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その日の晩、クライバンとオリビア、城代アンドルー、そしてファン・シアーは執務室に会した。
「こうして皆で顔を合わせるのは初めてにございますね。」
部屋を見回しアンドルーは言った。
「お館さま、そちらの女性を私どもにご紹介下さいますか? お館さまとはどういったご関係で?」
「はあっ!? お前、知っているだろうが!」
期待の眼差しで見守るオリビアの横でクライバンは慌てた。
「私は知らないぞ。薪割りをしていた使用人ってことぐらいしか。」
ファン・シアーが言った。
「使用人ではない!」
クライバンは叫んだ。
「この方は、レディ・オリビア・アリントン。俺の、俺の、い、い、いな、いいな、づづっづ……!」
「クライバン様、頑張って! 大丈夫です、さあ、もう一度! 根性ですよ!」
オリビアが横からボクシングのセコンドのようにゲキをとばすが、クライバンにはこれが限界のようだ。しっかりと握った諸手を机に置き頭を垂れ、肩で息をしはじめた。
「まあ、いい。」
アンドルーは溜め息をついた。
「この方はオリビア・アリントン公爵令嬢。もったいないことに、こいつの言う通り、近々、クライバン家の花嫁にお迎えするつもりだ。オリビア殿。」
アンドルーはオリビアの方を向き、優しく微笑んだ。
「改めまして、ようこそおいで下さいました。歓迎いたします。」
「よろしくお願い申し上げます。」
オリビアも頬を染め応えた。
クライバンは相変わらずちょっとした事で力尽きてしまう。男爵家を実質取り仕切っているアンドルーに、許嫁と認めてもらえたのは心強い事だった。
「そしてオリビア殿、こちらは聖戦士ゾゾム・ファン・シアー辺境伯です。彼女の事は説明不要でしょうな。」
アンドルーがファン・シアーを紹介し終える前に、オリビアは両手を前に組んで勢いよく立ち上がった。
「聖戦士ゾゾム・ファン・シアー閣下! 辺境伯とは閣下のことだったんですね!」
「君こそ、例の公爵令嬢さんだったとはね。」
ファン・シアーには恋敵であるはずのオリビアだが、そんな素振りは見せずに快活な笑顔で応えた。
「素敵な方! 物語よりもずっと、ずっと、ずーっと、ずーっと、ずうううううっと、素敵ですわ!! 」
立ち上がったオリビアはその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ははは、私も、君がおっさんの相手なら文句は言えないな。おっさんを幸せにしてやってくれよ。こんなおっさんだが、良い奴だからな。」
ファン・シアーは褐色の肌に白い歯をキラキラさせた。
「きゃーっ! ファン・シアー閣下から直々にお言葉をいただけるなんて! 義妹に自慢してやりますわ! 義妹も閣下の大ファンなんです。」
「閣下はよしてくれ。堅苦しいのは嫌いでね。」
ファン・シアーがさっと頭を振ると、黄金色の髪がキラキラとなびいた。
「すてきです! 益々素敵なお方! ファン・シアーかっ、様とお近づきになれるなんて、クライバン様と婚約して本当に良かったです!」
「そんな、俺、オマケみたいに……。」
と、クライバンはぼやいたものの、昔からこの反応には慣れっこだった。
「さて、各々方見知ったところで本題に入らせていただきます。実は、聖都の義姉アンドルー伯爵夫人から手紙が来たのですが。」
アンドルーは懐から手紙を取り出し、広げてみせた。
「オリビア殿にはいささか申し上げにくい事にございますが……。その手紙によれば、アリントン公爵家は教区の司祭にオリビア・アリントン出奔につき、除籍処分にするよう願い出ているようなのです。」
「出奔……? 除籍……? そんな……。」
アンドルーの言葉に、オリビアは真っ赤になって俯いた。
クライバンは今さらこの自分に持参金など期待もしていないだろうが、公爵家から除籍処分になるような娘ではあまりに申し訳ない。
それに、自分が余計者として育ったことを愛する人に知られるのは辛い事だった。
「オリビア殿。」
クライバンは咄嗟に両手でオリビアの手を握った。
「どうかお顔をお上げ下さい。貴女が公爵家の令嬢であろうとなかろうと、どこの誰であろうと関係ありません。」
「そうだよ。そんな酷い親なんかうっちゃっておけばいい。公爵家なんか糞っ喰らえだ!」
「また、聖戦士殿のお口から出たとは思えないお言葉を。」
憤慨しているファン・シアーの横でアンドルーはボソッと呟いた。
「いいえ。」
オリビアはクライバンの手をそっと外した。
「クライバン様には、もっと前にきちんとお話すべきでした。」
いつもお読みいただいている方、初めてここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございます。
こんな埋もれた小説を見つけていただき、たくさんの方のお目にとまり、おっさんもオリビアもとても喜んでいると思います。
引き続きお楽しみいただけたら嬉しく思います。
おっさんが頑張る完結済のほのぼの恋愛物語もありますので、そちらもお読みいただけたら嬉しいです!




