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SAIGA《サイガ》  作者: 大西アキラ
22/60

第22話 「非現実」

真っ暗な闇の中で目を覚ます。


両眼の感覚はあるのだが、目を開けても視界は暗く、聴覚だけが異常な程に敏感になっているのがわかった。

両手と両足も何かで束縛されているらしく、身動きがとれない。


数秒。


いや、数分後だろうか。


人間の足音が近付いて来たのがわかった。


そして、両眼を閉じているにも関わらず、眩しい光が瞼の隙間から差し込んできた。


どうやら、布で目隠しをされていたようだ。


布が勢いよく取られる。


両眼をゆっくりと開けた。


強烈な太陽の光が両眼の角膜を刺激し、周りの世界を徐々に開放していくのがわかる。


まずは、青い空だ。


気持ちの悪い程晴れ渡り、雲一つない。


そして、それを囲む様に緑の木々が永遠に生い茂っている。

遠くを見ることすらできないぐらいに、近くにいろんな種類の木々が乱立して茂っている。


森?


林?


いや、山の中だ。


頭を左右に振って、視界を全開にする。


目の前に、にゅるっと黒い影が映り込む。


人間だ。


それも男である。


「大丈夫か?坊や」


その男は日本語でそう言うと、両手と両足を束縛している紐をゆっくり外し、横の草むらに投げ捨てた。


「う・・・ここは・・・?」


俺は小さな声で聞き返す。


「ここか?ここは・・・戦場だ」


その男は口の中に入っていたガムを草むらに吐き出した。


「せ・・・戦場・・・?」


その男の言っていることが理解できない。


何を言っているのだろうか?


俺は夢を見ているのだろうか?


頭の中で意味のわからない言葉がぐるぐると駆け巡る。


だが、周りの景色を見てもわかる通り、確実に今まで生活していた場所とは程遠い空間や匂いを感じた。


「お前の名は?」


その男は上空を眺めながら問う。


「あ、あ、風間丈一郎・・・」


俺は、呆然としながらも、人間の反射対応に負ける様に自分の名前を返していた。


「歳は?」


その男は立て続けに問う。


「あ、十二歳・・・」


俺はその男をじっくりと見た。


服装は、緑色と茶色のみで仕立て上げられた迷彩服を着ており、靴は黒いブーツを履いている。

腰には数本のナイフが装着されていて、背中には大きなアサルトライフルM16A2を背負っている。


「せ、せ、戦場?」


丈一郎は、もう一度呟いた。


「丈一郎・・・、いいか?覚悟をきめろ」


その男は、丈一郎の前にしゃがみ込むと静かに言った。


「お前が、どの様な理由でここに運ばれて来たのかは知らない。だが、お前は今現在、この戦場にいる。いいか?お前に残された道は二つしかない。この戦場で死ぬか?生きるか?だ」


その男はそう言うと、丈一郎の眼を見た。


「意味が・・・意味が・・・わからない」


丈一郎が言葉を吐いた瞬間。


その男は、丈一郎の右頬を拳で殴っていた。


「がはっ!」


丈一郎は、もんどりうって草木を生い茂る地面を滑る。


「どうだ?痛いか?」


その男は続けて言う。


「これは夢なんかじゃない。現実を見ろ!生き抜く為には、自分の力で戦うしかない!わかったか!」


その男は、丈一郎の首を掴んだ。


「う・・・はい・・・」


丈一郎は、ただ単に返事をした。


今、何が起こっているのかさえわからない状況で、これ以上痛い思いをしたくなかったからだ。


「もう一度言うぞ。ここは日本じゃない。お前は、この戦場に捨てられたのだ。そして、戦場でのルールはただ一つ。自分の命は自分で守れ。生き残りたかったら、敵を殺すしかない」


その男は、丈一郎の首から手を離すと、親指と人差し指を口元に持っていき、鳥の鳴き声の様な音を鳴らした。

その音は、緑の生い茂った山の中を縦横無尽に走る。


数分後。


周りの木々から、ザザッと言う音がしたと思うと、数人の男達が現れた。


全員、その男と同じ様な恰好をしている。

腰や背中にナイフやアサルトライフルM16A2を背負っているのだ。


「ミスター・サイガ、この坊主をどうするつもりだ?」


大柄な体格の黒人が言葉を放つ。


その表情は、硬い。


「自分の身は自分で守らせる」


ミスター・サイガと呼ばれた男は、周り集まった男達に聞こえる様に答える。


「それは・・・連れて行くってことか?」


髪の長い韓国人が静かな声で問いただす。


「ああ。このまま、ここに残しておいても死ぬだけだ。それなら、せめて生きる可能性をこの坊主に与えてやりたい」


ミスター・サイガと呼ばれる男は静かに語る。


「ミスター・サイガ、俺はあんたを尊敬している。今まであんたの意見にはほとんど賛成してきたが、今回だけは賛成できないぞ!」


大柄な体格の黒人は、横にある大木に背中を預けた。

首の太さ、胸板、腕の太さ、どれをとっても尋常ではない大きさである。


「これは、俺のわがまま。お前達には迷惑はかけない」


ミスター・サイガと呼ばれる男は、少し頭を下げた。


「ははは!冗談は止してくれよ、ミスター・サイガ!この状況をわかっているのか?戦場だぞ?この坊主を連れて行くだと?正気の沙汰じゃねぇーぞ!」


眼鏡をかけた華奢な体格の白人が叫んだ。


「状況はわかっている。だが、俺はこの坊主を連れて行く」


ミスター・サイガと呼ばれた男は、頑なに言い放つ。


「皆、一旦落ち着きましょう」


物静かな口調で言葉を投げかけたのは、背の低い中国人だ。


「まずは、この状況を整理しなくてはいけないでしょう。そうでしょ?」


背の低い中国人は、ポケットから煙草を取り出すと、口元に持っていった。


そして、今置かれている状況を話し出した。


場所は、中部アフリカのコンゴ民主共和国、旧ザイール共和国である。

この国は、民族間同士の内戦が数十年以上も起こっており、すでに約四百万人強の死者を出している史上最悪の戦場でもある。


その戦場に、我々は政府側の傭兵として雇われているのだ。


目的は、都市キンドゥ付近を根城にしている反政府軍の一グループを抹殺することである。


そして、首都キンシャサから東へ八百キロ先にある政府軍の村に到着したのが、昨日のことであった。


ここで、ミスター・サイガ達に思いもかけない出来事が起こる。


なんと、夜中に数台の車がやってきて、一人の少年を寄越してきたのだ。


それが、風間丈一郎であった。


寄越してきた?


いや、それは語弊があるかもしれない。


もっと丁寧に言うと、村に入ってきた数台の車は、スピードを緩めずに、後部座席から風間丈一郎を地面に放り投げ去って行ったのである。


ミスター・サイガ達は、数台の車が村に入ってきた瞬間には、反政府軍グループの攻撃では?と思い、すばやく物陰に隠れ、アサルトライフルM16A2を構えていた。


あまりの出来事に、誰もが唖然とした。


黒い布で目隠しをされて、両手・両足を紐で縛られた少年が、いきなり捨てられたのである。


それも日本人である。


ミスター・サイガ達は、その少年に近付き、生存状態を確認するが、静かに眠っていた。

どうやら、麻酔か何かで眠らされているのであろうと悟った。


「と、言う状況なわけです」


背の低い中国人は、いかにも自慢げに言った。


「あいかわらず、お前の説明は長いな」


髪の長い韓国人はそう言うと、背の低い中国人を見下ろした。


「どうしても連れて行く気だな?ミスター・サイガ」


大柄な体格の黒人は両目を閉じて言う。


「ああ。すまない」


その男は周りにいる男達を見回した。


「わかった。その代り、俺達はどんなことがあろうと、その坊主を助けないぞ。負傷しようが、死ぬことになろうが、ノープロブレムだ」


大柄な黒人は両目をカッと見開いてミスター・サイガを見た。


「オーケー!オーケー!」


眼鏡をかけた華奢な白人は舌打ちをすると、踵を返して歩き出した。

大柄な体格の黒人、背の低い中国人、髪の長い韓国人も後に続いて歩き出す。


「丈一郎、これを持て」


ミスター・サイガはそう言うと、丈一郎に大きなアサルトライフルM16A2とナイフを渡した。そして、アサルトライフルの使い方を簡単にレクチャーする。


「いいか?自分の身は自分で守れ。それが、戦場でのルールだ」


ミスター・サイガは丈一郎の両肩に手を置いて言った。


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