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ラヴの世界  作者: カチョリーナ・ちゅちゅるぶ
1/7

民夫と美由紀の出会い、そしてホ○ケンは突然に

 ラヴの世界へようこそ。


 僕の名前は桃田民夫(ももたたみお)。言いにくかったらタミーって呼んでくださいね。


 僕はもうすぐ死ぬけど、それほど悲しくもないんだ。

 だって素敵なベイビーが側にいてくれるからね。


 あぁ……。

 思い出すなぁ……。

 あれは二人が大学生の頃だった。


 あの日、ラヴの世界が始まったんだ。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 あたしの名前は樺原美由紀(かばはらみゆき)。友達はみんな『カバちゃん』って呼んでるわ。名前より顔がカバみたいやからな。


 確かにな、(あご)(たくま)しいしな。頭にちっちゃい耳つけたらもう、カバにしか見えんやろな。

 せやけど普通言うか~? 太っとる女性のことブタちゃんとか、猿っぽい女性のことエテちゃんとか?

 まぁ、名前が樺原やからしゃーないんやわ。

 カバ言うな! て、どついても、「名前のことやんか~(笑)」て誤魔化せるもんな。


 あたしのこと『ミユッキー』って呼ぶの、あのひとだけや。


 あぁ、思い出すわ。あれはあたしが大学に入学して間もない頃やった。あたしが中庭で読書しとったら、突然あのひとが声を掛けて来てくれたんや。


 あん時読んでたのは確か『純愛小説 ~お姫様抱っこのしあわせ~』やったな。

 あたしは読了した『お姫様抱っこのしあわせ』を閉じると、こう思ったんや。


 ――どうして美しい恋愛は物語の中にしかないの?


 いや、そん頃のあたし、男性と付き合ったことすらなかったんやけどな。

 そんで溜め息ついて、また思ったんや。


 ――永遠の愛なんて存在しない。愛はいつか壊れてなくなるもの……


 なんかどっかでそういうフレーズ聞きかじったんやな、これ。歌かなんかやろな。


 ――ハッピーエンドだった……。二人は結ばれて、小説は終わった……。おめでとう。

 ――でも……書かれていない、この恋の続きは?

 ――どうなったの?


 まぁ、普通、そんなとこまで書かへんわな。平凡な毎日に突入して、刺激なくなって、旦那が「小遣い一万じゃ足らへん、増やしてくれ」言うとこまで書いとったらロマンチックもクソもあらへん。


 っていうか、心の中では標準語になるのあたしの悪いクセやったな。

 関西人のくせに心の中では東京人気取っとったんやな。

 口では「東京人の喋り方、めっさきんもいなー」とか友達に合わせとったくせにな。


 あっ。ていうか、あたし。そん時まだ大学入りたてで友達1人もおらへんかったんや。

 高校ん時は何人かおったけど、みんな県外の大学に進学してもうてバラバラや。

 でも正直な、それが都合がいい思てん。


 高校生活、ひたすら地味やったもん。


 大学生活は派手に、パーッと! 華のある女になったるー! って思っててん。


 まぁ、リセットやな。


 県内で、家から徒歩30分の大学でな。


 あたしの美しい未来を祝福するように青い鳥が2羽、目の前を飛んでたわ。よう見たらスズメやったけどな。


 本を畳んで周りを見渡したら、中庭には男女2人でひっついて歩いとる学生がぎょうさんおった。春は恋の季節やもんな。

 芝生に並んで座り、ペッティングとかしとるバカもおった。春は気のおかしくなる季節やもんな。


 ーーいいもん。私にはアキラがいるもん。

 そう思ってあたしはふふっと笑った。

 アキラってもちろん『お姫様抱っこのしあわせ』に出て来る王子様の名前やで。


『さて……。ぼちぼち移動しなきゃ』

 そう思いながらあたしが立ち上がった時やった。


「おおっ!」

 と突然、横から男の声がするねん。

 振り向いて見ると、そこにはへんな男がおった。

「ワオワオワオ~!」

 細い足をガニ股に曲げ、ワキワキと両腕を動かしながら、何やら嬉しそうにワオワオ()っとった。


 なんとなくネプ○ューンのホリ○ンに似てるな、と思っただけで、あたしは無視して行こうとした。


「ねえねえ! 待ってよん!」

 男が追いかけて来るのであたしは振り返り、言った。

「何やのん!? アンタの喋り方、めっさキモっ!」


「うわぁ。見事な播州弁だねぇ」


「あったり前やろ。ここ、兵庫県やからな。アンタ何? 関東から来たん?」


「神戸さ」


「嘘つきなや! そないな喋り方する神戸人おれへんわ!」


「本当さ。誰も友達がいないので、深夜ラジオばかり聞いていたら、こんな喋り方になってしまったぁ」


「ありえへんわ!」

 そう言いながらあたしは思わず笑ってしまった。

「ところで何か用なん?」


「ああ……。ああ……」

 男は感動するようにあたしの身体を眺め回した。

 隅から隅まで舐め回すように見て来よんねんけど、なぜか嫌らしさは感じんかった。

 ヤツは言った。

「見事なベーシスト体型だ! 君はベースを弾くために産まれて来たんだね!」


「知らんけど」

 そう言われてあたしは自分のプロポーションを改めて見た。

「確かに高校ん時、文化祭でベーシストやったで?」


「似合うよぉ、似合うよぉぉ」

 男はうっとりしながら褒めて来た。

「その高身長に長い手足、広い肩幅。カッコいいい! そしてその、カバのような顔……」


「カバ言うなや!」

 あたしは失礼な男に平手打ちを食らわせた。

 男はキリモミ回転しながら飛んで行き、(くさむら)に突っ込んだ。

 さすがに警察呼ばれるか思って、あたしは慌ててそいつを介抱しようと駆け寄った。そしたらな、そいつテレポートしよってん。

 いつの間にかあたしの背後に偉そうに立って、ふっふっふとか笑ってんねん。

 さすがに背筋にサブイボ立って、振り返るなりツッコんだったわ。

「はしかいな、アンタ! 忍者かいな!」


「そう。ボクは播州弁で言う、はしかいヤツ。標準語で言えばすばしっこいヤツさ」


 するとさっきの(くさむら)の中からむっくりとホ○ケンが立ち上がった。あたし、間違えてホンマモンのホリケンぶっ飛ばしとったんやな。


 ホリケ○はおおらかな広い心であたしのこと許してくれて、場を取り繕うようにへんな踊りを披露してくれると、走り去って行った。なんでそこに○リケンがおったのかは知らんけどな。


 あたしはホ○ケンにしつこいぐらい「ごめんなさい」を言うた。ホリ○ン、ほんまええ人やったわ。こう書かんと誹謗中傷になってまうから言うんやないで?


 振り返るとニセの○リケンみたいなヤツも踊っとった。そしてあたしに言った。

「見ての通り、ボクはホ○ケンじゃないよ? 桃田民夫(ももたたみお)って名前さ。言ってごらん?」


「ももたた……」


「ももたたみおだよん」


「もももたたみ」


「たたみじゃない。たたみじゃないんだ」


「ももたたたみお」


「惜しい! たが1つ多いね!」


 あたしはハッとした。なんであたし、こんなことに付き合ってんねやろ? なんでこんなヤツの名前を必死で覚えようとしてんねやろ? そう思ったけど、その理由は後になってわかった。


 運命やったんや。


 せやけどそん時はわからんやった。あたしもカバやった。違う、バカやった。ただの頭のおかしい気持ち悪いヤツとしか思ってなかった。

 見た目だけで人を判断しとんったんや。


 あの人はあたしに変態を見る目で見られても笑っとった。むしろなんか嬉しそうやった。


「君の名前を教えてくれないかい?」

 彼はそう言った。

「あと出来れば住所と電話番号もね」


 そう言われて素直に教えたのは、若かったせいもある。

 でも、今から思えばあり得んことや。

 運命や。

 運命やったんや。


「樺原美由紀。入学したばっかのピカピカの1年生やで」


 絶対コイツ、軽いノリで「カバ? 顔の通りじゃないかぁ!」とか無礼なこと言って来よるな思て覚悟した。

 でも彼は言ったんや。


「ミユッキーかぁ。君にぴったりな、野に咲くママの味みたいな名前だね」


「ミルキーは野っ原に咲かへんわ!」

 あたしは頬を赤くしてそうツッコんだ。


 彼は続けてこう言った。

「そしてカバ原だって? 顔の通りじゃないかぁ。アハッ、アハハハッ!」


 バシッ!!!



 その日からやった。

 2人のどつき漫才の日々が始まったのは。



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