ある冬の日の帰路
冬の夜は空気が冷えて、街が美しく見えるらしい。鼻の奥に空気の冷たさを感じた。肺に流れ込んでくる空気も冷たいと感じる。この冷感は私を私たらしめると実感させる空気を、思い起こさせるものだ。その体がゾッと震える感じがよくわかる。
正直言って、私は馴れ合いが嫌いだった。小学校の頃、運動のできる男子がみんなをまとめていく様が嫌いだった。彼ら持つものは持たざる者に対して基本的に補償はない。自分の得になるできるものに対しての配慮をするんだ。そして、私はその中の上手く使える人間という枠に収まっていた。人の前に立つ能力はあるか、快活明朗に人に接することができるのか、そのような資質というものに欠ける自分を十分に理解していた。だからこそ、私はその中に収まってしまっている自分、使いやすく動いてしまっている自分が嫌いだった。
心の中にずっと巣食う思いがあった。なぜ彼らは我々に対しての配慮がないのか、上に立つものとしての自覚を持ち、気を配ることはできないのかと。そしてそんな奴は、生徒会長になり、学校で1番盛り上がる学園祭の委員長になり、お前らは最高だと言って泣いたりする。
そして、平気で女子を引き連れて歩くのだ。しかもその女子は可愛いかつ快活ときている。
だからやってられんのだ。無意識の羨望、無意識の羨望、無意識の羨望に違いなかった。いいや、今のは違う決して羨ましくなんかない。あんな場所に立とうとも思わない。あれは裸の王様だ。イエスマンに囲まれて、彼の思うことがなんでも意見として通る。そんな奴は歴史上大抵の場合、滅びるのだ。だったらいいじゃないか、別にあいつが勝手に滅びるのを傍観していれば、あぁそうだ。それで良い。私は私で活動しはじめるのだ。
『おい、秋山。おい!秋山!』
『ん、うぃ』
『おつおつ、なんだよ。なんかボーッとしちゃって』
『いや、まぁな、考えごとよ。』
『そっかそっか。でさ、今回の定期どうだったよ』
『死んだ』
『だよなぁ。あれむずいよな。マジで現代文できねぇんだわ』
『お前文系苦手だし仕方ねぇんじゃねぇか。』
『それな。引きずってらんねぇ。明日のテスト頑張るわ!』
こいつは高校に入ってからできた友人だ。気の良いやつで、都合が合う時はだいたい一緒に帰っている。だいたい同じ学力に分類される受験を抜けてるだけあって、話の合う奴は高校に入ってからは多い。これで、助かっていることも多い。
うちの学校のやつは、宿題でしばかれ過ぎて大抵、目の奥は暗い。そいつらを見ていると私の心は穏やかになる。へへへ、オメェらもつれぇよな。俺もつれぇんだわ。そんな気持ちだ。
我々の多くは電車通学のため、駅に直通の帰り道は大通りの脇を通って帰る。車が結構な速さで多く行き交っている道路だ。途中には、いくつか寺や神社があり、その神社は秋になると銀杏が落ち、朝の登校中の気分を最悪にしているらしい。
それにしても、やはり寒い。明日から手袋がいるかぁ。そしてこれは、雪の降る日の匂いだ。本格的な冬の訪れを感じる。