第5話『時巡りの時計で過去に飛べ』
「何が起こっているの?」
「分かりませんね。いま魔法警備隊が出向しています。恐らく片付けてくれるはずです」
「今までも隣の国が攻めてきた事ってあるんですか?」
「初めてだよ。こんなこと初めて」
校長先生の後を二人は追っかける。アンズは杖をついているので少し遅れている。校舎の横にあるひときわ大きな木の扉を開けて下へと続く螺旋階段を三人で下りていく。
すると、ピンクの壁紙にマッチョのポスターが貼り付けられた部屋へとたどり着いた。このマッチョは校長の趣味だろうか。
「ワシの部屋だよ」
「あそこにある鏡はなに?」
私は壁に立て掛けられた外枠にさまざまな色の宝石が散りばめられた鏡を指差した。
「あれは合せ鏡の一つ。昔はこれを使って異世界に行ってたけど、モンスターも鏡から出てくるようになってしまってね。危険だからもう片方を別の場所に隠したのじゃ。ところが国が二つに別れたときに持っていかれてしまった」
「困ったね」
「恐らくはクロマニヨン王国の姫の部屋に置いてあると聞いたことがある」
「と言うことはお姫様の部屋に忍び込めれば何とかなりそうかな」
「大変です! 突破されました。警備隊の半数がやられ逃げてます!」
突然、ドアから警備隊が入ってきた。
「魔法学校の教師は子供の避難に追われてるし困ったもんじゃわい」
「外にいる竜騎士のカナメをなんとかしてください!」
「ミサ! 一緒に戦うよ。2人はここで待機!」
そう言って校長が杖を振ると、魔女のような精霊が現れた。黒を基調としたワンピースのような服を着ている。手にはなぜかペロペロキャンディーなような物を持っていた。
「やっほーい!こうちょー。おひさぁー。呼んでくれるなんて何年ぶりなのー?」
「大丈夫かな?」
思わずため息が出る。
「校長はこの王国一の魔法使いだから負けることはないよ」
アンズはそうは言うものの心配だ。校長は外に向かって飛び出し、その後をミサはぐるぐると飛びながら付いていく。
私たちもこっそりと後を追った。
「不届きもののカナメはお主か?」
校長がかっこいい。
「出てきたな! 老人め!」
「何故この国を狙ったのじゃ?」
「お前に関係のないこと! 楽しいから奪うのよ!どりゃぁー!」
「マグマファイヤー!」
校長の杖から大きな火球が飛んでいく。
「効かんわぁー!」
カナメの乗っているドラゴンが火を吹きそれを軽く打ち消す。
「ぐわぁー!」
ドラゴンの火は強力で校長の服に火がつく。
「駄目だよ、やられてる。アンズ無理なんやない?」
「だね!」
「ミサ、すまぬ。カナメの相手を頼む!」
憔悴しきった校長は火の粉を払い、私たちの方へとやってきた。
カナメが強すぎて校長は勝てないような気がした。
「アカン強すぎる。このままではもたない。アンズこっちにあなたも!」
校長は懐から鈍く光る金色の時計を取り出した。
「頼みがある。警備隊長までがやられ、この国最強の私でも歯が絶たない。過去に飛ばすから過去の私にこの事を伝えて欲しい。何としてもこの事態を防ぐために。時巡りの時計よ! 過去に送り込め!」
グォーン!
とてつもない七色の閃光が私たちを包み込みこんだと思うと、頭が何かに引っ張られる感覚があった。
「きゃーっ!」
長いトンネルを潜り抜け、滑り台のように滑っていく。
ポーン
どんっ
地面に尻餅をついた。
「いったぁーい」
「ここはどこなの?」
場所は校舎の横の大根畑。小さな大根が綺麗に並んで植えられている。大きさは二十日大根位の大きさでとても小さい。その傍らには若い女性の姿が目に入った。20代前半といったところだろうか。
「どうされました?」
「あなたは?」
「私ですか? 今日から新任で来ました。カティと申します。」
とても綺麗な女性だ。目はクリっとして大きく姿勢もよい。何より知性が感じられる。手にした杖は見覚えがある。持ち手にはハートマークの水晶が組み込まれていた。