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ラヴの世界  作者: カチョリーナ・ちゅちゅるぶ
3/7

結婚式に乱入できるのはイケメンに限る

 どうも。土肥です。


 えっ? 誰かわからない?

 まあ……仕方ないですよね、そりゃ。ブクマ0の小説の、しかも脇役ですもん。


 前回、桃田先輩に無理やりバンドのドラマーとして加入させられて、『ドゥービー』ってあだ名をつけられた土肥ですよ。思い出してくれました?


 今回は僕、土肥が語り手です。よろしくお願いします。

 小説の語り手なんてやるの初めてなんで、緊張してます。


 あ、僕が語り手やるからって、樺原さんが病気で倒れたとかじゃないですよ? 元気です。

 ただ、桃田先輩の葬式で忙しいだけです。安心してください。




 さて、大学の頃の話ですね。

 桃田先輩と樺原先輩はまだ単なる同じバンドの仲間で、付き合ってはいませんでした。

 僕らは組んだバンドに『わっふぅ』という名前をつけて、幼稚園や老人ホームを主に回って活動していました。

 桃田先輩のギターはやかましく、樺原さんのベースはマニアックで、僕のドラムはまだまだ下手でした。

 普通なら子供たちからは無視されて、ご老人たちからは苦情を言われて出入り禁止になるところだったでしょう。

 そうならなかったのは、ただ一重にボーカルの仙道麻未(せんどうまみ)ちゃんの魅力のお陰だったと思います。

 彼女はちっちゃく、可愛く、何より歌のおねえさんみたいな歌声で、子供たちやご老人を癒しました。



 その麻未ちゃんが突然、結婚することになりました。

 相手は同じ大学の金持ちの先輩。学生結婚です。

 みんなのアイドル麻未ちゃんもお金の力には弱かったんでしょうね。


 大学構内の教会で結婚式が行われました。

 新郎はキザったらしい熊みたいな男でしたが、麻未ちゃんは幸せそうでした。熊みたいな顔が福沢諭吉ばりのイケメンに見えていたんでしょうね。


 樺原さんは麻未ちゃんのお母さん代わりに隣の後ろのほうに座っていました。僕は神父役をやらされました。

 何しろすべてを学生でやった結婚式だったので、麻未ちゃんのほうも新郎のほうも親族には内緒だったそうです。


 指輪交換の時は緊張しました。神父役の僕は長いセリフを読むことになってたので。


「止める時もすすすこやかなる時も」

 僕が言うと後ろから樺原さんがツッコミました。

「何を止めるねん! 病気やろ!」

 僕は言い直しました。

「病める時もすすすすこーん」

 樺原さんがまたツッコミました。

「よし! その調子ですべったらええ! 誰もお前に期待してへん!」

「でででは、指輪の交換を」


 麻未ちゃんと新郎が向かい合い、手を握りあい、見つめ合いました。

 指輪を交換したら、キスをすることになっています。

 2人が指輪を互いの指に嵌めようとしたその時、教会の入口が激しい音を立てて開きました。


「その結婚、待った!」


 颯爽と登場した桃田先輩が2人に向かって叫んだのです。

 先輩はまるでエルビス・プレスリーみたいな派手な格好をしていました。


「なんだ貴様?」

 熊みたいな新郎が先輩を睨みつけます。

 先輩も負けじとホリケンみたいな顔で睨み返しました。


「ボクの名前は桃田民男。『た』が3つ続いて言いにくかったら『タミー』って呼んでね」

 まずはお決まりの挨拶をすると、

「彼女はオレのものだ!」

 先輩がはっきりとそう言いました。

 僕は麻未ちゃんのほうを見ました。彼女はなんだか飛び上がって喜んでました。


「何を言うか、貴様」

 新郎は魔王みたいな声で凄みました。

「麻未は俺の財力の前にひれ伏したのだ。貴様のような貧乏人の出る幕ではない!」

 新郎は麻未ちゃんが自分のどこに惚れたのかよくわかってるようでした。


「何をぅ」

 桃田先輩が蛇拳の構えを取りました。

「彼女をとりもろす!」

 いい所でロレツが回ってませんでした。


「やるのかァ、貴様?」

 新郎もプロレスの構えを取りました。

 熊みたいなだけにとても強そうです。

「他人の恋路を邪魔するヤツは死ぬがいい!」

 本気で殺す気マンマンでした。


「そのセリフ、そっくりお返ししもす」

 今度は噛んだ。でも先輩の目は本気でした。

「カネの世界とラヴの世界を一緒にするなーーッ!」


 桃田先輩が飛びました。

 バレエダンサーのように。

 熊みたいな新郎の目の前に華麗に着地すると、そのまま立ち上がり、相手の顎に痛烈な頭突きを食らわせました。


「がぶん!」と一言叫ぶと、新郎は後ろに倒れ、気を失いました。

 見かけ倒しだった、コイツ。


「タミー!」

 麻未ちゃんが恥ずかしげもなく先輩のニックネームを叫びました。

 結婚式をぶち壊されたのに、最高に幸せそうな笑顔でした。

「嬉しい! こういう映画みたいな展開、憧れてたの!」

 歌のおねえさんみたいな可愛い声で、ウェディングドレス姿の麻未ちゃんは桃田先輩に向かって駆け出しました。

 桃田先輩もゆっくりと、成し遂げた男の凛々しい顔で、麻未ちゃんに歩み寄りました。

 そのまま2人の結婚式に移行するんだろうなあ、と思いながら僕は見守ってました。

 正直早く帰ってゲームがしたかったので、早くしてくれないかなあと思いながら。

 麻未ちゃんが手を伸ばしました。先輩の胸に飛び込んで抱きつく気マンマンでした。

 先輩はリーゼントで固めた髪を歩きながら櫛で整えると、櫛を胸ポケットにしまい、その手で麻未ちゃんの頬を張り飛ばしました。

 先輩の手の甲が頬にめり込み、麻未ちゃんは綺麗に弧を描いて飛び、参列者の席へ飛び込みました。

 先輩はそのまま前だけ見て歩き続けました。

 先輩の視線の先に、樺原さんがいました。


「ミユッキー」

 先輩は彼女の元に辿り着くと、言いました。

「君のことを愛してる。ボクと付き合ってくれないかい?」


「タミー……」

 樺原さんも恥ずかしげもなく先輩をニックネームで呼び、

「なんでマミちゃんの結婚式であたしに告白すんねん!」

 ハリセンで先輩を豪快に吹っ飛ばそうとしました。


 しかし先輩はこの時だけは吹っ飛びませんでした。

 樺原さんの攻撃も物ともせず、彼女をお姫様抱っこで抱き上げると、キスを迫ったのです。

 そして言いました。

「君を一兆年愛するよ。いいかい?」

「んもう」

 と、樺原さんは呆れたように言うと、遂に笑ったのです。

「こんなムチャクチャなひと、他におれへんわ」


 そして2人は僕らの前で、誓いのキスを交わしました。



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