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第11話『アンズ何で言わないの!』

「──ここは一体!」


 辺りを見回すと十分過ぎるほど知っている景色が視界に現れた。空は薄い青色でホウキ雲がかかり、すぐ横の舗装されたアスファルトには車がゆっくりと走っていた。しかもここは私の家の近くの住宅街だ。この通りを少し歩けば、公園が見える。


「日本だ。戻ったんだ。……あれは小さい頃の私に似ている」


 ハッとした。それもそのはず。よくアニメなんかでは、過去の自分に会うとどちらかが消滅するといった話もあるからだ。魔法の世界ならいざ知らず、ここは日本なのだから慎重にいきたい。アンズの原因を探るために来たのに、問題のアンズがいない。


 前方には小さいキジトラ猫を抱きかかえている幼い私の姿があった。茶色に黒の縞模様のある猫。


「ミーちゃんごめんね。うちで飼うのは駄目なんだ。本当にごめんね」


 猫は腕の中から降ろされると微笑んでいるかのように優しい目をして振り返る。尻尾を振りながら。


 その時だ。突然車道から一台のバイクが猛スピードで突っ込んできた。幼い私はミーちゃんに覆いかぶさった。


 鈍い音がして何かが破裂したような音が響き渡り、撥ね飛ばされた。バイクの衝突が大きく道路には大量の血液がぶちまけられた。


「あっ!」


 電信柱の陰にいた私は思わず駆け寄ろうとすると、


「元に戻って!変身ッ」


 猫はアンズの姿に変化した。


「──なんでなんでなの?大丈夫? 大丈夫? どうしてこんなことに。どうしよう。どうしよう……」


 頭を抱えるアンズの横で幼い私は虫の息のように見えた。息しているかどうかも怪しい。アンズはコンパクトを開き、誰かに連絡を取っている。


「私のせいでツグミちゃんが……どうしたらいい?」

「魔法の水晶で見させてもらいましたが、どうしようもありません。命は一つしかないのです。もう助かりません」

「私がヒールかけてみる」

「止めなさい! そんなことしたらあなたも同じようになってしまいますよ」

「いいんです! 私の身はどうなってもいいから救いたいんです」


「ヒールー」



 温かい七色の光が幼い私を包み込む。体は元通りになり、何故か服も元通りになっていった。少し気を失っているように見えた。アンズはそんな私をおんぶして運んでいる。


 でも何かおかしい。アンズのミニスカートから見える白い右脚の太ももが黒くなって焦げたような臭いが漂ってきたからだ。しかも足を引きずっているようにも見える。


──思い出した。小学生の頃公園で猫がいじめられていたんだ。なんだっけな?しゃべる猫がいて気持ち悪いとかで近所の男子が石をぶつけたりしてたっけ、追い回したり、私はその時助けられなくてヨロヨロになった猫を家に連れて帰ってパンと牛乳をあげたんだ。


 結局、親に怒られて公園に返しにいった記憶がある。


 アンズの後をついていくと途中途中で立ち止まりながら私を運んでくれている。よろけては立ち止まり、汗がぽたぽたと地面のアスファルトの上に滴り落ち、腰を曲げてかなり苦しそう。少しずつ歩いては立ち止まりを繰り返している。


 ──この後、私は確か家で目を覚ましたはず。完全に夢かと思ってた……。


「あの、すみません。その人私の妹なんです。後は運びますから。大丈夫です」


 ──あんず、あなたは私を助けていたのね。何で言わないの。無性に腹が立った。そういう事だったのね。アンズの脚の原因は私だったんだ。気づいたらアンズに声をかけていた。


「いえ、大丈夫です。そこの公園まで運ぶだけなので」

「大丈夫だから!」


 アンズは意外と頑固だなとか思いながらも、これ以上無理させるわけにもいかない。


 公園につくとベンチに幼い私を座らせて、アンズは遠い目で夕暮れ時の太陽を見ている。


「……なんかごめんね!」

「えっ? 出来ればこの子を家まで運びたいです!」


 ──そんな脚で運ばせるわけにはいかないよ。


「わかった。心配ならついてくる? 私が後はおぶるけど」


 何とか納得してくれた。


「魔法の国から来たんでしょ?」

「どうしてわかるの?」

「さぁね。どうしてだろ」

「意外と鏡の世界とこっちは旅行を楽しむ人が多いみたいよ」


 私は適当なことを言ってはぐらかす。


「実は校長先生の部屋の掃除をしていた時に興味本位で鏡を構ってしまって、この世界の子供たちに壊されちゃって帰れなくなったの」


 私の逆バージョンじゃないの。その気持ちは痛いほどわかる。私もいつ帰れるんだろうか悩んでいたのだから。


「この子を送り届けたら、あなたも送ってあげるから安心して!」

「本当ですか?」

「任せてよ!」


 私たちは私の家の縁側に幼い私を寝かせた。


「よし。帰ろうか」

「時計よ。ツグミのいた元の世界に戻してっ」


 こうしてツグミを元の世界に戻せた。でも引っかかることは沢山ある。ツグミの脚を戻すには私がこの世からいなくなるしかないってことなのかな?


 そもそもこんなに時間移動して世界に影響を与えて大丈夫なんだろうか?鏡の世界の夜は暗く、空にはカラフルな星がまばらに見える。


 どこへいって何をするのが正解なのか分からなくなってきた……。








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