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第3話『リンゴとナイフ』

「ん……」


 目を覚ますと教会の鮮やかなステンドガラスが目に入る。月明かりに照らされた淡い虹色の光が顔にかかり眩しかった。

胸元には白い包帯が巻かれて、体を捻るとピキッと痛みが走る。横目で見るとピンクのポニーテールの少女が椅子の背もたれに、もたれ掛かってぐっすりと鼻提灯を垂らして眠っていた。


 付き添ってくれたんだ……。膝の上にピンクの巾着袋を置いている。ターバン取り戻せなくてほんっとごめんね。


「ぐぎゃっ!」


 体をひねりすぎて思わず動物のような声を発してしまった。


「あーっ! 起きたよぉー!」


 目を擦りながら少女は立ち上がるとドアに向かって叫ぶ。すると神父がのそのそと現れた。


「アンズ……起きたって?」


サンタのような髭を生やした男性が部屋に入ってきた。


「目が覚めたようですね。アンズは目を腫らして泣いてばかりいたんですよ。私のせいだって。娘のためにゴブリンから私のプレゼントを取り返そうとしてくれたみたいで……なんとお礼を言ったらよいものか」

「いえ、私は……何も……何もできなかったです」

「そんなことはありませんよ。大人も現地にはいたのに何もしてくれなかったみたいで、あなたには勇気が有りますね。早速、魔法治療にはいりますが、よろしいですか? 本人の同意がないと魔法での治療は出来ないんですよ」


勇気? 私はアンズがただ怒っていたから追いかけただけにすぎない。勇気なんて一欠けらもない。それにしてもいきなり説明されても心の準備が整ってないよ。


「さっきはほんとごめん。感情的になってた。それはそうと治癒魔法やるよね?」


 アンズは心配そうに私の顔を覗き込む。


 怪しさプンプン過ぎて正直怖い。しかもさっきまでキレていたからなおさら信用できないじゃないの。


 それでも私の胸に巻かれた包帯はピンクに染まり止血も余り十分とはいえない。こうしているうちにもズキズキと痛みが強くなってきている。早くしないといけない。


 壁にかけられた時計は夜の十時近くを指していた。静まり返った部屋に時計の針がカチカチと音を立てて急かされているような気持ちにさせられる。


今、魔法で治さないと命に関わるかもしれない、治れば傷も元通りになるのかな? どうしよう。


──私は迷っていた。異世界で一人ぼっち。頼れる人も誰一人としていないのだ。この治療が失敗したら私はどうなってしまうんだろうか? 傷が悪化してここで最悪死んだとしても誰も気にも留めないのかな? 良く分からない治療を半強制的にされそうになっていることで涙が溢れてきた。


それを見ていたアンズは、どこからかリンゴを持ってきて、突然ナイフでそれを突く。リンゴからナイフを外し、


「お父様、お願い!」

「クール!」


 と、唱えると、先程のナイフで刺された穴がみるみるうちに塞がった。


「どう? もし信用できないなら、私の腕で試しても良いよ!」


 恐ろしすぎるし。ナイフで腕を刺すとかあり得ない。アンズは眼に涙を浮かべてる。出来ればそんなことしたくないって気持ちが十分すぎるほど伝わってくる。手だってプルプル震えているじゃない。私だって年下の血を見るのは嫌だし。


「分かった」


私は観念して、答える。二人はお互いに顔を見合わせると安堵の表情を浮かべた。


 神父は私の小さな胸に頬を赤らめながら手を近づけてきた。

 私は顔を背ける。治療とは言うものの良く知らない男性が胸の近くに手をやるのは嫌だ。


「クールゥーーーーーー」


 さっきよりも大袈裟なのは気のせいだろうか。

心地よい波動が体の内部に届き熱を帯びてくる。原理は分からないけど、中から赤黒い液体がビュッと出て三分ほどで傷口は綺麗に埋まった。


「この赤黒いのは……?」


「それは内部に残ったバイ菌や血の塊を押し上げて外に出した物です。細胞分裂を早めて治癒させました」


痛みは嘘のようになくなり、完全に治ったような気がした。


「それにしても変わった服を着てますけど、旅行でこちらの鏡の国に来られたんですか?」

「いえ……」


私の服は上は裸にされて包帯が巻かれて下は黒のショートパンツ。Tシャツは汚れたから洗濯にでも出されたんだろうか? え? 誰が脱がせたの?


「アンズが包帯巻いたの?」

「ううん。パパが! パパはこの街一番の神父なの。昔は大賢者と呼ばれて鏡の国の王宮に仕えてたんだよ」

「まじか? 凄い人なのね」


 アンズの父親は日本でいう医者みたいなものなのかな? 変態だと思ってすみません。少し焦ってしまったじゃないの。地位や名誉があれば心許せてしまえるから不思議なものだ。さっきまでの変態神父への思いが和らいできた。


「すみません、詳しい話は明日でもいいですか?」


体が疲れきっていてなんだか睡魔が襲ってきた。


「おやすみなさい。明日色々教えてね!」

「神父さんありがとうございました……」

「今日はゆっくり休んでください」


二人が部屋から出ていくと、この先ここでどうやって暮らしていけばいいんだろうとぼんやり考えてしまう。


早くこの世界から帰りたい。帰れる方法はあるのかな? その辺も明日、聞いてみたほうがいいかもしれない。


 もしそれでも分からなかったら……どうしよう。

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