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SAIGA《サイガ》  作者: 大西アキラ
24/60

第24話 「情報屋」

「さて、どうしたものか・・・」


体の大きな男が、三人掛けのベンチに一人で座っている。


そして、気持ち良さそうに煙草を吸っているのだが、その数量が尋常では無い。


一気に五本の煙草を加えて、青空を眺めているのである。


場所はかなり大きな公園である。


その大きさは、野球の試合が同時に4試合出来る程の広さを誇っており、中央から外側に向かって芝生が生えている立派な公園なのである。


朝早くから、ジョギングする人や犬を散歩している人で賑わっていて、その男がそこにいること事態、似つかわしくない場所である。


「郷田さん!」


遠くから、一人の男が息を切らして、その男の名前を呼びながら近寄って来た。


「おいおいおい、えらく遅かったじゃねぇーか?あれか?朝から愛人とハッスルしてたんじゃねぇだろうな?ガハハ!」


体の大きな男は大声で笑うと、右手に持っていた五本の煙草を一気に吸い上げて、地面に捨てた。


黒い髪はボサボサで、伸びた髭もまったく手入れをしていない。体格は大きな熊の様であるが、敏捷性が十分に感じられる空気を醸し出している。


郷田梅雲(ごうだばいうん)。


またの名を、「クラッシャー郷田」「破壊の帝王」と言う。


齢四十歳。


身長、百九十二センチ。


体重、百三十五キロ。


言わずと知れた、日本裏社会「暴武」部門のツートップの一人である。


「そんなことあるわけないじゃないですか!本当に!」


息を切らせて走り寄ってきた男は、歳の頃三十代中頃ぐらいで、黒いスーツを着ているが、本当に普通のサラリーマン風である。


「いやいや、余りにも遅いから心配になってのー。すまぬすまぬ」


郷田は、口を大きく開けながら笑った。


「郷田さん、まじで変な噂とか止めてくださいよ!うちの嫁さん、女関係になると、むちゃくちゃ怖いのですから!」


全身から大量の汗を出しながら、スーツを着た男は郷田に詰め寄る。


「わかったわかった!俺も冗談で言っただけだって。悪かったって」


郷田は、両手でその男がにじり寄って来るのを止めた。


「本当に、頼みますよ!」


ハァハァと息を切らせながら、スーツを着た男は上着を脱いだ。


そして、郷田の座っているベンチの横に座る。


「ところで、鉄平(てっぺい)。情報は入ったか?」


郷田はいきなり真剣な表情になると、スーツを着ていた男に問いただした。


スーツを着ていた男の名前は、鉄平(てっぺい)と言う。


いわゆる、裏社会の情報屋である。


情報屋とは、依頼主が求めている情報を収集して、それを金で売る裏稼業の仕事である。

ありとあらゆる情報を手に入れる為に、命を落とすこともある危険な商売でもあるのだ。


「郷田さん、申し訳ございません。最初に謝っておきます」


情報屋の鉄平はそう言うと郷田を見た。


「やっぱり、お前の情報網を持ってしても無理だったか?」


郷田は首を横に振った。


「はい。戸倉一心さんが狙っている西牙丈一郎ですが、まず日本裏社会での在籍情報が一切ないのです。あと、生まれた場所や育った環境なども全てが不明なのです」


「そうだろうなー。裏社会にいた人間ならば、絶対にワシか一心が知っているからのー」


郷田は目の前に広がる大きな公園の芝生を眺めた。


「わかったことはですね、ここ一年前ぐらいから表社会で仕事を始めたということです。それも『壊し屋』と言う仕事で、依頼主からお金をもらって相手を壊すというものです。そして、驚くべきことに、この仕事の成功率が百パーセントと言うことでした」


情報屋の鉄平は、ポケットから派手なハンカチを取り出すと、額から流れ出る汗を拭いた。


「ほう、百パーセントだと?失敗はナシということか」


郷田は顎髭を触りながらポツリと言った。


「そうなのです。それが評判になり、どんどんと仕事が舞い込んでいるようでして・・・。ただ、大金を支払う依頼主なら、どんな卑劣な相手であろうと仕事を請け負っているようでして、それが裏社会の間ではそろそろ問題になりかけていますね」


「あと、表の社会からしたらグレーなラインなのと、裏社会で同じ様な仕事をしている人間や組織からクレームがきているようです」


情報屋の鉄平は、大き目のスケジュール帳をパラパラと捲りながら話す。


「そりゃそうじゃろう。表の世界でそれだけ暴れたら、裏社会には筒抜けじゃからのー。裏社会には裏社会のルールと言うモノがあるからのー」


郷田は、雲一つない青空を見上げた。


(やるか?この俺が)


「そうですね。仏の関節師・黒川如水、快楽の狂戦士こと香川浩介。この二人がやられたことさえ信じがたいことですからね」


情報屋の鉄平が言葉を少し濁して郷田を見た。


少しの沈黙の後、郷田梅雲が言葉を放つ。


「本当じゃ。まさか、あの浩介がやられるとは・・・。若手のルーキー達の中では飛び抜けて強かったはずだからのー。今でも信じられんわい」


(あの浩介を倒せる奴など、裏社会の中でも俺と戸倉一心、そして、数える程の人間しかいないはずじゃ。西牙丈一郎・・・お前は何者なのだ?)


郷田が、香川浩介の敗北を知ったのは二日前のことだった。


それも、戸倉一心から直接聞いたのではなく、裏社会の違う情報網からであった。


戸倉一心は、もっと早くに知っていたに違いない。


郷田梅雲は、戸倉一心に電話しようと思ったが止めた。


なぜ?


それは、戸倉一心の怒りが沸々と煮えたぎっているのがわかるからだ。


(これで、一心と西牙丈一郎の闘いは逃れられない物になってしもうたわい。一心にとって浩介は一番の愛弟子。その愛弟子がやられて、黙っている男じゃないからなー、あの男は・・・)


郷田は、迷彩服の上着ポケットから一万円札を二十枚程取り出すと、情報屋の鉄平に渡した。


「え?こんなにもらっていいのですか?」


「ええよええよ。鉄平、お前にはいつも世話になっているからのー。これで、嫁さんと美味しいモノでも食べてこいよ、ガハハ!」


郷田は大声で笑った。


「あ、あざーす!」


情報屋の鉄平は、満面の笑顔で一万円の札束を受け取った。


「あ、郷田さん。あれでしたら、今夜辺り飲みにでも行きますか?」


情報屋の鉄平は、右手でお猪口を持つ仕草をして口に運ぶ。


「鉄平、すまんすまん。今晩は、ちょっと大きな仕事が入っていてのー、無理なのじゃ、ガハハ!」


郷田は大声で言うと、鉄平に手を振って背中を向けた。


「でわ!また今度行きましょう!」


情報屋の鉄平は大声で返答して、郷田梅雲の背中を見送った。


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