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遥か高みの召喚魔帝  作者: 黒井泳鳥
六月編
89/656

89話

「……兄貴には話をつけた」

 青がかった灰色の肌。顔の下半分と左目を包帯で隠し、ボロボロの衣服。よく言えば全身ダメージファッションに身の丈ほどのゴツい鈍器を二本携えた女性が憐名に報告をする。

「ありがとシャロメ♪」

 下着姿で応対する憐名。風呂上がりということもあって暑いから冷ましているところだ。他人の前で裸になるのはシャロメと呼ばれた女性の世界でも非常識なので、表情は隠れているから声色でしか判断できないが彼女は少し呆れ顔になる。

「はぁ……相も変わらずテメェは……。恥ずかしくないのか?」

「眼福でしょ?」

「別に……。ところで姉貴にバレないようにするのは骨だった。追加報酬をいただきたい」

「ん~……別にバレても良かったと思うけど?」

「アホ言いやがれよ。姉貴にバレてもしつまらねぇ仕事だったら私刑リンチされんのはアタシだぜ? この包帯が別の意味でつけることになる」

 シャロメが顔を隠している理由シャロメの兄曰く。可愛い顔してるから相手になめられる。喧嘩でなめられスタートはナンセンス。とのこと。しかし姉の勝手なやつあたりにあえば顔の形が変わる程度にはグチャグチャにされるので本来の用途で包帯を使うことになる。と、言っているのだ。

「じゃあ勝ったときに二割増しにしようかな? タスタロにもそう言っといて。そのがモチベ上がるでしょ?」

「……わかった。兄貴にそう伝える」

「じゃ、これはシャロメのぶんね」

 憐名は小瓶を一つ放り投げる。中に入ってるのは例の虫の体液。平たく言えば媚薬だ。憐名はこの媚薬を餌にシャロメたちの力を借りている。

「それはチップね。バレないように使って」

「……アタシ別にセッ○○に興味ないんだけど」

「オ○ニーくらいはするでしょ? 一人でするときに使っても効くと思うよ♪」

(下品なヤツ)

 とは思うものの、口にはしない。なにせその下品な用途に使う物をもらって向こうで金に変えてるからだ。どこの世界でも多少発達した文化があれば、性に訴えかける物は売れる。たとえ自分が不要としても需要があるのは否定できない。取り分け裏社会ならばなおさら利益は大きい。その利益のお陰でシャロメの兄がリーダーを務める不良チームも一目置かれている。まぁ、それだけが理由ではないが。

(自分では使わないし、姉貴にバレたときにこれで許してもらお。もう普通の男じゃ満足できねぇとか言ってたし。喜んでくれるだろ)

「帰る」

 用件は済んだし、という主語をすっ飛ばす。シャロメは時々言葉を省く癖がある。意味は伝わる程度にしか省かないので誰も咎めはしない。

「うん。ペシナーラにもよろしくね」

「よろしくしちゃダメだろ。バレんだろバカ」

 ケタケタ笑う憐名。もちろん憐名もわかってて言ってる。シャロメはそんな憐名を無視してゲートをくぐる。

「あはハハははッハハハハはははは! 相変わらずヌケてる子! 本当にバレてナイって思ってルんだから可愛イー♪」

 シャロメと代わるように独特の発音のしゃべり方でゲートをくぐって来たのはシャロメと同じ肌色をした長髪の下着姿の女性。スレンダーながらも腰には程よく肉が乗っていて艶かしい空気を放っている。

「いらっしゃいペシナーラ。あんまり意地の悪いこと言わないの。シャロメが可哀想だよ~」

「アはははハハはは! 憐名にダケは言われたくナイね!」

 笑いながらベッドに身を投げるペシナーラ。自分の世界にはない心地の良い感触に酔いしれる。

「はァ~……やっパリ寝心地良い~……。ネェ憐名? これチョーだイ」

「ダメ~。こっちでも子供が買うには高いの。ましてこの部屋にある物ほとんど借り物だし。勝手に人にあげたら私の立つ瀬がないの。今は諦めて」

「ツれなイつレなイ。憐名はツレないつまラナい」

「本当に?」

「ウそうソ。憐名は面白イよ。だカラ私への態度も許シてる。シャロメとタスタロを除けバ憐名にしか許しテナい。裏のオッサんたちにも許しテなイんだよ?」

 彼女らの率いる不良チームがただの子供のお遊びにとどまらず、裏社会で一目置かれてる理由の二つ目が彼女――ペシナーラの存在。ペシナーラは向こうの世界では類い希な戦闘力を保有している。その気になれば力のみで裏社会を牛耳れる程。

「わかってるよ。そのくらいハマってるんでしょ? この子たちに。僕がフランクなのを許してるのは気持ちよくなりたいからだもんねえ~。ドスケベ~♪」

 憐名は小さなゲートを開き虫を一匹喚び出す。ペシナーラは虫を見ると目を見開き頬を紅潮させる。

「ンんンんんン~ッ! 憐名わカッてル~♪ だかラ好き♪」

 ペシナーラは虫をつまむと愛おしいそうに見つめる。シャロメはまだペシナーラは媚薬を使った事があるとは思ってない。一応商品だからだ。だが、媚薬を使うとか使わないとか。そんな生易しいものでもなかった。

「いタダき~♪ あ~ン」

 ペシナーラは虫を丸々飲み込む。体内で媚薬を撒き散らさせるためだ。彼女らの消化器官は強靭なためいずれ虫は胃酸に耐えきれず死に絶えるが、それまでの間快感を供給し続ける。

「んっはぁあああァああァぁぁン!!!」

 強い胃酸で虫が体内でもがき、媚薬を撒き散らす。ペシナーラは内側から犯される快感に喘いだ。

(うっわ~気持ち悪)

 憐名は虫に触れる事はできるが、口にしようだなんて思わない。他人の口や直腸に無理矢理詰め込む時も、少なくとも自分なら自殺ものだなと思っているくらいだ。

(本当。シャロメが知ったらどうなるんだろ? 頭のおかしい姉っていうのはもうわかってるだろうけど)

「エハっ! あァああァイイイイぃぃぃイッ!」

(肉親が自分から気色の悪い虫を飲み込んでる姿なんてさすがにね~。ドン引きしそ。下着姿で引くような純情っ子だし)

「ところで。ペシナーラは今回参加するの?」

「あヒィ~……相手強いンダっけ?」

 質問に答える時だけ素になる。本当に感じてるのかと憐名は疑問に思うが、快楽で呂律と思考が回らないよりかはマシと割り切る。

「わかんない。なにせ今回始めてのお披露目だから」

「え~。じャア別に私イカなくて良くナイ? 家で虫飲ンでる方ガ断然良さソウぅぅゥウうん♪」

(話の途中で喘ぐなよ)

「そうなんだけど。今回どうしても勝ちたいんだよね。勝ったら良い男が手に入るの♪ くふっ。早く抱きたい」

「憐名がそコマで言ウ男なら興味出るケド。むしロソレなら私ジャナクてアレやっちゃえばぁン?」

「ダメ。それだと殺しちゃうから。ついでに下手したら僕も死ぬ。はぁ~……切れない切り札ってゴミ同然だよね? 確実に勝てるのに大事なモノが残らないんだもん。なんであんなのと縁があるやら」

「アハハははははハ! 難儀難儀! 憐名お気ノ毒ぅん♪ 私ニハ余り関係ナいケド」

(関係なくはないだろ。僕に死なれたらその虫との橋渡しがなくなるだろ馬鹿女。あと途中で喘ぐな)

 内心罵倒するものの。ペシナーラの実力は折り紙つきで憐名も認めるところ。どうにかしてやる気を出さして今回の切り札として手札に加えたい。

(ま、そんな難しい話じゃないけどね)

「もしも今回勝てたら~……。そうだな~。虫十匹食べさせたげる」

「本当ォ!?」

 ガバッと身を起こす。全身から体液を垂れ流して汚ならしいと憐名は思うが、それは憐名が性の対象として見ていないからで、普通の男なら直ぐ様押し倒してしまいそうなくらいには艶かしい。が、今はこの場には憐名しかいないので色気に意味はない。

「本当本当。でもあくまで勝てたらね? オールオアるかナッシングしか」

 ニタァと笑みを浮かべる。週に一匹か多くても三匹もらえれば良い方それがまとめて十匹ならば破格にもほどがある。ペシナーラは俄然やる気になった。

「ワカッた。約束。勝たセタら虫十匹ネ。んんンンンンんン~♪ 今日は飲めタシ。次は大量にモラエるのモ決まッタし良イ日♪ 良く寝れソウ」

(いっつも寝るか食うか男貪るかしかしてないって聞いてるぞ~。本能に忠実すぎて笑うわ)

 上機嫌で帰るペシナーラを笑顔で見送る。ゲートが閉じるとベッドに目をやる。

「ま~たこんなに汚して……はぁ~あ。きったねぇ~」

 憐名はゲートを開き、また別の契約者を一人喚び出す。姿は憐名たちと大差のないまるで人間のよう。

「……」

「ペシナーラ見てたら気持ち悪くなっちゃって変な汗かいちゃった。またお風呂入るからその間にシーツ変えといて」

 憐名は下着を脱ぎ捨て風呂へ。契約者は無言で下着を拾いシーツを取り替える。

 ここまでくればわかるだろう。憐名には複数の契約者がいる。それも、数えきれない程の。底知れない憐名。未だこの人物の全貌を知る者は本人しかいない。

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