バンドメンバーは風に飛ばされたアホがさらって来た
やあ、またラヴの世界に来てくれたんですね。嬉しいな!
ボクの名前は桃田民夫。発音しにくかったらタミーって呼んでくださいね。
ああ、思い出す。運命的な出会いをしたボクとミユッキーは、お互いに音楽が大好きだということを知りました。
音楽が好きな人に悪い人はいない。
ドラッグに手を出したあのミュージシャンも、犯罪者だけど、悪い人では、ない。
ボクはそう思います。
さてボクとミユッキーはバンドを立ち上げることになりました。
最初はひどかったなぁ……。
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「ポワポワ~ン」
あの人が歌い出した。
「春はポワポワ~ン」
歌っとるバカの名前は桃田民夫。あたしより2つ年上の先輩や。
あたしの名前は樺原美由紀。友達はみんな『カバちゃん』て呼んでるわ。名前にカバがつくんもあるけど、それより顔がカバみたいやからやな。頭にちっちゃい耳つけたらほんまカバみたいやで?
「たんぽぽ咲いたよPONPONPON」
「そないな『ポンポン菓子』が咲くみたいに咲くたんぽぽがあるかいな!」
あたしはそれ以上聞いてられんようなってツッコんだ。
膝と肘と頭をカクカクさせながら作曲しとった彼は、動きを止めた。
「ミユッキー、それは違うよ」
そして機嫌よさそうに言いよった。
「ポン菓子はもっとこう……ポポン! ポンポン! ホボンっ! ドンドンドォーン! って激しく咲くものさ」
「どーでもえぇわ!」
あたしが持っていたハリセンでどつくと、あの人は隣の教室まで飛んで行った。そして背の低い男の子と手を繋いで戻って来た。
「メンバー希望者を連れて来たよ」と、彼は言った。
「あっ……あのっ……あのっ……?」と、連れて来られた子は言った。
「担当はたぶんドラムだよ。名前はまだ知らないけど、よろしく!」と、彼は言った。
「いえっ……。はあ!? あのっ……?」と、ドラマーは言った。
あたしと先輩は二人でバンドを立ち上げようという話になっとった。
せやけどあたしらは軽音に所属するわけでもなく、機材もなければ音を鳴らせる場所もあらへんかった。
まあ、ギターとベースはどこででも鳴らせる。問題はドラムやった。
「名前はっ?」
桃田先輩が聞くと、連れて来られた子は答えた。
「どっ……どどどど土肥です」
「土井? 土居? それとも土肥?」
「最後のです」あたしには全部おんなじに聞こえた。
「じゃあ君のことはこれから『ドゥービー』って呼ぶね」
「嫌です! 恥ずかしいです!」
「ようしドゥービー。いいバンドを作るためにわかり合おう」桃田先輩は質問を繰り出した。「子供は好きかい?」何の関係があんねん。
しかし土肥くんは健気に答えよった。「あっ。ぼく、子供は大好きです」優しそうな子やもんな。「永遠に大人になりたくない派なんで」誰がそんなこと聞いてんねん、このピーターパン。
「いい答えだ」まじかい。「ボクは子供達に好きになってもらえるようなロックがやりたいんだ」いやそれあたし今初めて聞いたんやけど? ああ、せやからPONPONPONかいな?「あとメンバー全員歌えるビートルズのようなバンドを目指したい」それも初耳……て、あたしも歌うんかいな!? 言うとくけどあたし、カバみたいな顔して歌声めっちゃ可愛いで!? ええんかいな!? 看板詐欺みたいになるで!?「さて、これでギター、ベース、ドラムが揃ったね」土肥くん有無を言わさず仲間入りや。「最後にもう1人、一番肝心なパート、ボーカルを探そう」
「ビートルズ違ったんかい!!」
あたしのハリセンがまたあの人を今度は中庭まで吹っ飛ばした。
あの人はなかなか帰って来んかった。
しょうがなくあたしと土肥くんはお喋りしながら彼の帰りを待った。
「ビートルズ言うたら全員ボーカルで、全員楽器持っとって、楽器はギター、ギター、ベース、ドラム、笛、やんなあ?」
「笛はいないと思います」なかなか真面目な子やった。
「見つけたよ!」と言って彼が帰って来た。
その手は綺麗な女の子の手を握っとった。
キラキラしたお目目にサラサラショートヘアーの色白の、あたしと正反対に顔も背も小さな子やった。
その子は歌のお姉さんみたいな声で楽しそうに自己紹介した。
「ボーカル志望の仙道麻未って言いまーす。よろしくお願いしまーす」
それがあたしとマミの宿命的な出会いやった。
そしてその時、土肥くんは遂に下の名前を聞いてもらえずじまいやった。