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第9話『雑草の中でもがく』

「ルー! そろそろ彼氏見つけたらどうなんだ?」


 少し横暴な態度ではあるが、がっしりとした体格の男性が入ってきた。私たちの方をチラチラ見ながらルーに話している声が聞こえる。


「まぁいいか、元カレはあんたを捨てて他の女と付き合っているという話じゃないか? 俺が代わりに貰ってやるよ!」

「帰りな! お前なんかと付き合う義理はない!」

「へぇへぇ、また来るからな!」


 そういうと男は残念そうに、扉を開けて去って行った。口は悪いが迷惑をかけたいわけじゃないのかもとそんな気がした。


「ごめんなさい、私たちも帰ります」


 いたたまれない雰囲気にその場を早く離れたかった。


「どこいく?」

「その辺歩いてたら知り合いと会わないかな?」

「誰の知り合い? 無理でしょ!」


 そんな都合よくいくはずない。


「取り敢えずあの男をつけよう」

「そうだね。」

「酒場に入っていくよ」


 私は探偵の様な気持ちで後を追っていく。彼は振り返ることもなく前を歩いている。路地の裏手に樽が積まれていてその樽の陰に隠れる。


「筋肉質の男にへんしーん!」


 目を覆うような光に包まれた。何だか少し汗臭い。ぷーんと鼻につく酸っぱい臭いがした。この男は脇が少し匂う。そんなところまで再現しなくてもいいのに。変なところまで変身してしまうのが難点だと思った。私たちも慌てて酒場に入る。


「ふぅーーっ」

「へい、らっしゃーい」


 酒場のマスターの威勢のいい声が店内に響き渡る。


「何飲むんだ?」

「親父ー、強い酒頼む!」


 追っている男は何やら頭を抱えているようにも見える。


「どうした? ルーをとはうまくいってないのか?」

「ルーの彼氏は怪我をしてもうダメなんだろ? お前が頼まれてたじゃないか? ルーの事頼むって!」

「そんなうまくいかねーんだよ! 向こうはあの男が好きだからさ!」

「女心ってやつはめんどいわな」

「にぃさんもなんか飲むか?」

「わ、わっ、わたし?」

「そうそう、君だよ」

「なんかジュースでも!」

「あーいいよ、今日は奢りだ。なんもしたくねー! そもそも俺がルーの事好きなことと、ルーの彼氏が俺の友達ってのが良くないんだよ! 」

「ルーの彼は長くないのか?  まぁ、あと二週間か?もっても! 体の半分モンスターにかじられたから、さすがに治癒魔法は使えない! しかもルーには会わせられないよな」

「流石にルーに会わせるのは酷だ」

「まじか?」


 つい、声が出てしまった。


「大丈夫か? 体調悪いのか?」

「すいません。気持ちが悪いから帰ります」

「お大事にな!」


「ルーのとこ行くの?」


 アンズは私の目をまじまじと見てくる。


「そうだね。取り敢えずどうなるか分からないけど、でもこれって知らない方がいいのかな?」

「死んだらもう会えなくなるんじゃ? 後悔させない方が良くない?」


 アンズの言う通りだ。


「困ったね。知らない方がよかったし。」

「どうする?」


 アンズは遠くを見ていつも通りゆっくりと話す。


「知らないのはルーだけなんだ。」


 ──ほんとどうしようもない。私が言わない方がいいのかもしれない。それでも……


「──って感じなんです」

「それを信じろっていうの? ばっかじゃない?」

「私たちもこんな話をしたくないんです」

「もういいわ、これ持っていきなさい」

「これは?」

「あなたたちが探していたものよ。私はね。どうしてこんな仕事してたと思う?」

「分かりません」

「人に裏切られたからだよ。彼氏に。最初はアルバイトから始めたけど気づいたら店長になってた。それだけ待たされた挙句に体をけがして友達にあたしを任せるだって!?」

「でもさ、いいんだ。こーいう商売してると人の嘘が分かるようになってね。ただ判断が曇るのはどうしても認めたくない時だけさ!」

「さてと、閉店だ。ありがとな!」



 店を出るとなにやら大通りが騒がしい。


「この国は間違ってる!」

「そうだそうだ!」

「俺たちだけの国をつくるぞー」


「我らは重税で食料不足に陥っている。今こそ皆で立ち上がる時だ!」


 上空からすごい勢いで何かが近づいてくるのが分かった。頭の上で一時停止した瞬間、地面にそれは瞬時に着地した。


「何をしとる!」

「誰?」

「ワシはこの国の王。暴動が起きていると連絡が入り来てみれば、なんだこの人だかりは」

「あなたのせいで国が滅びかけているのです。見てくださいこの町の有り様を!」


 栄養失調の村人たち。お腹が異様に膨れ上がり、何日もお風呂に入っていない子供たちが路地の片隅で座っている。


 そこに集まる兵士も幾人か混ざってはいたが、鎧から出ている脚や腕は細く枯れはてた木々のようにすら見える。


「猶予がないのです。隣の国から食料をもらわないと死ぬ! なんとか貸してもらえるように頼めませんか! 私たちは国王あなたと争いたくないのです。」

「今年は飢饉で食料が不足しているのです。何としても隣の国から分けてもらわないことには」

「食料って魔法で出せないの?」

「うん」

「お菓子は出せるんだけどお腹膨らまないの……」

「何でもうまくいくような魔法はこの世にはないの! そんな都合よくいったら何もしなくてもよくなっちゃうでしょ!」


 ──確かにそうだ


「分かった。わしが直々に隣の国に頼んでこよう!」



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