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第4話 『校長先生の畑仕事』

 なかなか寝れずに天井を暫く眺めていた。カラフルなステンドグラスが夜空の星に照らされて淡い光を放っている。これからどうしたらいいんだろう。出来ることなら早く家に帰りたい。でも、方法が今のところ全く見つかっていない。


 ヒールーで治してもらったのは良いけど、モンスターが自然に町を徘徊するような危険な世界で果たして私は一人でやっていけるんだろうか。


 窓ガラスが振動で揺れている。大きな羽音が外から聞こえ、巨大な竜が遠くへ飛んでいくのが見える。更にその奥には水色のレモン型の惑星が存在している。おそらくこれが、この世界の月なんだろうな。夜空にぼんやりと青白く光っている。



 ──お腹すいた。


 朝になると、アンズがドアを開けて入ってきた。


「眠れました? 傷の具合はどうです?」

「う、うん。大丈夫。魔法が効いているみたい。傷口も綺麗に治ったし。最初は信じられなかったけど、まさか本当に魔法なんてものがあるのね。」

「魔法のない世界から来たの?」

「私の世界は魔法よりも電気が発達している感じかな」

「電気? 電気なんておとぎ話の世界でしょ?」

「そう?」


 ぐぅ


 私のお腹から情けない音がする。ちらりとお腹と私の顔を見るアンズ。


「そろそろご飯にしませんか?」

「いいの?」


 恥ずかしくて少し俯いていると、アンズは優しい目をした。


「凄く美味しい」

「ピーグーの豚カツです。この辺りでは有名な美味しい豚肉なんですよ。」


 日本の豚カツと変わらないぐらい美味しい。外はカリッとして中はじゅわっとして肉汁が口の中で溢れ出す。ソースは何だろう。柑橘系のソースで今まで味わったことがないけど爽やかで美味しい。後味が非常にさっぱりとしている。


「私のいた日本にも同じような料理があるけど……」

「日本? そう言えば魔法学校の校長先生が日本旅行したとか聞いたことありますよ」

「ほんとなの? 私その日本てとこから来たの!」


 校長なら何か帰る方法を知っているかもしれない。少しだけでも淡い期待が生まれてきた。何とかなるかもしれない。


「今日は学校は祝日で休みなので、明日一緒に校長先生に会いにいきませんか?」

「是非おねがいします。美容院にいたら突然この世界に飛ばされて困ってたの!」


 ──もうじき帰れるかもしれない。



「魔法の世界にようこそ! なんちゃって。てことは、ツグミは近々帰っちゃうかもしれないんでしょ? それまでに色々見てくといいですよ」


 ご飯を食べた後、アンズが部屋に招待してくれた。風船みたいなものが部屋のなかに沢山浮かんでいるし、熊のぬいぐるみの形をしたベッドが部屋の隅に置かれている。何とも可愛らしい部屋だった。


「おもちゃでも魔法が使えるんですけど、良かったら遊んでみます?」

「いいの?」

「勿論! 色々あるからどれが面白いのか分からないですけど」


 押し入れの中から、少し埃を被ったハート型のおもちゃ箱をアンズは出してきた。手でパパット埃を払うと、パカッと開ける。一瞬魔法で開けるものかと思ったけど、手で開けたほうが早そう。そしてその中からピンク色のおもちゃを掴んだ。


「これなんですけど」

「コンパクトに見えるけど」

「これ使うと魔法が使えるの?」

「変身機能がついてますよ。」

「面白そう! 使い方は?」

「説明書もありますよ」

「あれ、これって説明書というより、手紙じゃない?」


 ──お姉さんより


 アンズ! お姉さんからプレゼントだよ。これは変身コンパクト。頭の中に変身したいものをイメージしてコンパクトを擦ればあら不思議。好きな人にも動物にだってなれちゃう代物なんだから。じゃぁーねー。あなたの大好きなマイより。


「お姉ちゃんいたんだ」

「うん、まぁ」

「これあげます」

「いいの? 大事なものじゃないの?」

「ううん、それは友達ができたらあげることにしてたの! 他にもマイちゃんから沢山貰ってるし」

「そう言えば、さっきの話なんだけど、父に話してもいい? もしツグミが日本に帰れなくても大丈夫。私の家でずーっと一緒に暮らせばいいよ!」

「えっ、えっ、そんなわけにはいかないし」


 気づいたらアンズと少し仲良くなってしまった。明日、もしかしたら日本に帰れるかもしれない、そう思うとこの生活も名残惜しい気持ちになっていた。





「凄いお菓子の城みたい」


 翌日、アンズに案内されて教会から徒歩五分の魔法学校にやってきた。


「食べられるんだよ、しかも食べたところは自動的に補修されるの。ただね、いくら食べてもお腹は膨らまないの」

「素敵! 子供の頃の夢が叶ったみたいだわ」


 私は興奮して声をあげてしまう。魔法学校はお菓子の城だった。ここに通う子供たちが羨ましすぎる。


「こんにちわー、校長先生みえますかぁー」

「校長先生なら外で庭いじりしてるはずですよ」


 カウンター越しに声をかけると眼鏡をかけた真面目そうな事務員が教えてくれた。


魔法学校。もしかしたら私もここに通えば、魔法が使えるようになるかもしれない。でもこの国の人間じゃないからダメなのかな。魔法の道具でもいいから手にいれて母を助けられないんだろうか。

 そして日本に帰るんだ。その為にここに来たのかもしれない。

人って不思議なもので帰れそうと分かると更に欲が出てくる。アンズの後について校舎の裏庭に向かうと、


「ヨイショーっ!」


 紺色の修道服に身を包んだ年配の女性が1メートルぐらいの大根をひっこ抜いていた。そして背中にはピンク色のハート型の水晶が埋められた杖をプラプラとぶら下げている。


「大きな大根ですね!」

「酵素を使って大根を大きくしとるんだ」

「え? 酵素?」

「あ」

「もしかして日本にいらしたことがあるんですか?」

「若い頃はなぁ、よく猫の格好で日本に行ったものだ。可愛らしい子がいたら変身コンパクトをプレゼントしたこともあったかな」


校長は汗を手で拭いながら、空を仰ぎみるとなにやら目を細めて遠くを見ている。


「合せ鏡という2枚の鏡を使えば異世界の1つである日本にも行けるんだ。ただその鏡の片割れはこの国が二つに別れたことでもう一つの国に持っていかれてしまった。まぁーいろいろ問題があってな」


何でよりによって鏡が今ここに無いんだろう。私はどうしたらいいの?


「もう帰れないんですか……?」


聞くのは怖かったけど聞いてみた。


「残念だけど、ここで暮らすしかないかもしれんな」

「はぁ……」


ため息が溢れる。校長の瞳を真っ直ぐに見ると、目を剃らされ、


「気持ちは分かるがどうすることも出来ん」


校長はキッパリという。私は頭に大きなタライが降ってきたのではないかと思えるぐらい凹んでしまった。



 キーンコンカーンコーン!

 突然放送が校舎のスピーカーから流れた。


「なんだ?」

「敵襲です!隣のクロマニヨン王国が攻めてきました。警備隊長までがやられ、この国には戦力になれる人がいません。直ちに逃げてください。」

「子供たちを避難させなければ。」

「私たちも避難した方がいいよ!」

「こちらに来なさい!」


 ──えらいことになった。日本に帰りたいのに帰れない。クロマニヨン国が攻めてくるとか一体何なんだ。展開が早すぎて落ち込む暇もないじゃない。


「竜騎士のカナメが来てます。早く逃げてください!」

「応戦します!」

「ファイヤー!」

「ひゃはははっ! 一網打尽にしてくれるわ! グランドエスケープ」


上空には巨大なドラゴンに跨るロングヘアーの赤髪の女性が見えた。

右手を掲げ振り下ろす。紫色の渦巻いた玉が放たれ警備隊は校舎に叩きつけられた。


「ぐはっ」

「早くこちらに!」

私たちは慌てて校長戦の後を付いていく。

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