第二話 熱ノ逃ゲ場
こんにちは。最近周りの環境が変化しすぎて疲れを感じているペンさんです。
今回の話はなかなかにきつい描写が出てきますので、そういったシーンはあまり深く想像しないことをお勧めします。
それでは楽しんでお読みあれ・・・・・・
最初のバイトから1ヶ月がたった。その間もしっかりとバイトを続け、次のバイトでは初めてのお給料が出る予定だった。心の中で、(物事がものすごくうまく行っている)と唱えたことが何度あったことか。内心はよくないと思っていても田舎から出てきた者だから如何せん慣れてないというか、、、、、、、
「いやー、よく寝た。やっぱ本気で疲れた後の睡眠ほど気持ちいものはないな。」
今日の夢のハイライト、やっぱり楽しいんだな、俺。
いや、ちょっと待て。今優しく振り返っていい感じにしようとしていたが何か忘れている。昨日寝る前にやろうとして結局寝落ちしてやれなかったこと、
絶対にやりたかったこと、やらなきゃ行けないこと、
「もしかして、、、、、」
忘れている、その何かに目を瞑って、そのまま勢いよく飛び起きて、メガネをかけて、顔洗って、朝ごはん食べて、、、、、いつも通り出発しようとした。だが、、、
「ちょっと待て。俺何やってんだ。」
「(というか思い出した。何を忘れていたか)」
彼にとって命の次のまた次に重要な、、、」
「講義の課題ダァァァ」
(ああ、どうしようヤバイ。確かにバイトの初日を頑張るのも大切だが、まだ半月ぐらいしか言ってない学校で課題を早速忘れるのは非常にやばい。というか単位落としたら我が名に傷がついてしまう。簡単にいうと、ワラエナイ。ということだ)
「あぁ、そんな冷静に自己分析している場合じゃない。大丈夫。なんとなる。だって講義開始までまだ50分以上あるんだ。いつもはそんな早く終わらないけど、自分を追い込めばなんとかなるさ」
そんな甘い台詞で自分の気持ちをごまかせたのも束の間。次々と頭から流し込まれてくる最悪の状況。心拍数が上がってくる。確実に体が熱くなっている。そして次の瞬間、、
「イソゲェェ、講義開始までの時間で間に合わせロォ」
この時彼は大学直下の寮に住んでいたことを心から感謝し、鼓膜を突き破るような心底大きな声で叫びながら家を後にした。
(大丈夫。なんとかなる。ここから講義の部屋までなんて700mちょっと。引きこも、、勉強熱心な自分にとっては堪える距離だが、背に腹は変えられない)
普段の石見くんとはかけ離れた、それはさながら獲物を狩るチーターのような目で講義室目指してまっしぐらして行った。
お昼休憩
「いやー、今日は実に予定調和、予定調和。」
「どこが予定調和なのよ」
「げ、相模か。てか、なんでそれ知ってんだ」
「知ってるも何も、あなた朝私が声かけたのに完全に無視して飛んで行ったじゃない
も〜困るよそういうのは。こっちだって話したいことあったのに」
「なんだ、話したいことって」
シバくぞ、と言わんばかりの尖った目で
「朝言おうとしていたことなんです〜。だから言わない」
そう放たれたのだった。
(いやー、困ります。学校の重要な脳と心の休息時間なんです。そんな気まずい雰囲気になったら、心がどうしていいかわからずにフル回転しちゃうじゃないですかヤダー)
なんだろう、どことなく居心地悪い、と言わんばかりのオーラを放っている彼女だったが。食べ終わったら、コップ一杯の水を飲み干し、ナプキンで優しく口を拭いて、一言。
「バイト、どうなの。そろそろ1ヶ月なるでしょ。私はしばらくしてなかったから、、人がやってるの見ると心配になっちゃて」
「大丈夫。今のところうまくやってるさ」
「よかった。大丈夫そうで」
(私みたいにならないでね)
「ん?何か言ったか?」
「ううん。何も言ってないよ」
「(どこか様子がおかしい気がするのだが、、女というのは不思議な生き物だ。それくらいよくあることなのだろう)」
昼食を取り終わった二人はその場を後にした。一人は心を置き去りにして。
午後の講義終了後
二人ともサークルなどには特に入っていないことから、部が異なっても、意外と帰る時間は近いのだ。今日は少し相模が遅れていたようだが、、、
「いやー。まいったまいった。突然あんなどでかい器具持ってきて、実験の解説するなんて。
名門校と言われるだけあって、特異点ばかりだよ」
本当に今日は酷かった。訳のわからないどでかいパチンコ玉みたいなの持ってきて、
「質量保存の法則からみてこれが私に当たることはない」とかいって急にニュートンのゆりかごみたいなの始めるしさ。
「ほんとにねー。そんなめんどくさい事なんかせずに、今時なんだからさ、動画とかで解説してくれたらいいのにね。ほんと。」
「ハイテクを駆使したほうが絶対効率がいいのにな」
何が嫌で大学まできて紙に文字を書かなきゃならないんだ。せっかく新進気鋭の先生と最新鋭の学習を取り入れてるって聞いて入学したのにさ。
「全然システマティックじゃないよね」
「もっと楽な方法とか考えてくれたらいいのにね」
「言い出しといてあれだけど、学校終わっても勉強の話なんて息苦しいじゃん。あの夕日でもみてぼんやりしようぜ〜。目の保養〜目の保養〜」
今日は夕日が綺麗だ。何者にも変えがたい。希望に満ち溢れていて自分たちを誘って、いや引き込んでその世界に閉じ込められそうなほど、視界いっぱいに広がる夕日は美しかった。
しかし、いつの時代も夕日というのか片時で消え去ってしまう存在だった。そんな儚く人々の心を魅了してきた夕日は今日も、、、今日だけは絶望という苦い後味を残して沈んでいった。
「君はどこか力が抜けるとほんとお気楽になるよね〜」
相模は気づかれない程度に少し肩を寄せた。もちろん、そういう周囲の変化に疎い石見君は気づくはずもなかったのだが、、、
相模はほっとしたようにニコッと笑って見せて、二人はたわいもない会話をしながら同じ帰路を辿ってそれぞれの心の拠り所『家』に戻るのだった。
帰宅後
何か思い出したげな様子で風呂から上がった石見は冷蔵庫の扉に手をかけた。冷蔵庫のメモをみて思い出した。
「そういや明日給料日だった」
「(いや〜、バイトとは言えども結構大変なもんだなぁ。ただのティッシュ配りなのに、接客じみたことさせられて、、、まぁ、初日以来めんどくさい客には会ってないからいいけど)」
そう1ヶ月の自らの行いを振り返って、自らを褒めるのであった。学業も大切だが、そうやっていつもの風景を多角的に見るのも悪くないかもしれないな。
「なーんて、振り返ってもしょうがないか〜。さ、明日は結構遅い時間にバイトが入ってるんだ、しっかり寝とかないと」
なぜ遅い時間にティッシュ配りなんか?と思った人もいるかもしれない。実は僕も最初は驚いた。だが実はビラ配りとかも仕事の一環だったらしい。どこか、派遣見たいな感じの雰囲気もあるようで。同じ系列店なら別のところで別の仕事。というのもあるらしい。実は求人広告の下の方の備考欄に書いてあったのだが、しっかりと見なかった僕が悪い。そう割り切ってとりあえず入れるときには入ってバイトを続けてきた。
「さ、寝るか」
そう言って電気を消そうとした瞬間 プルルル と電話が鳴り出した。こんな遅くに何事かと思って画面を見ると、そこには相模の文字が映し出されていた。あまり電話は好きではなかったが、仕方がないので出ることにした。
「こんな遅くにどうした?」
「ちょっと大学の課題でわからないことがあって、聞いておきたかったんだけど。もう寝てた?」
「いやいや、そんなことないけど」
まさか心理学部の専売課題とかじゃないだろうな。そんな違う学部の特異すぎる内容聞かれても答えられないのだが、、、、
「数式のところで分からないところがあってね。それを教えてほしいんだけど、電話で伝えるのも手間だし、こっち来てくれないかな?」
「あー、わかったわかった。そんじゃノートとペンだけもってそっち行くわ」
時計を見たら午後10時。こんな時間から誰かの部屋に行くなんてなかなかにおかしな話だが、まぁ行くといった手前行かないわけにもいかない。そう思って部屋を後にするのだった。
呼び鈴を前にしてスッと深呼吸。 そして呼び鈴を押す。軽やかな音が一切生気のしない闇夜に消えていく。そして一言
「どうぞ〜」
「お邪魔しまーす」
まぁ、勉強を教えるなんてそんな時間のかからないことだろう。さっと済ませて早めに帰ろう。
そう、思いながらとりあえずテーブルに腰掛けた。
「時間も時間だから、勉強に集中してもらうために、これ、飲んで。」
細長くもバランスの整った凛々しい手から、まるで母親のような優しい声で温かいコーヒーが手渡される。
「よしっ、そんじゃ遅いしささっと終わらせてこ」
「やさしいね〜君は。ありがと。えっと、分からないとこはここなんだけど・・・」
もちろん、一度は講義で聞いたことのある内容なので、そのときに教授が言っていたことを頭の中で再生しながら教えた。そんなことを繰り返していると、ここに来てから知らぬ間に1時間を優に超えていたらしい。
「ゲッ、もうこんな時間かよ。そろそろ終わるか?」
時計の針は午前0時。遅い、間違いなく。こんな言い方もなんだが異性の部屋にこんな時間までいるとは何事か。なんて柄でもないことを考えていると、トンッと乾いた音が鳴る。ふと視線を横にずらすと、こっちから終わるかと聞かなくても良かったようだ。
「あ、寝てる。まぁ1日講義受けた上での勉強会だったもんな。仕方がないのかな。」
とりあえず、幸いワンルームなので近くにあったベットの掛け布団を被せる。寝ているというのに、心底疲れた様子の顔に向かって、
「おやすみ」
と言って部屋を後にした。
長かった1日も終わり、部屋に帰った僕は一頻り教えた内容を振り返った。そして、コップいっぱいの水を飲み干した後、ベットに潜った。
翌朝
「ふぁ。よく寝た。昨日の夜はかなり遅かったけど、熟睡できていたようだ。」
昨日、自分にしてはかなり遅い時刻まで起きていた。まぁ、理由は察しの通りだが。しかし、
勉強を教えるついでに自分の講義中に出ていた課題も終わっていたので、今日は昨日のように焦り散らかしていく必要はないようだ。
だからと言って特別何かすることもないので、ご飯を食べて歯を磨いて、身支度済ませて、家を出ていった。
午前講義中
「あ〜。せんせん頭はいらん」
(なんやかんや言って昨日遅くまで一緒に起きて勉強をしていた相模。最後は寝落ちしていたが向こうの課題は終わっているのだろうか?詳しいことは知らないからなんとも言えないが・・)
そう。彼は良心からか、昨日のことが心配になって、珍しくぜんぜん勉強が手につかないまま講義を聞き流していたのである。
(一応向こうも大学生だ。寮に住まわせるぐらいなんだから多少なりともしっかりしているんだろうが、昨日あんな時間に当たり前のように家に招き入れたんだ。大丈夫かよ・・・)
どれだけ心配しようと今は仕方がないので、とりあえず後で見てどんな講義だったかわかるように、事細かに講義の内容をノートに板書することにした。
昼休憩
彼はいつものように窓際の席にいた。しかし、とても爽やかな窓際の席とはかけ離れたような邪悪なムードを放ちながら肘をついて、お昼ご飯を貪っていた。
「あーー。もう。大事な授業の一行一行が何も頭に入らんのだが」
「どうすんだよ。どっかに録画があるわけでもないのによ」
「後で教授にもう一回講義の内容を聞きに行こうかな、、でも今日はバイトの日だしそんなことしてる時間ないしな、、、、」
彼はひとしきり文句を小声で吐き捨てた後、目にも止まらぬ速さでご飯を口にかきこんで、さっと口をナプキンで拭いた。しかし、何か物足りない。お腹は空いていないのに何かと考えていると、、
「あれ、今日相模いないじゃん。いつも大体学食来んのに」
不思議だ。彼はそのとき講義中に心配していたことを忘れているらしい。完全に本能のまま目の前のご飯に貪りついた結果、かき消されてしまったらしい。ほんとにこんな奴が賢いのか、と心配になるが、腐っても上位の成績で入学してきた奴だ。人に教えれるぐらいには賢いらしい。
「まぁ、たまには来ない日があってもおかしくないか」
ね?完全に忘れてるでしょう。
午後の講義終了後
「さ、今日はバイトなんだ。早めに帰って、準備して出発しないと。」
学食の時もだが、今日は一回も相模を見ていない。なかなか珍しいことだが、何せ人間だ。一日や二日こなくたってなんらおかしな話ではない。
そんなことより今は自分のことだ。なんてったて今日は給料日。時間をギュッと凝縮した魔法の紙をもらいにいくんだ。それは意気込んで行かなければ。
そう思ってからは早かった。いつもより明らかに早い足取りで、自宅に戻って、いつもは最低限の身嗜みも今日は一段に気を使って、顔を洗い直したり、歯を磨き直したり。わかりやすすぎる心丸出しの行為を終わらせると、いつも通りコップいっぱいの水を飲み切って、一言。
「それじゃ。行きますか」
明らかに早いのだが、向こうで時間を潰すことも考えてなんと 3時間前 に家を出発した。
どんに遅くても30分で着く距離に 3時間 余裕持たせるとは。どんだけ緊張してんだよ。と言ってやりたいところだが、それほど舞い上がっていたんだろう。若気の至りだ。笑って見てやろう。しかし、この半端じゃない期待と喜びは、考えもつかない形で打ち砕かれるのである。
バイト開始10分前
とりあえず、商業施設に隣接しているコーヒーショップでコーヒーを嗜みながらネットニュースなどを見て時間を潰した。若干酔っ払いに注意。という記事に心を煽られた気がしたが、今日は隣接している商店街でのビラ配りだ。もちろん飲み屋とかも多い。だけど、そんな話聞いたことがないので、まぁ考えすぎなんだろう。
「僕は考えすぎるのが得意だ。ハハ」
静かに笑ってごまかした
インバイトスタート
今日のバイトは、商店街でのビラ配りだ。ビラ配りと言ってお、普通のビラ配りとは違う。だって舞台は夜の商店街だ。酔っ払いに絡まれることも念頭に入れながら慎重にかつ大胆に仕掛けていくべきだろう。
今日のノルマは0時までにビラを全て配りきること。内容なんかこの際どうでも良い。
頑張ってできるだけ早く終わらせよう。
一人目「とりあえず受け取っとくやつ」
尖った眼差しで、スマホを見つめている。これは世に言う歩きスマホとやらか。大丈夫かよ。
石見「どうぞー」
客「ありがと」
そう一言言って立ち去った。なんてそっけない人なんだ。もう少し人から物を受け取る時の態度ってもんがあるんじゃないのか。そう思ったが、とりあえずビラの数を一枚でも消費してくれた神様だ、文句はいえないだろう。
一人目クリア
その後、同じようにそっけない態度で受け取っていく人が大半だった。中には軽い笑顔で返してくれる人もいたが。みんなどれだけ予定とかに追われてるんだよ。まぁ課題を終わらせるために寮を飛び出て大学に走った俺が言えたことじゃないが。
そんなこんなで何人ぐらいに配っただろう。多分87枚目だ。結構配った。さぁラストスパートだ。そう意気込んだ時悲劇が起きた。時計の針はもう夕に10時を超えている。そこから導き出される悲劇とは。
二人目「潰れるまで飲んだおっさん」
かなり千鳥足だ。でも来る人全員に受け取ってもらったほうが早く終わるし。
バイトの先輩とかならこの時こんな明らかに有頂天迎えてるような人に話しかけたりなんかしないだろうが、このときそう言う常識的なもんが分かってなかった俺は早く終わりたいという浅はかな考え方で声をかけてしまった。
石見「どうぞー」
客「あんがとよ。おーいニイチャァン。さむくねぇのかぁ。そんな格好でヨォ。オエッ」
石見「だ、大丈夫ですよ、って、ええぇ」
客は、僕の仕事用のエプロンの上で、思いっきり吐いた。完全に吐いた。気持ちよさそうに。やり切った感じで。
吐いた
どうしよう。こっちまで気持ち悪くなってくる。50代ぐらいのおっさんが、節度を忘れて飲みつぶれた結果、まさかの人の前で吐いた。吐瀉物は実にアルコール臭かった。マダラに広がる茶色い液体はいかにも焼き鳥屋のタレだろうか。
向こうは酒に酔った勢いの行為だ。きっと朝には忘れてるだろう。
この時ネットニュースに載っていた、「今の時期の酔っ払いには注意!五月病で気の病んだサラリーマンが酔い潰れて倒れる報告相次ぐ」という記事を斜め読みでスルーするのではなく見ておけば良かったと心底後悔した。
こんなことがあっては恥ずかしくも、気持ち悪くも、あまりにも居心地が悪すぎて、半泣きのままバイトよう控え室まで走った。
なんとか耐えた。道端で自分までは吐かずに済んだ。ギリギリだった。控え室の中の洗面所で、鏡で自分の顔を見た瞬間耐えられなかった。予定では配り終えた人から順に担当者から給料が手渡される数だったが、もちろん、そんなことできるはずがなく、その日はそのまま家に直帰した。次の日は講義が入っていたが、そんなこと考える余裕なんて今の石見にはもちろんなかった。なんとかこみ上げてくる吐き気をなんとか抑えてベットでただただ白く全く汚れていない天井を見ることしかできなかった。
インバイト強制終了
翌日
今日は悪夢を何回も見た。あまりにもひどい悪夢だった。周りは人だらけ、やっと動いたと思ったら、昨日見た吐瀉物の海に落ちる。上がってきたら、また本人に目の前で噴射された。
もう最悪だ。何度も目覚めた。目覚めるたびにトイレに走った。でも何も出ない。いっそのこと昨日のおっさんみたいに全部吐き切れて仕舞えば良いのに。あいつだけ気持ちよくなれてずるい。とまで思ってしまった。毎回起きるたびに寝汗がひどくて、タオルで必死に拭った。朝生きると、そのタオルでシーツにシミができている程度には拭いていたらしい。
寝れなかったことを鑑みたとしても、この気怠さは以上だ。昨日の吐瀉物から何か感染でもしたのか。仕方がないので熱を測ることすらめんどくさくなり、もうその日は無断で欠席することにした。連絡なんて、怖くて人の話すら聞きたくない。
無論、家から出るのすら、下腹部を見るのすらも怖くなった。
これからどうしていけばいいんだろう。
バイトのこと。どうけりをつけてこればいいのか。考えれば考えるほど、喉の奥の息苦しさは際限無しに僕を締め付けた。常に喉の奥に指を突っ込んだように。
今度はシンクに走った。横には一人暮らしには十分すぎるほどの白色の食器が並んでいた。その美しすぎる白を見るたびに昨日の吐瀉物”ケガレ”が蘇ってきて、えずくのが止まらなかった。
助けをすがることすらできない。なぜかってまだ都会に出ていてすぐの学生だ。頼れるような親族や親しい人は近くに一人もいない。誰にもすがれないと考えると、また・・・・・
お昼休憩
「大丈夫かなぁ。あんな始まってから学食にこない日なんてなかった人なのに、今日はどこ探してもいないな〜。心配だよ。熱でも出してないかな・・」
もちろん相模は心配していた。勉強のやり過ぎで熱出しちゃったんじゃないかとか、あまりにも入学当初から飛ばしすぎて、ついに体が限界を迎えたんじゃないかとか。
如何にもこうにも気が気ではなかったようだ。
「家帰って荷物置いたら一回に見入ってみよう」
電話をしても出ない石見に、珍しすぎるため不安になった相模は一度見にいくことにした。
「もしかしてバイトで何かあったのかなぁ」
どこか予感が的中したような気がしたが、目をつぶって、水を一気に飲んで、午後の授業に集中することにした。
午後の講義終了後
「早く帰らないと」
いつもならどちらかが待って、に帰っていたところだったが、もちろん今日は石見はいない。
通常と違う今日に、違和感からかどこかふわふわと安定していないような感じがした。
いつもより10分も早くついた。これは喋らなかったからだろうか。それとも焦る気持ちが彼女の背中を押したのだろうか。もちろん後者の方であろうが。
とりあえず、着替えて、動きやすいような部屋着になった。わざわざ近くの人の家に行くのにそんな堅苦しい格好で言ったら気を遣わせてしまうかもしれないからだ。
鍵を閉めて、廊下を小走りして呼び鈴を鳴らす。
しかし、なかからは一切音が帰ってこない。物音すらも。おかしいと思い扉を押すと、なんと鍵がかかっていなかった。急いで中に入った。靴を脱ぐことすらも忘れて。心配する気持ちが背中を押そうとしたその時。どこか腐敗臭のような酸っぱい香りがした。何かと思ってシンクを覗き込むと、そこには吐瀉物の中でもまだ消化し切れてなかった少し大きい粒らしきものがシンクの網に引っかかって流れないでいた。自分も思わずえずきかけたがなんとか押し込んで先へ進んだ。
そして根に蚊に当たったので、視線を下にやると、そこにはベットの方から伸びた手が。まさかと思ってベットの方を見ると、とても辛そうな顔で天井を見つめながら気絶している石見がいた。急いで救急車を予防と携帯からスマホを取り出した。しかし、
「誰、、だ、、」
「石見君?石見君!ねぇ生きてる、大丈夫」
「あ、ゲホッ、ゲホッ、大丈夫、あれ、もうこんな時間、俺何してたんだっけ」
「君、気を失ってたんだよ。今私が入ってくるまで。」
「なんで、、どうやって入ってこれたんだ、、、、あぁ、怖い、怖い、怖い、怖い」
突然、石見が暴れ出した。ベットの上で体をくねらせては、急に伸び切ったりと、明らかに奇怪な行動だった。この状況は流石に心理学部の相模でも収集のつけようがない状態だった。
なんとかして止めようとしても、声は届かないし。学術的に考えて心に届く方法で訴えかけても全く通じない。どうしようかと明け暮れていると、ふと一つのことが頭をよぎった。
「自分がされて一番安心したこと」
必死に考えた。小さい頃に母にされて嬉しかったこと。ある時の優しい先生の言葉。フラッシュバックしてくる中で、一つ、確実なものが見えてきた。
「ハグだ」
なんとか足を伸ばしたり、蹴り倒してきたりで暴れる石見を掻い潜りながら、胸の辺りを必死に抱きしめた。ある意味ハグの領域を超えていたかもしれない。石見の体には明らかに量のおかしい冷や汗が垂れ流れていた。しかし、それら、一切を嫌がらずに、全てを受け止めた。
とてもしんどそうにうなされる石見を、その心を。
私は必死に受け止めた
「何があったの」
最初は聞いてもなかなか答えてくれなかった。しかし、時間が経つにつれて、やっと落ち着いてきた石見は相模に、昨日あったこと、今日退学にいけなかったこと。すべてを話した。
そして、過呼吸気味にすべて話終わった後。
真っ赤に染まった目で。かすれるような泣き疲れた声で。
「助けて・・ほしい・・」
と言って、そのまま寝てしまった。彼にとっては命のように大切な勉強道具でさえも、地面の至る所に散乱していた。ノートは1ページ目が破け、表紙には『怖い』と大きな文字で書かれていた。今、途切れ途切れに何があったかは聞いたが、真相はいまいち掴めていない。しかし確定しているのは、間違いなく今の石見君には人の熱”愛情”が必要だ。大量の冷や汗で冷め切った体にも。泣き喚きすぎて疲れ、燃え尽きた体にも。
相模はそっと胸の中で落ち着いた表情で寝る石見を枕に乗せ、汚れたシーツをどけ、ブランケットを被せた。そして、床に散らばった勉強道具、大量のティッシュを片付け、シンクを家から持ってきた手袋をはめ掃除して、窓を開けて喚起した後に、外を見ながら言った。
「あまりにも深い傷すぎる。私が癒してあげられるのかどうか、、、」
何しろ今はどうしようもないことだ。取り合えず、起きるまではそばにいてやろう。そう思ってベットの際に椅子を持ってきて、ゆっくり手を握ってやるのだった。
どうでしたか?
前回からの期間の間にかなり勉強を深めたので、また書き味が変わっていたかと思います。
なんとも安定しなくて、書き方が安定しなくて・・・
悩んでいる最中です。
まぁ、そんな時は寝るに越したことはありません。
また次回の連載でお会いしましょう。それでは〜〜・・・・・・