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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
六月編
95/656

95話

「お疲れさま天良寺くん♪」

 演習が終わると笑顔で近づいてくる変態《憐名》が一人。んだよ。終わったんだからさっさと帰れよ。

「まさかあの数を全部倒しちゃうとは思わなかったよ。すごいねその子。あの二人に比べたら大したことないかもって思ってた自分を恥じちゃうね」

「……あ、そ」

「それになにより予想外なのは天良寺くん! 君自身があそこまで戦えるとは思いもよらなかった! 本当強くてかっこよくて興奮しちゃった……。今夜このままじゃ寝れないかも……」

「んなこたぁどうでもいいから。さっさと帰れ。……あと、約束忘れんなよ」

 お前が今日安眠できるかどうかとか俺には関係ねぇんだよ。それよりも、だ。お前があの約束を忘れてないかが心配だわ。はぐらかされたらたまったもんじゃないからな。一目散に帰りたいところだがせっかく話しかけられたのだからそこだけは確認しておきたい。

「あ~あれね。天良寺くんが負けたら性奴隷ってやつ」

 ちげぇ。一晩好きにされるとかその程度だったはずだ。まぁ、俺もうろ覚えだが。俺が勝ったんだから関係ない。

「……俺が勝ったときのほうは?」

「天良寺くんの嫌がることをしない……だったかな?」

「そう、それ」

 なんだちゃんとわかって……。ん? 嫌がることをしない? あれおかしいな。そんな曖昧な表現だったっけ? 俺のほうは好きにされるとかだったのに。

「うん♪ これからは性的なアプローチは控えるね♪ それでいいんでしょ?」

「あ、あぁ、それでい……い?」

「つまり普通のアプローチなら良いわけだ」

「……は? あれ? 」

「これからは正攻法でいかせてもらうねぇ~♪」

「いや、おい。ちょっとま――」

『次が控えてるんで早く退場してください。雑談は後にしろ(怒)』

 問い質そうとするもアナウンスに邪魔される。ちょっと待って。もう少しだけ待って! ここちゃんとしないと今後の俺の平穏が脅かされる可能性がぁ!

「は~い。すぐ帰りま~す。じゃあまたね~♪」

 あ~くそ! 結局上手くはぐらかされた! 約束したときにもっとちゃんと詳細決めとけば良かった……。あ~……二度と関わるつもりなかったのに。また変な絡み方してきそう。

 ……今後どんな小さな約束事でも細かく決めよう。じゃないと後悔することもあると、今学んだよ。

「天良寺くん! 絶対諦めないからそのつもりでぇ!」

 うるせぇ! どんなに迫られようと俺がなびくことはねぇよ諦めろ。だってお前――。


 ――男じゃねぇか!


 な~んか違和感があると思ったんだよ。俺、女はデブだったりガリガリじゃなければ大概受け入れる。グラマーだろうがスレンダーだろうが最悪ロリ体型だろうがな。顔が良ければなお受け入れる。でも見た目だけなら美少女なはずの憐名にまったく俺の男の部分が反応しなかった。そらそうだ。あいつ男だもん。俺はあくまで女がそういう対象なんだもん。男は対象外だもん。

 今リリンが強く混ざったことで研ぎ澄まされた感覚のお陰でやっと理解できたくらいあいつの女装はレベルが高い。今まで反応しなかったのもきっとリリンの干渉で多少俺に変化があったから。もしリリンと繋がりがなければきっと騙されたままだったろうよ。

 まぁリリンと縁があって、E組なのに白星重ねて目立っちまったから憐名にも目をつけられたんだろうけどな。

「はぁ……」

 もういいや。考えるの疲れた。絡まれたら絡まれたとき考えよう。今はもう早く休みたい。それに。

「にゃーにゃー?」

「……帰るか」

「ん♪」

 今日はコロナをたっぷり甘やかさないとな。俺が思ってたよりずっとすごいヤツだったし。頑張ったもんな。プリンもあとで買ってやろ。



「ロッテ? 何だ出迎えか?」

 観覧席にいたはずのリリンとロッテを迎えに行こうとすると、当のロッテが試合場の出入り口で待っていた。なんか、神妙な顔つきだな。なんかあったのかな?

「……これから儂は信じられない事を言う。しかしこれは事実だ。心して聞いてほしい」

「ん? お、おう」

 なんだもったいぶって。基本真面目なロッテが口ごもるとすごい不安になるんだが……。

「……リリンが倒れた」

「……………………は?」

 予想を遥かに超えた。いや、予想なんてできるわけもない衝撃的すぎる一言に、思考が停止してしまった。

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