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ラヴの世界  作者: カチョリーナ・ちゅちゅるぶ
4/7

女心と秋の空って言うけど春でもそうなんですか?

 どうも。土肥です。


 えっ? 誰だ、お前って?

 やだなあ、土肥ですよ。土肥。


 さて今回も僕が語り手です。

 なんかハマっちゃったかもしれません。



 桃田先輩と樺原さんはあの麻未ちゃんの結婚式を破壊した日から付き合いはじめました。

 もうそれはラブラブで。見てるこっちが恥ずかしいぐらいでした。

 麻未ちゃんは結婚は潰されたものの相変わらずモテモテで、誰の彼女なのかわからないぐらいでした。


 僕は、1人でした。


 いや、そりゃ、バンドの仲間はいましたけどね。

 それが前述した3人なもんだから……

 メンバー4人でいる時が一番孤独を感じました。


 僕が桃田先輩のカバンに『shineshineshineshine』と落書きをしていると、麻未ちゃんが見かねて声を掛けて来てくれました。

「うちの友達に可愛い娘いるんだけど、紹介しよっか?」と!


 僕は「へっ。いらねーよ」と無理をして言いました。


「あ、そうなんだ」と麻未ちゃんが行ってしまおうとしたので、慌ててそのシャツの背中を掴みました。



 春の海は穏やかで、人がいませんでした。

 スギの花粉がいっぱい飛んでて、ファンタジーみたいな黄色い世界で僕は(はな)をかみました。

「お待たせー」と、堤防の上から麻未ちゃんの声がしました。

 見上げるとショートカットの歌のおねえさんみたいな麻未ちゃんが手を振っており、その隣には茶色のロングヘアーを風になびかせて彼女が立っていました。


 2人は階段を降りて、こちらへやって来ました。

 さくさくと砂浜に足音を立てて、彼女が近づいて来るたびに僕は自分の顔がとても嬉しそうに変わるのを感じました。

 ハーフパンツから伸びた白い足がとても綺麗でした。細くはなかったけど、まるで大根みたいで綺麗でした。


「この娘、崎山汐里(さきやましおり)ちゃん」

 麻未ちゃんが彼女を紹介し、僕のことも彼女に紹介してくれました。

「こちらあたしのバンドでドラムやってる土肥……くん」

 麻未ちゃんは僕の下の名前を覚えていませんでした。


「よろしくね、土肥くん」

 汐里ちゃんが僕に右手を差し出しました。

「へっ。仕方ねーな」

 僕はその手を握りました。物凄い笑顔になってたと思います。


 彼女の手は歩いて来たためか汗で濡れてて、しっとりしてて、冷たいようなあったかいような、そんなような気持ちの良さでした。


「じゃあ海で定番のあれでもやろっか」と、汐里ちゃんが言いました。

「ああ、あれな。仕方ねーな」と、僕は頷きました。

「じゃ、あとは若いお二人で」と、おばさんみたいなことを言って麻未ちゃんは帰って行きました。


「アハハ!」僕は彼女の手を引っ張り、波打ち際を駆けました。

「ウフフ」彼女は僕に手を引かれ、白い帽子が飛ばないように手で押さえ、ついて来ました。

「キャハハ!」僕はだんだん調子に乗って来ました。

「アハハっ!」汐里ちゃんもそんな僕に乗せられたのか、ハメを外しているようでした。


 日が暮れはじめるまで、僕と汐里ちゃんは海辺にいました。

 砂浜に彼女のためにハンカチを敷いて、僕は直に砂浜に腰を下ろして、並んでゆっくり落ちて行く太陽を眺めていました。


「そうなんだ。子供にロックを好きになってもらえるようなバンドを目指してるんだ?」汐里ちゃんが言いました。

「そう。昔、僕はレッチリを聴いて衝撃を受けた。中2の頃な。あれを今の子らに、もっと早く起こしてやりたいんだ。今ある中2病を、小5病ぐらいに変えたいんだよ」

 僕は言ったけど、それは自分の言葉ではありませんでした。桃田先輩がいつも言ってる言葉でした。桃田先輩の受け売りを、僕はさも自分が考えてることのように、彼女に語りました。

「カッコいいね」と、彼女は笑ってくれました。「そういうの、いいかも」


 夕陽が照らす彼女の横顔はとても綺麗でした。

 僕はその横顔を見つめ、もじもじして、砂浜にloveと書いてすぐに消して、ごまかすように夕陽を見つめました。


 先生。

 教えてください。

 恋愛って、何ですか?

 学校じゃ教えてくれないし、学ぶ方法がわかりません。

 今、彼女の手を繋いでもいいのでしょうか?

 今、どこまでしたらいいのでしょうか?

 普通の人の恋のやり方がわからないんです。

 上手な人は教わらなくても上手くできるみたいなのに、僕にはどうやら才能がないみたいです。

 こんなに甘酸っぱい気持ちになっちゃったら、これをどうしたらいいんですか?

 教科書には載ってないし、

 ネットのハウツーは胡散臭いし。

 彼女を本気で好きになったかどうか、どうやったら判断できるのですか?

 そして本気で好きになったなら……

 僕は何て言葉にしたらいいのでしょう?


 僕はその日、家に帰るとそんな詩を書きました。

 バンドで曲をつけてやりたかったけど、恥ずかしくて遂に提出できませんでした。

 桃田先輩と樺原さんはどうしてあんなに簡単にラブラブになれたんだろう?

 汐里ちゃんはずっと笑ってくれてた。

 僕に好意をもってくれてるみたいに見えた。

 でも自分は素直じゃなくて、ずっとカッコつけてた気がする。

 へっ。べつにお前みたいな女なんかに興味はねーよ。みたいな態度をしてたような気がする。


 もっと素直に好意を示しておけばよかった。

 飲み物ぐらい自動販売機で買って来て彼女に渡せばよかった。

 可愛いねとか褒めてあげればよかった。いや、そんなのキモがられるのかな。わからない。わからない。

 でもいい雰囲気だったよね? 彼女は僕に好意をもってくれたよね?

 ベッドに寝転がってあれこれ考えてるうちに涙が出て来ました。

 それは僕の頬を伝わって枕を濡らしました。

 なんで人間て、こんな気持ちになるんだろうと思いました。

 明日、彼女にもう一度会って、正式に付き合ってくださいと告白するんだ。

 そう思いました。



 昨日と同じ砂浜に僕は立ちました。

 堤防の上には桃田先輩と樺原さんが僕を応援するため駆けつけてくれていました。

 暫く待っていると、麻未ちゃんがその向こうから走って来るのが見えました。

 汐里ちゃんを連れて、走って来るのが見えました。


 汐里ちゃんは堤防に手をかけると、僕に手を振りました。

 昨日と同じ笑顔で、少し遠くから僕を見て微笑みました。


「そこから伝えてー!?」麻未ちゃんが僕に向かって叫びました。「汐里ちゃんに、君の想いをー!」


 砂浜に立って、僕は堤防の上に立つ汐里ちゃんを見つめ、言いました。

「僕は……君が……好きです」


「ドゥービー!」桃田先輩が僕に向かって叫びました。「聞こえないよー!」

「もっと腹から声、出さんかーいっ!」樺原さんも笑顔で僕に叫びました。「どつくぐらい大きな声、出したれー!」


 僕は大きく息を吸いました。

 メガホンみたいに口に両手を当てて、汐里ちゃんの顔をまっすぐ見つめて、大声で叫びました。


「汐里ちゃん! 僕は! 君のことが、好きだーーーっ!!!」


 汐里ちゃんは笑顔で僕の言葉を受け止めてくれました。

 その笑顔がだんだんと消えて行くのを、僕は見ました。

「やだ」と彼女の口が動くのを僕は見ました。「キモい」と動いたのを見たような気もしました。


 彼女はそのまま僕に背を向け、帰って行きました。

 麻未ちゃんが慌てて彼女を追いかけました。桃田先輩も、樺原さんも、呆気に取られて彼女を見送りました。

 僕は砂浜に取り残されて、膝をつきました。

 (はなみず)がつつーと流れたのは花粉のせいだと思いました。


 彼女はどうやら昨日のカッコつけた僕のほうがよかったみたいで。

 素直になった僕に幻滅してしまったみたいで。




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