第6話『校長室が私たちの家?』
「もしかして校長先生なんじゃない?」
「そうかもしれない」
それにしても校長が若すぎる。焦っていたから飛ばす時間軸を間違えたんじゃないかと思えてくる。
「私たち未来から来たんです」
「はい?」
そもそも杖だけで校長だと決めつけていいんだろうか?もう少し話をした方良さそう。
「その杖ってみんな違うんです?」
「そうですよ。特にこの杖は特注品で母の形見なので世界に一つしかないです」
「やっぱり校長だよ」
「こんなに綺麗な人だったんだね」
「どうする? 未来について話した方がいいのかな?」
アンズはうつむく。本当なら未来の出来事について話をしたい。でも厳しすぎる。余りにも過去に来てしまったせいで恐らく言っても分かってもらえないのかもしれない。
困ったな。
「すいません。日本から来たのですが、帰る方法ってありますか?」
思い出した。確か校長は昔は猫の姿で日本へ旅行に行っていた話を。
「日本ですか? そんな国行ったことないんですけど、どうやって行けます?」
もしかしたらまだ知らないのかもしれない。合わせ鏡の事を。
「合わせ鏡って知ってます?」
「もしかして校長室に飾られた二枚の鏡のこと?」
「良かった。まだこの時代には合わせ鏡があるんだ。」
「やったね!」
「それを使って移動することは出来ませんか?」
「難しいかもしれない。校長が部屋にいるから勝手に使うと怒られてしまうかも。そもそもどうやって移動するのか分からない。」
「変身コンパクトで他の先生に変身して聞いてみればいいんじゃない?」
「いいですね!」
この頃の校長はノリがいい。
「そうしましたら私も。」
ポケットから変身コンパクトを出す。もはや一人一個のスマホみたいなアイテムなんだろうか? カティはコンパクトを撫で目を閉じる。
キツ目な感じの女性教師が現れた。私たちはネズミの様な小動物に変身を試みる。コンパクトは小さくなり首輪となった。そんな二人をカティは白衣のポケットにそっと忍ばせる。
早速校長室のドアを開けてカティは入っていく。
「失礼します」
「サリバンか?」
「はい!」
「どうしたのじゃ? 今日は課外授業で生徒達と隣町に出掛けたんじゃないかね?」
「いえ! 今日は調子が悪くて自宅で寝ていました。恐らく熱中症です。」
「体調の方は良いのか」
「はい。なんとか。それはそうと素敵な鏡ですね!」
「何を言っとる。サリバンもたまにつかっとろうが」
「そうでしたわね」
「熱中症のせいで頭が働いてないのか? 呪文も覚えとるか?」
「丁度涼しげな場所に行こうかと思っておりました」
「よいよい。一緒にいこうぞよ!」
校長はハンモックのような物を手にすると鏡の前で呪文を唱え始める。
「やった!」
「なんて呪文なんだろ」
ネズミとなった私たちは話をしている。
「ありえなぁーい!!」
そう校長は年甲斐もなく鏡の前で叫ぶと鏡の前から姿を消した。
まじか。私が美容室で鏡の前で溢した言葉が呪文だったなんて!!
「ありえなぁーい」
カティも恥ずかしそうに口に出す。
森の中、太陽の光が優しく差し込む明るい空間。涼しげな湖に囲まれた場所で校長はハンモックに揺られ昼寝を楽しんでいる。
ピンク色のレモン型の太陽が西に沈みかけた頃、元来た校長の部屋に戻ることになった。
「サリバンじゃないわね?」
と校長はポツリと言った。
「申し訳ありません」
ボンと音がしたかと思うと変身が解けてカティの姿に戻る。
そして私たちも一緒に変身を解いた。
「何か困ったことでも起きたのかい?」
「日本から来て魔法の国から帰れなくなりました。それに未来の話なんですけど、この国が隣国に襲われて崩壊してしまうのです!」
「ほんとかい?」
校長は少し驚いた様子だったけどすぐに落ち着きを取り戻した。そして被っていた帽子に話しかける。
ギザギザの歯の付いた大きな特徴のある口がニンマリとした。
「分かった。どうやらほんとの様じゃね。取り敢えず家はここを使うといい。」
そう言って杖を振りかざす。ピンクの壁に水色の扉が浮かび上がった。アンズはドアノブを回して開けると
「わぁー!」
部屋の中にはベッドが二つと、テーブル、キッチンなど一通りの家具が揃っていてワンルームって感じだった。
「ありがとうございます。いいんですか?」
「そして二人にはこの学校に入学してもらうからの」
「「えーーーっ」」
アンズとハモってしまった。