか、ほぼほぼ意味不明だ」


 俺は上を見て唸る。

「例えば、この居酒屋だ」

「いつもお前と飲むいつものこ汚い居酒屋だな」

 横を通りかかった店員が嫌な顔をした。


「この揚げ出し豆腐、これが木綿豆腐だ」

 神室が目を瞬いて口から空気と少しだけキンピラを吐き出した。

「はあ?」

「前の世界では絹ごしだった」

「く、くだらねえ」


 くだらないと言いつつ神室は笑い出した。

「第一にそんな些細な問題、誰も気にしない。店の仕様の変更かもしれないし、本日たまたま絹ごしが切れていただけかもしれない。一番可能性が大きいのはお前の記憶違いだがな。そして第二にそれが事実だとしても、特に誰も損をしない。以上でこの転生問題は終了、ということで来週の保母さんとのコンパの件だが…」


「待ってくれ。保母さんとのコンパは俺も楽しみだが、それでも最後まで俺の話を聞いてくれ。その後お前の好きな幼児プレーについてもしっかり打ち合わせしようじゃないか」


 神室は目を細めてもう一口揚げ出し豆腐を口に入れ、それから俺を見る。

「幼児プレーの素晴らしさについては後ほどしっかりプレゼンする。お前の話を聞くよ」

「幼児プレーについては否定して欲しかった。まさか核心をついているとは」

「いいから、話せ。いろいろ違和感があるという話だったな。そしてお前は自分が今、元々の世界ではない異世界にいる、と。」


 神室はため息をつきながら俺に話の続きを促した。

「揚げ出し豆腐の件は本当に一例なんだ。これは何だ?」

 俺が持ち上げた小鉢を見て神室が怪訝な顔をする。

「納豆キムチだ。納豆とキムチを和えた俺の好物だ。うまいぞ」

「元の世界ではキューリが混じっていた」

「おう、それはいいじゃないか。今度家でも作ってみるよ」


 俺は首を振る。

「お前の好物のレベルアップをする話じゃないんだ。こっちの明太チーズはんぺんだが…」

「とにかくずっと発酵食品が異世界と関係しているんだな」

「黙って聞けよ。この明太チーズはんぺん、元の世界では静岡産の黒はんぺんだった」

「…」

「なぜ黙る」


 俺は黙り込んだ神室をにらみつけて、レモン割りを飲んだ。

「あのさ、俺の感想だが…本当にど~でもいい!ど~~~~っでもいいっ!と俺は思う。お前の違和感の元はなんでそんな異常に些細なんだ。もっとないのか。元の世界ではドラゴンが飛んでたとか、ドワーフが隣に住んでたとか、エルフがお前の彼女だったとか、モフモフが××とか」


「最後のは意味不明だが、そんな面白ファンタジーな世界のわけがなかろう。さっきも言ったように俺は普通の大学生で本屋で週2のバイトだ」


 俺が真面目な顔で答えると神室はため息をつく。

「結局お前の違和感はだいたい発酵食品関係、ということで間違いないか?」

 俺は違和感の()()()()()()()()()他にないか考える。


「…確かにその辺だな。残念なことにお前に相談できるのはそのくらいだ」


「何だ。急に思わせぶりなことを言いやがって。深刻ぶるのはお前の悪い癖だ。まあいいじゃないか。居酒屋の発酵食品メニューが気にいらないくらい、お前の様々な問題、例えばモテないとか就職難だとか友達が少ないとか水虫だとかモテないとかに較べれば何てことはないだろう」


「モテないというのを2回言ったのは気にいらないが、確かにそうだ。いろいろ滅入る結論だがまあ今のところ大きなデメリットも感じられない。相談して良かったよ」


 神室は納豆キムチを口に入れ、箸を回しながら微笑んだ。

「でだな、保母さんとのコンパについてだ…」


 俺も笑って、神室の尖った耳と緑色の顔を見つめた。



うーん、うまくオチなかったかな。(いつものことなんですが)

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